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2009.02.19
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「青少年対象施設を中心とした各地区拠点施設のあり方」検討プロジェクト報告
2008年09月08日

浅香地区・矢田地区における子育て・教育運動の取り組みについて

青少年拠点施設プロジェクトの第13回会合は、9月8日(月)18時30分から、部落解放同盟浅香支部事務所において開催された。

今回の会合では、浅香・矢田の両地区において子育て・教育運動にかかわっておられる方々より、第二次ヒアリングの結果をふまえた現状の報告をおこなっていただいた。

矢田地区では、今のところ、小中学生や高校生がもと青少年会館を使って何かサークル活動を行うところには至っていないという。ただ、例えば春の大和川での遊び、反戦・反差別を考える夏の集会や秋の人権の集い、スポーツ交流会など、地元で長年続けてきた子ども・若者が参加するイベント的活動は、今もなお継続中とのことである。また、登録サークルによるもと青少年会館の利用は体育館・グラウンドが中心であるが、例えばおはなしボランティアやチャンゴ(朝鮮の太鼓)のサークルなどが、現在も活動を継続中である。このほか、地元の学校などによる「地域連携担当者会議」やいわゆる「同推協」の場で、子育てや教育に関する諸課題について話し合う機会を持っている。なお、矢田地区では、例えば子ども会の再建や放課後の子どもたちの居場所づくり、ボランティア育成などを念頭において、教育NPOの設立を検討中とのことであった。

つぎに浅香地区より報告がなされた。まず、もと青少年会館の現状についてであるが、識字・日本語教室、青年の太鼓サークル等が、青館事業の廃止以後も従来と同様に活動していることが紹介された。ほかでは、子育てサークルの料理講習などもおこなわれているそうである。市民のスポーツ団体による館の利用は活発で、なかでも体育館の利用率がきわめて高いが、その多くは一般利用が占めているという。これは、他のもと青館の現状にも共通してみられる傾向である。

一方、浅香地区からは、地域の住民・保護者による、新たな子育て・教育に関する取り組みが始まりつつあることも紹介された。例えば、浅香支部事務所では、最近になって小学生・中学生の「自主勉強会」が開始されているという。週2回、周辺の大学生らがボランティアとして協力することで開催されているこの勉強会には、数十名の小中学生の登録・参加があるという。事務所のなかで、子どもたちの名前入りの教材のファイルがキチンと揃えられて並んでいる様子などからは、この勉強会が活発におこなわれていることが伺われた。この取り組みは、将来的には地区の子ども会活動の再開にもつながるのではないかとも期待されている。また、地区PTAによるキャンプ活動や夏祭りなど、子どもたちを地区の協力で育てていく試みを、財政的な制約などを乗り越えて今後も活発に行いたいという報告があった。

ところで、青少年会館の廃止による重要な変化としては、その基幹的な事業であった「子どもの広場事業」(以下、広場事業)という、放課後・長期休み期間等における子どもたちの居場所が失われたことが挙げられる。他方で、大阪市によって「児童いきいき放課後事業」(以下、「いきいき事業」)というこれに類したものが実施されている。

だが、今回報告の両地区ともに、これまでに報告を受けた他地区と同様、「いきいき事業」は「広場事業」廃止後の子どもたちにとっての完全な受け皿となっているとはいい難いようである。たとえば、浅香地区からは、地区の小学生のいきいき事業への登録状況は約8割であるものの、実際には「広場事業」から「いきいき事業」への移行になじめない児童が一定の割合で存在しているという話があった。こうした児童たちは、登録はしたものの実際には参加していないケースが多いという。その理由としては「いきいき(事業)はおもしろくない」といった声が挙がっているとのことである。

今後、他の地区でも聞かれるこうした「おもしろくない」という声が何を意味しているのかという点には、おおいに留意していく必要があるだろう。また、中学生は「いきいき事業」の対象ではないため、「広場事業」の廃止で居場所そのものが不在の状態である。これに加え、「障害のある子どもの居場所づくり」という課題もある。大阪市内における小中学生の「居場所」づくりについて、今後、各地区での取組みだけでなく、全市的な施策のあり方の検討が求められるところである。

さらに、この間行われてきた各地区の報告とそれをめぐる議論のなかでは、子ども会の再結成やそれにも関わる「部落の子どもたちのアイデンティティ」をめぐる問題、地区における保護者の子育て・教育のネットワークをどのようにつくりだすのかといった問題など、さまざまな共通する課題が浮かびあがってきた。また、各地区の活動実践を共有する交流会の必要性なども提起された。本プロジェクトにおいても、次回以降、引き続き新たな地区から報告を受けていく予定である。

(文責:池内正史・住友剛)