1.イギリスにおける若年者雇用問題、社会的排除
イギリスにおける若年者の雇用情勢は、失業率が依然として10%を超える厳しい状況だが、90年代の前半に比べて改善している。これは、90年代後半の景気回復の影響もあるが、ブレア政権下での若年者雇用政策の転換によるものも大きい。1997年にブレア政権は、社会的排除防止局を設置し、全国調査を実施した。その結果が”Bridging the Gap”としてまとめられたが、ここでは、いわゆるNEET状態が社会構造的に生み出されていること、既存の社会政策が若年者の抱える課題の複雑さにうまく対応できていないことなどを指摘した。その解決のために、一連の若年雇用施策の改革が打ち出された。それが次に紹介するニューディール・プログラムと、コネクションズである。
2.若年者就業支援策――ニューディール・プログラム
このニューディール・プログラムは、半年以上失業状態にあり、求職者給付を受給している18歳-24歳までの若年者を対象としている。6ヶ月以上求職している若者が求職者給付の受給を継続するためには、ニューディールに参加する必要がある(ワークフェア)。
登録者に対しては、パーソナル・アドバイザーが付けられる。支援の第1段階は「ゲートウェイ」と呼ばれ、就職相談と集中的な求職支援サービスを受ける。求職活動の手法といった、ソーシャルスキル・ソフトスキルの向上が重視されている。
第2段階では、第1段階において仕事を見つけられなかった場合に、いくつかの労働市場プログラムに参加することが義務づけられる。
ただし、このようなニューディール・プログラムの効果については、イギリス国内でも評価が分かれている。プログラム参加者のうち34万人が就職に成功し、若年長期失業者が一掃されたという政府の評価に対し、このようなプログラムがなかったとしても、良好な経済状況のもとで、早晩就職ができたはずだ、という批判もある。しかし、政策の評価においては、これらの数字もさることながら、この施策が、実際の就労意欲の醸成とどのように結びついているかを冷静に見る必要があろう。
3.13歳−19歳の若者に対する教育・雇用支援:コネクションズ
2001年から開始されたコネクションズ・サービスは、関係省庁の機関や民間組織が連携し、複数の専門スタッフが協働して実施されている。13歳から19歳までの若年者に対し、パーソナルアドバイザーのネットワークが、様々な支援を提供している。具体的には、職業に関する様々なアドバイスと、ガイダンスサービスが提供されている。各地域の対象年齢にある若年者全てに責任を負うが、「複合的問題を持つ若者」「学習中断の危機にある若者」、「それほど支援を必要としない若者」という三段階の優先順位が想定されている。また、13歳以上を対象とすることで、学齢期においてもキャリア教育や学校からの離脱の予防、体験学習などを通じ、学習の場からこぼれおちないように配慮している。
4.EUにおけるイギリスの政策の位置
イギリスにおける若年者支援政策の特徴は、エンプロイアビリティ重視と供給サイド指向にある。ワークフェアという、「雇用を通じた福祉」という考え方を軸に、経済的自立を促すことを目標とする点で、自由主義的な性質を有している。これに対し,フランスやドイツといった国では、職業を通じて社会的地位に与かるという理念も強固である。
ただし、EU総体としては、英国のようなワークフェア政策へ次第に転換しつつあるように見受けられる。欧州委員会レベルでの新自由主義的な意見の広がりが背景にあるだろう。なお,この点は、福祉国家から勤労福祉国家(雇用シチズンシップの重視,あるいはシュンペーター主義的なイノベーション論の個人領域への応用)への移行としてとらえることもできるが,他方でそれを超えて,失業問題を個人の責任ととらえる新自由主義的傾向がいっそう強まる動きもある。
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