調査研究

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2005.10.13
部会・研究会活動 <「就労困難な若年者支援」研究会>
 
「就労困難な若年者支援」研究会・学習会報告
2005年5月13日
小杉礼子編『フリーターとニート』の紹介」

内田 龍史(部落解放・人権研究所)

1.序章「若年無業・失業・フリーターの増加」

 本書の目的は、各種支援から取り残される若者たちの実態を把握し、特に家庭背景や友人関係などといった、これまで充分に捉えられてこなかった領域にも目を向けることである。ここでまず、日本型ニートを「社会活動に参加していないため、将来の社会的なコストになる可能性があり、現在の就業支援策では十分活性化できていない存在」とし、統計的には「15〜34歳の非労働力のうち、主に通学でも、主に家事でもない者」と定義した。

 この定義に従って統計を見ると、次のような特徴が見えてくるとする。つまり男性がよりニートになりやすく、また若い人ほどなりやすい。また19歳・23歳に出現率が高く、就職に成功することなく卒業していく人たちがいることがわかる。また中卒者割合が高く、ここから高校中退者がニートになりやすいことが垣間見える。親との同居が多く、また具体的な希望職種がない人々も多い。

2.第1章「『スムーズな移行』の失敗」:トランジッション

 若者達がフリーター・ニートになっているのは、学校から職業への移行が何らかの形で失敗しているからだ、という前提のもと、では、どういうところでそのルートから降りていったのかを検討している。それには4つの段階があり、「最初の段階」、「斡旋プロセスで斡旋が成立しなかった」「早期離職」「離学後、離職後に再就職しない」というものである。

 それぞれの段階では、本人の問題だけではなく、彼・彼女らを取り巻く学校や職場の事情により、うまく就職に結び付けない事例が紹介されている。これらの事情から必要な政策としては、まずそれぞれの移行の隘路を明らかにし、それぞれの対応策を取るべきとし、中等教育段階での中退・卒業者に対しては、就業準備教育(体験的教育や職業訓練など)を取り入れたり、職業的観点からの情報提供や相談などのサポートが必要であるとする。また、高等教育中退者については、入学後の個別的なキャリア相談等の充実が挙げられる。さらには、新規学卒者を前提としない就業サポートや採用のあり方を模索すべきだとする。

3.第2章「支援機関としての学校」:学校教育

 次に、移行支援の主たる担い手であった学校の支援の現状を検討している。前提にあるのは、高卒求人が絶対的に減少しており、まじめに学校に行っていても、就職に結び付けず、いわゆる「実績関係」を維持できないという事情である。高卒者については、まず学校からの支援を受けるタイプとそうでないタイプにわけられるが、後者については進路指導に反発する者、学業不振のため進路指導外にある者、進路指導を忌避する者に分かれる。移行支援としては、教員側から積極的に働きかけたり、ハローワークを在学中から利用させたりするなどがあるが、反発タイプ・支援外タイプは支援が困難な状況である。

 高等教育においては、中等教育の場合にくらべて支援はさらに薄い。若者の側も、あまり積極的に利用しない状況である。ここでの問題は、やりたいことが何かを悩んでいる若者に対する支援が困難であること、人間関係構築の失敗から、社会からの孤立につながる場合、さらに困難であることである。この点に対しては、学校に入りなおすという選択肢が検討されてよいし、また学校外の支援機関の役割が重要となってくる。

4.第3章「家庭環境から見る」:家庭背景

 この章では、学校から仕事への移行の危機に直面している若者の成長過程で、親や家庭環境はどのような役割を果たしてきたのかという点を検討している。ここでは、幾つかの問題意識が示されているが、中でも社会階層の問題と地域経済の影響を考えなければならないとしている。つまり、若年者の就労問題が日本では社会階層問題として扱われず、高学歴層・中流階層出身の若者に関心が集まりがちであり、背景にある低い社会階層が抱えている問題が軽視されてしまう傾向がある。

 ここに焦点を当てる必要があるし、また地域経済の停滞が若年者の就職に大きな影響を及ぼしている点を看過してはならないとしている。そこで、教育に対する親の関心と、家庭の経済状況を軸に、「放任型」「就職難型」「期待はずれ型」「複雑事情型」に類型化し、それぞれの状況を検討している。いずれにしても、支援の方向性としては、家庭からのアプローチが不可欠であり、公共的な支援システムを充実し、学校、家庭、企業と連携をとりながら、職につくための支援をしていく必要があるとする。

5.終章「職業生活への移行が困難な若者」:若者の類型化

 職業への移行に対する阻害要因としては、高校への求人が減少し、正社員就職が困難になっている状況がある。また、非典型雇用の需要が拡大し、アルバイトに流れている。さらには、過年度卒業・留年は新規採用でハンディになっており、就職者に対しても、過重な負担が掛かっている。職場に仲間集団が形成されないという問題もある。

 ここで求められる支援としては、地域主導のワンストップサービスや、ネットワーク型のシステムにより多様なニーズに合わせた幅広い就業支援サービスを体系的に提供できる体制をつくること(就職斡旋や教育訓練機会への接続、キャリア形成支援、情報提供など)や、学校教育の充実と同時に学校以外の社会化装置による補完的支援の提供、高等教育におけるキャリア教育と職業的な専門教育の展開などがある。さらに、新規学卒の就職・採用慣行の見直しを検討すべきである。

(文責:李嘉永)