本書の討論の意義としては、<1>水平(社)運動の内包する多様性、<2>水平(社)運動の伏流、<3>全般的な運動史の補正、<4>共時的な問題群の再考、<5>日本近現代史、マイノリティ研究への視点が示されていることがあげられるが、マイノリティや戦時下の運動に対する論究など、論争性を持つ主題の提示が行われた第4章〜第6章が特におもしろい。
内容に関しては<1>「水平社伝説」の実体が不明瞭である、<2>「水平社伝説」は歴史学以外の諸相もある、<3>水平運動、融和運動を包括的に研究対象としてきた藤野理論への批判が足りない、<4>天皇制と部落問題論の限界から個々人の思想的追求(人物史研究)へという図式が出てきた、と捉えていいのか、<5>「連帯」をめぐる地域的差異への視点が論究されていない、<6>マイノリティと部落の連帯の問題は都市固有のものではないか、<7>「民族自決」「人種差別」「臣民平等」「親鸞信仰」という思想は水平運動・融和運動ともに共有するものだったのではないか、<8>戦後部落問題における戦時下の議論が提起されていない、<9>『近代日本と水平社』以降の研究課題がどのように検討されているのか、という疑問が示された。
評者から出された各論題について、執筆者および参加者間で議論が行われた。