本書は、部落民の主体性を多様な角度から明らかにしようとする問題意識に貫かれているおり、部落の多様性、水平運動の多様性への重点的な視点が示されているとの評価がなされた。
その上で議論として、第1に、思想と実態との関係、もしくは部落の実態と差別観念との関係について、本書には運動に対する社会思想の影響を重視する藤野豊氏の研究に対する批判が見られるが、社会思想は一見外在的に見えるものの、「頂点的な思想」と「民衆レベルの意識」とは排他的な関係にあるのではなく、内発的なものも含むのではないか、という疑問が発せられた。
第2に、労働者・部落民・民族意識など多様な主体性の相互連関をどのように考えればよいのか、という評者の問題意識に照らして、その仮説として、佐野学や平沼騏一郎の「国民性」に関する議論の共通点から、労働する者=「人間」であるから労働者と部落民との連帯が可能だと考えたのではないか、というロジックが提示された。
評者から出された各論題について、執筆者および参加者間で議論が行われた。