|
||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
啓発事業<部落解放・人権大学講座>
|
||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
|
||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
自由研究レポート
「高齢者の人権問題-高齢社会対策の実態と将来への展望-」部落解放・人権大学講座 |
||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
1.はじめに自由課題専門研究レポートのテーマをどのようなものにしたらよいか考えるために、87期の講座日程表を見ていた時、あることに気がついた。今回の日程の中に「高齢者の人権」に関する講義がなかったのである。そこで、自習を兼ねてこの高齢者の問題をレポートのテーマにすることを思いついた。 人権や差別の問題は自分のこと、自らの課題として捉えて行動することによってはじめて、全ての人が生き生きと暮らしやすい社会を創造するための初めの一歩が見えてくることを私たちは一連の講座の中で学んできた。老化による肉体的・精神的な衰えは、40歳を過ぎると程度の差こそあれ誰しもが経験することであり、高齢者の問題は全ての人に例外なく訪れる、最も切実な問題といえる。実際に私自身も、髪は薄くなり、手帳や老眼鏡は常に携帯し、部分入歯のために硬いものはなるべく食べず、紙を配る時やスーパの袋をあける時には手の油が少なくなってきたためついペロリとしてしまう。知らず知らずのうちに自分自身の老化ははじまっており、また実母や義父母も元気ではあるとはいえ後期高齢者となるにおよんで、高齢者の問題はまさに他人ごとではないのである。 2005年の年末に「日本の人口がはじめて自然減に」なることをマスコミ各社は報じた。朝日新聞12月23日朝刊では、「縮む日本かすむ未来」とセンセーショナルな見出しを付けて「少子化」の特集記事を掲載していた。ところがこうした記事は、子どもが少なくなることによって、経済・財政・教育の規模と内容が小さくなり、日本の潜在的な競争力が低下してゆくことに対する社会不安を指摘しているだけではなかった。むしろ、年金・介護・医療の下支えをするべき今後の労働者人口の減少をふまえて、世界でもトップを争うほどの高齢化率20%の高齢社会(読売新聞の表記で言えば超高齢社会)の日本において、今後どのような社会保障を実現していったらよいのかという不安要素が、いの一番に指摘されていたのである。つまり、少子化の問題は高齢化との関連の中で最も強く意識されていたのである。では、社会保障を初めとした高齢社会の今日的な問題点とはいったい何であるのか。そこで本レポートでは、高齢者の問題が近年どのように対処されてきたのか、そして今後の課題としての対策にはどのようなものが考えられるのか、自らの明るい将来像への勉強のためにもまとめることとしたい。 なお、高齢者の問題を考えるに当たっては、日常的には使わない様々な“専門用語”の正しい知識が必要となる。また、高齢化社会となった1970年から今日までの35年間において高齢社会対策・社会保障制度に対する制定・改正・改良はめまぐるしく展開した。さらに、高齢者の問題に関する膨大な参考文献はあるものの、内容が今日的にも色あせていない、入門書として読みやすいものもそれほど多くはない。そこで、参考と確認の一助のために、用語解説・年表・参考文献の3要素を文末の参考資料にまとめた。 2.高齢者に関する様々な問題は人権問題といえるのか?老人になることはどういうことか?。40歳代からはじまる老化現象の代表的なものには、白髪・抜け毛・ものわすれ・老眼・自歯減少(入歯)・分泌物の変化・難聴・加齢臭・白内障・尿失禁、更年期障害・勃起不全(ED)、肥満・糖尿・高血圧・痛風、心筋梗塞・脳血栓・脳梗塞、骨粗鬆症などがある。特に70歳を境に身体的・精神的な衰えは顕著となり、筋力低下による転倒骨折などによって寝たきりとなったり、精神的なストレスなどによって認知症(認知失調症)がはじまったりする可能性は全ての人にあるのである。 一年に一歳ずつ年を取って老いてゆきながら、たとえ重度な要介護状態となったとしても、人としての尊厳を持ちながら、幸せに生きぬくこと、そして満足感に包まれて死ぬこと。これが人としての究極の生であり、喜びであろう。