本書の特徴は、融和運動や水平運動の中間派などを尊重する姿勢で貫かれている点である。この点については、秋定の主張の特徴である、<1>階級差別―政治体制の変革ではなく、身分差別―社会的差別としての側面を重視する、<2>経済的上昇を個人的ではなく集団的に達成しようとする社会民主主義的路線を高く評価する、<3>衡平社・民俗学・文学など「部落史周辺」に着目する、<4>融和運動研究などマルクス主義の強い影響下で行われてきた戦後の部落史研究を批判的に見直すという先駆的業績、から導かれる。
しかし、「はじめに」で提起されている「市民社会」についての定義が曖昧であること、女性差別や障害者差別への言及を避けていることに対する疑問や、部落史通史と国民国家論との関係をどうとらえるのか、などの論点が評者より表された。
全体の議論においては、「社会民主主義」や「市民社会」の定義が曖昧である、「社会民主主義」史観が本書に反映されていない、近年の部落史研究の知見が組み込まれていない、部落差別を解消過程としてとらえて良いのか、「市民社会」は国民国家の枠内での議論にすぎないのではないか、戦後歴史学の枠組み内での戦後歴史学批判にすぎないのではないか、などの論点を中心に議論がなされた。