調査研究の緒とし、東京大学社会科学研究所・全所的プロジェクト研究No.16に掲載された2つのレポートを検証した。これは「グロバライゼーションと福祉国家」(研究代表:大澤真理)の労働班の調査研究を取りまとめたもの。「序章」「結章」を含む全8章からなる報告書の第1章の佐口レポートと第2章の田端レポートを抽出した。
まず、佐口レポートは、1999年から2006年までの大阪府の雇用施策への取り組みを時系列的に取りまとめたもの。長期景気低迷、所謂「失われた10年」において、99年は大阪にとっては有効求人倍率のボトムの年、雇用情勢が府民生活を直撃した時でもあった。
こうした経済・雇用情勢とともに、引き続く「地方分権一括法」の成立、「改正雇用対策法」における地方公共団体の役割、同和対策としての「地対財特法」の失効と、行政を取り巻く状況も大きく変貌を遂げる時期でもある。同時に、厚生労働省が打ち出した「福祉から就労へ」の政策転換と有効にリンクし、労(連合大阪)・政(大阪府、大阪労働局)・使(関西経営者協会)からなる大阪雇用対策会議の取り組みの柱のひとつに「就職困難者」等を位置づけたことと、終焉した同和対策事業の大きな成果の引き継ぎである総合的な生活支援を「地域就労支援事業」の創設にむすびつけていく取り組みを報告している。
8年ちかくに及ぶ取り組みのレポート故に、課題や問題提起には表層的な側面は否めないが、大阪府独自の雇用施策の時系列報告としては、他に見ない格好のレポートと思える。
田端レポートは、地域就労支援事業における先進的かつ典型的とも言える和泉市の取り組みに焦点をあてたもの。04年7月から05年8月までの約1年間を費やした聞きとり調査報告であるとともに、2000年から05年までの和泉市の「就職困難者等」への施策をも取りまとめている。
和泉市行政としての就職困難者等に的を絞った4つの戦略性の高さとして、<1>国の緊急地域雇用創出特別基金事業と大阪府の地域就労支援事業におけるモデル事業と補助金の活用、<2>対象を限定した市の無料職業紹介の実施、<3>生活保護受給者の自立への独自の雇用施策の実施、<4>雇用創出としての企業団地(和泉テクノセンター)の建設、を大きなポイントとして掲げている。
田端レポートにおいても、同和対策事業の大きな礎抜きに、この事業の成功がなしえなかったことを高く評価、とりわけ「・・・就労支援事業の取り組みがなかったとすれば、これらの就職困難者のひとびとのほとんどについて雇用を実現することは難しかったであろうと想定することができる」に、生活領域に密着した地方自治の役割の典型例であると適切に指摘されている。
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