となれば、高齢者にかかわる様々な生きてゆきづらい困難とは、まさしく人権問題そのものといってよいのである。 一般に近代以降の日本人は、米食などの穀物を主食として、大豆などの植物性蛋白質、魚などの動物性蛋白質、野菜・海藻などのビタミン・ミネラルなどをバランスよく摂取してきた。脂肪分の摂取が比較的少ないいわゆる健康食が中心だったため、肥満や動脈硬化も少なかったのである。昭和30年代以降の高度成長期を迎えると、アメリカ文化の影響によって肉類の摂取が増えて栄養環境が向上し、経済的な豊かさを背景に冷暖房器具の整備や家屋の断熱化によって生活環境における寒暖の差が減少し、医学の進歩と高度医療の享受によって死亡率が急速に低下してきた。そうした生活の改善が長寿のメカニズムと上手にかみ合って、日本社会は高齢化率7%を1970年に迎えて高齢化社会になり、1994年に14%を到達して高齢社会となった。24年間という世界的にも例のない短い期間に急激な高齢化に直面したが、先進諸国で最も早かったドイツでも40年、ゆっくりだったフランスでは115年もかかった変化である。しかも、イタリアと並んで今や高齢化率は20%、5人に1人が65歳以上の高齢者というまさに“超”のつく高齢社会なのである。 一方国連は、世界的な傾向となった「高齢化による人権問題」に警鐘を鳴らすために、1991年の第46回国連総会において、1999年を「国際高齢者年(International Yearof Older Persons)」と決め、「高齢者のための国連原則(the United Nations Principlesfor Older Persons)」を採択した。「すべての世代のための社会をめざして(towards a society for all ages)」と題して、高齢者が生き生きと生活するためには「自立(independence)」、「参加(participation)」、「ケア(care)」、「自己実現(self-fulfilment)」、「尊厳(dignity)」の要件を実現すること、すなわち身体的・精神的・経済的自立のあり方、就業・ボランティア・政治などの社会参加のあり方、身体的・精神的な介護や医療のあり方、自分の可能性を発展させるための教育的・文化的・精神的・娯楽的資源の利用のあり方、自身の様々な状況に関わらず、身体的・精神的虐待から解放された1人の人間として、公平に扱われ尊重されるべきであるという人としての存在のあり方といった5つの視点から、高齢者に対する様々な問題点をまとめ、国連に参加しているそれぞれの政府が自国プログラムに本原則を組み入れて対策を行うことを奨励した。 こうした国連の取り組みの理念の上に日本も高齢者の問題に対処してきたが、その現実についてもう少し具体に検討してみよう。それには、1995年に制定された「高齢社会対策基本法」と、閣議決定により2001年に改正された「高齢社会対策大綱」の考え方を「導きの糸」とし、毎年発行する内閣府の「高齢社会白書」を参考にしながら現状をまとめることが、比較的要点を得ることができると考える。 3.高齢社会対策の実態「高齢社会対策基本法」「高齢社会対策大綱」「高齢社会白書」では、「就業・所得」「健康・福祉」「学習・社会参加」「生活環境」「調査研究開発の推進」の5つの視点から問題点の整理と高齢社会対策についての取り組みが記されている。これらの項目から高齢者の問題とその対策を再整理してみよう。 (1)就業・所得に関する対策(おさいふの問題)定年後の高齢な人々に対して、雇用の促進と起業の支援、および年金と生活保護などに関する様々な経済的援助についての問題とその対策である。雇用の促進に関しては、2004年に高齢者雇用安定法が改正され、2006年度から「65歳まで定年を段階的に引きあげる」「継続雇用制度の導入」「定年の廃止」のいずれかが事業主に義務づけられ、募集・採用時に年齢制限をした場合には、事業主へ理由開示が義務づけられた。これらにより、60歳から年金が支給される65歳までの間の就労に関して一定の促進効果が期待される。起業の支援とは、長年培った仕事のノーハウを生かして、高齢者が株式会社・有限会社やNPO法人・NGO法人などを立ちあげる際に充分な支援を行うという内容である。年金に関しては、2004年に年金制度改革関連法が成立し、年金制度の新たな国庫負担のあり方などが制定され、高収入高齢者への年金支給の抑制なども盛り込まれた。いづれの案件も、高齢者でも元気なうちに仕事をしたい人には仕事ができる環境を提供することで、生き甲斐の創設と納税者層の拡大をはかり、高齢者にも社会保障の下支えの一部をしてもらうとの方向性をみることができる。