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2005.05.16
部会・研究会活動 <「就労困難な若年者支援」研究会>
 
「就労困難な若年者支援」研究会・学習会報告
2003年6月8日
日本における若年者の社会的包摂のあり方
―『若者自立・挑戦プラン』を社会的排除から考える―

 報告:樋口明彦(大阪大学大学院人間科学研究科)

1.『若者自立・挑戦プラン』

 昨今の就労困難な若年者の増加に対処すべく、政府は2003年4月に「若者自立・挑戦戦略会議」を発足させ、同年6月、「若者自立・挑戦プラン」を策定した。その内容は、第一に、教育段階から職場定着にいたるキャリア形成・就職支援として、学校教育におけるキャリア教育・職業体験の推進や、実務・教育連結型人材育成システム(日本型デュアル・システム)の導入、就職支援相談員によるきめ細かな就職支援、専門的就職相談員(若年キャリアコンサルタント)の養成・配置である。

第二に、若年労働市場の整備である。その具体的な取り組みとしては、多様な就職システムの整備、若年者に求められる人材要件の明確化、学卒・若年者むけの実践能力評価システムの整備が挙げられている。

第三に、若年者の能力向上・就業選択肢の拡大として、高等教育以上における社会人再教育プログラムの開発、専門職大学院の設置促進、大学教育の工夫改善に資する取り組みの強化がある。

そして第四に、若年者の就業機会の創出、すなわち創業に挑戦する人材の養成、即戦力人材の重点的育成、サービス分野を中心とした新たなビジネス市場の拡大が挙げられ、さらに若年者のためのワンストップサービスセンター(いわゆるジョブカフェ)の設置が行われている。

 さらに、2004年6月には、このプランの強化として、キャリア教育の強化、働く意欲の涵養・向上、成長分野を支える人材育成の推進、さらには国民各層が一体となって取り組む「若者の人間力を高めるための国民運動」などが提案されている。

2.『若者自立・挑戦プランの強化』の分析

 この強化策を検討してみると、いくつかの特徴が見出せる。第一に、その政策体系に、根本的な変化が生じているということだ。すなわち、それまでの若年者支援政策の対象は「正社員」「失業者」「フリーター」という三段階であったのが、強化案では、これに「ニート」が加えられた点である。このことにより、政策の軸として、「就業意欲、やる気」、「エートス」が問題とされるようになってきたのである。その具体策が、前述した「働く意欲の涵養・向上」、「人間力を高めるための国民運動」である。前者では、職業についての模索期間を支援することを目的として「若者自立塾」を創設し、また「生活力」「人間力」の向上をねらいとしたヤングジョブスポットの見直しによる働きかけの強化、就職基礎能力速成講座の実施などが打ち出されている。

 しかしながら、これらの政策にはいくつかの課題がある。最も大きな課題として、アウトリーチの問題、すなわちいかにして就労困難な若者と繋がることができるか、この点が未解決である。いかに施策を充実させても、「待ち」の姿勢では、本当に困難を抱える若年者が施策に繋がってはこない。また、公共機関間(学校、職業教育・訓練機関)の連携が不足している。昨今、ライフサイクルにおける職業への移行が多様化・脱標準化しているが、いかにして円滑な移行を実現するのか。それは福祉的な支援だけでは解決不可能なのであって、学校等との連携は欠かせない。さらに、各種事業の実施を、熟慮することなく民間団体へ丸投げしている例も見受けられる。

3.若年者の社会的包摂を進めるために

 日英のニート支援のあり方を見ると、その寄って立つ考え方に大きく違いがあることが分かる。すなわち、日本では、ニートになってしまった人たちへの事後的対応が中心であるのに対し、英国のそれは、ニートになる危険性のある者への事前の対応に関心がむけられている。また、対象年齢についても、日本の場合15歳から34歳までと幅広いのに対し、英国では義務教育終了後(16歳から18歳)というアウトリーチ可能な時期に限定している。さらに日本の政策上、若年者を支えるコミュニティは視野に入っていないのに対し、英国ではコミュニティを基盤としたニート支援が進められている(コネクションズ・サービス)。

 これを念頭においた場合、日本においても、既存の社会資本の活用や地域コミュニティの再開発、社会的ネットワークへの注視を軸とした、社会的包摂のありかたを模索するべきであろう。

(文責:李嘉永)