(1)本プロジェクトの趣旨
2006年5月のいわゆる「飛鳥会事件」以後、大阪市では一連の「同和施策」見直しがすすめられた。また、この「同和施策」見直しの結果、2007年3月に青少年会館条例の廃止、各館配置の市職員の引き上げ、1年間の暫定的な市民利用施設化などが行われ、1970年代以来続いてきた大阪市の青少年会館事業は事実上「解体」された。
このほか、例えば学校や保育所の職員配置、障害者会館や地域老人福祉センターの運営形態の見直しが行われ、人権文化センターについても施設・機能の抜本的な見直し方針などが打ち出された。
このような一連の「同和施策」見直しによる各地区拠点施設の廃止、統廃合や行政職員の削減・引き上げなどの動きは、ただ単に大阪市だけの問題にとどまらず、例えば尼崎市など近隣の自治体においても行われているところである。また、このような地区拠点施設の廃止・統廃合の動向は、昨今の地方自治体の財政難の状況下ではどこでも起こりうることも想定され、いわゆる同和地区だけの問題にとどまらない側面も有する。
このような各地区拠点施設の廃止・統廃合や行政職員の削減・引き上げなどの動向は、各地区の住民生活にどのような影響を与えているのか。また、このような状況に対して、各地区の住民側からどのような自主的な動きが立ち上がっているのか。さらに、その自主的な動きを支援するために、どのような実践的、あるいは施策的な課題があるのか。
本プロジェクトとしては、各地区拠点施設の廃止・統廃合などが住民生活に及ぼす影響を考慮して、早急にこれらの課題を把握し、実践的・施策的な諸提案をとりまとめる必要があると考えた。
ところで、大阪市内の旧青少年会館が担ってきた各地区の小中学生の育成活動、識字教室、課題のある青少年支援活動などについては、現在、地元の自主サークルやNPOなどが担っている。その自主サークルやNPOなどの活動を通じて、各地区の子ども・若者およびその保護者層の生活上の諸課題がどのように現れてきているのか。あるいは、具体的に旧青少年会館の施設を利用して、自主サークルやNPOなどがどのような活動を展開し、そのなかでどのような実践的課題に直面しているのか。
こういった諸課題を把握し、今後に向けての実践的・施策的な諸提案を取りまとめることは、今後、地区拠点施設廃止というよく似た状況に直面することになった他自治体の住民にとっても、貴重な参考材料になることと思われる。
そこで、本プロジェクトとしては、これらの課題に対応するため、2007年7月頃から活動を開始する。なお、大阪市の「同和施策見直し」の状況が今もなお流動的であることを考慮して、当面、2010年7月頃までの3年間の期間限定プロジェクトとして実施する。また、本プロジェクトを通じて把握できた諸課題については、主に部落解放・人権研究所の他の部門・部会、部落解放同盟大阪府連ほか関係する諸団体・研究者などにも情報発信して、その課題への対応策の検討などについて積極的に協力を得ていきたい。
(2)当面の活動内容
- 大阪市内12ヶ所の旧青少年会館の利用状況の把握、特に子ども・若者に関する自主サークル活動が抱えている諸課題の把握。
- 1. を通じての旧青少年会館の周辺地区における家庭の子育ておよび学校の状況の変化、子ども・若者の生活状況の変化などの把握。
- 1.2. の諸課題および状況の把握をふまえた具体的な施策および実践プランの検討。
- 他地区における青少年センター・児童館・隣保館・人権文化センターなどの改革動向に関する情報収集、意見交換など。
- これまでの大阪市の青少年会館事業に関する歴史的な検討作業。
- その他、このプロジェクトの趣旨に関連すると判断される作業。
住友 剛(京都精華大学人文学部)