本報告では、第一に、通婚は増えているけれども結婚差別は減っていないという見解を各種のデータをもとに示し、通婚と被差別体験は異なる位相にあることを明らかにする。第二に、結婚差別が生じる要因について検討する。
2000年の大阪府調査の年齢別回答を見る限り、一貫して3割前後が同和問題が関係して結婚が破談になった経験があると回答している。また、部落・部落外の組み合わせの通婚カップルの20.6%が、結婚の過程で何らかの反対をうけたと回答しており、若くなるほど被差別体験が減っているわけでもない。
他方、通婚については、一貫して夫婦とも出身のケースが減少し、通婚カップルが増加している。通婚の増加要因として、見合結婚から恋愛結婚への結婚形態の変動があげられる。通婚率・結婚形態ともに大きく変動しているのは1960-70年代の高度経済成長期と推測可能であるから、この時期に家族単位から個人単位の結婚、部落同士・部落外同士の結婚から通婚へと転換したのである。その背景には、農村から都市への人口の流入など、地域移動を伴う都市化、小家族化、核家族化、個人化の進展など、マクロな社会変動があげられる。加えて、部落の就労構造の変化も大きい。1960年代の高度経済成長により、部落においても若年層を中心に安定的な職業に就くものが増えはじめた。恋愛結婚カップルの出会いのきっかけとして最も多いのは職場であるから、安定的な就業の結果としての通婚の増加という側面もある。さらに、「あからさまな」忌避的態度の減少も通婚増加の要因である。
以上のように、家柄の釣り合いと相互の身元保証を重視する見合結婚は、部落外どうし、部落内どうしの結婚を前提としていたのであり、結婚差別事象はむしろ恋愛結婚の増大に伴って顕在・増加したと言える。
結婚忌避・差別の要因としては、部落問題に関する要因と、配偶者選択のメカニズムに起因する要因に大別できる。部落問題に関する要因として、家意識・偏見・レイシズム・部落差別の現状認識があげられる。
配偶者選択のメカニズム要因としては、「内婚―外婚原理」「同類婚―異類婚原理」があげられる。部落外マジョリティが「内婚」や「同類婚」に対する規範を強く内面化し、部落出身者の存在を異質かつ不利益を被る存在とみなしている限り、通婚は忌避されるべきものとなるのである。加えて、一般的に、マジョリティどうしの、結婚後の生活の「安定」が予測される結婚が「幸せな結婚」とされるが、差別される可能性を包含する何らかの「不安定」を伴うマイノリティとの結婚は、結婚相手として望ましくないものとされる。このような意味で、結婚忌避はマジョリティからすれば合理的な状況判断にもとづいた行為になってしまうという側面もあり、そこに結婚差別の根強さの理由がある。
なお、配偶者選択の場面において、部落出身であることが顕在化しない限り、結婚差別は起こらない。しかし、部落に住んでいる、部落に関係する仕事に就いている、出身者自らがカムアウトするなどして、実際には何らかの形で顕在化している。大阪府の2000年度調査では、通婚カップルのうち6割以上が出身を告げるなどして部落出身であることが顕在化した上で結婚している。また、結婚前に告知する傾向は若い人ほど多く、告知の理由は「自分のすべてを知ってもらいたかったから」が最も多い。こうした傾向から今後も出身を明らかにした上で結婚する通婚カップルの割合は増加すると考えられるが、逆に出身を告げることによって差別を受ける可能性が高くなることも否めない。出身が明らかになった上でも差別を受けないような仕組み作りが求められている。(文責・事務局)