生活保護については、1997年には生活保護法(1950年制定)の高齢者に関する部分についての改定があり、介護扶助や生活扶助における介護施設の管理者への交付、介護扶助の方法などが制定された。しかし、保護の補足性、生活扶助の場が被保護者の居宅に制限されることなど「利用しうる資産と能力」「ホームレスの高齢者」の点では依然として問題を残している。また、近年は年金収入が充分でない女性の高齢単身者の生活保護取得が増加しており、生活の改善が取り組まれている。 さらに、2000年には「民法」の一部が改正されて、成年後見制度の改正と実施がはかられた。特に、認知失調症患者などに対象を拡大し、法的な援助者の補助制度も新規実施され、法人も後見人になることができるようになった。任意後見契約制度も新設され、戸籍への記載・公示に代わる成年後見登録制度の新設、自治体の申立権の認定なども盛り込まれた。加えて2003年には「長期生活支援資金貸付制度」が実施され、問題は抱えながらも、都道府県の社会福祉協議会が実施主体となってリバース・モゲージ(自分の所有する不動産を担保に生活費を借りることのできる制度)に類似した制度がスタートしている。 (2)健康・福祉に関する対策(からだの問題)健康づくり運動・介護保険制度・介護サービス・高齢者医療に関する対策で、1989年の「高齢者保健福祉推進十カ年戦略」(ゴールドプラン)の策定以降、新ゴールドプラン・ゴールドプラン21によって目標値を見直しながら、高齢者の健康の維持と、高齢者への介護や医療のあり方などの整理と改定がなされた。こうした取り組みの一定の成果が、老人福祉法・老人保健法の相次ぐ改定と、1997年の介護保険法の制定と2000年の施行となって現れている。 社会的入院(病気ではないが病院で看護が必要な人の入院)などによる医療費の増大に一定の歯止めがかかるとともに、介護に関する細かい規定と費用負担の公明性が整えられ、様々な老化に対する予防・予後のあり方に大きな成果があった。また、2006年4月からは介護予防を含めた介護保険の新しいサービスがスタートする(図版参照)。こうした法律や行政の取り組みのほかにも、美しく老いるための化粧の取り組み(気持ちのハリを取り戻す)、自歯維持運動としての歯科医師会の8020運動(80歳で20本)、演歌体操・社交ダンス・水中運動などの体力維持活動、尿失禁に対する運動療法(おむつからの解放)、プレビ食品や濃厚流動食などによる咀嚼健康法(かむことによる脳の活性化)、インターネットを用いた遠隔地医療、映像による記憶の活性化を促す回想(レミニッセンス)療法、動物との触れ合い介護、盆栽や園芸の植物療法、音楽療法、児童・生徒などとの世代間交流などが、各地の介護施設、ボランティアサークル、NPO法人、医療機関における様々な新しい取り組みとして行われるようになってきた。 (3)学習・社会参加に関する対策(いきがいの問題)生涯学習・NPO法人の活動・ボランティア活動・政治などへの高齢者の積極的な参加を促すための支援事業である。1990年に「生涯学習の振興のための施策の推進体制等の整備に関する法律」が制定されて、高齢者対策を視野に入れた生き甲斐作りの一つとして、学習者の自主的な学習の取り組みに対する支援を主眼とした生涯学習を推進する方向が打ち出され、従来の社会教育の枠内に止まらない取り組みがはじまった。そうした生涯学習の取り組みの中から、「男子厨房に入る」教室(男性の自立促進)、シニアネットなどのIT教室(情報阻害からの脱却)、海外旅行やタクシーによる車いす介護旅行などの旅による生き甲斐作り、友愛訪問や合唱サークルなどの老老ボランティア活動、FAXネットなどの既存商店街の再生活動と独居老人の安否確認など、学びと社会参加による生き甲斐作りを中心とした活動へと広まっていった。なお、高齢者の政治参加の点では、2003年の公職選挙法の改正(2004年施工)によって、今まで投票が阻害されていた、あるいは投票に行きづらい高齢者・障がい者に対して、代理記載(選挙における代筆による郵便投票)や不在者投票指定施設における不在者投票制度などが認められた。 (4)生活環境に関する対策(くらしやすさの問題、虐待の問題)住環境の整備、ユニバーサルデザインの街作り、交通・災害・悪徳商法・犯罪・人権侵害などからの安全と保護を中心とした高齢者の生活に直結した支援事業である。住環境の整備については、2001年の「高齢者居住法」制定で、高齢者円滑入居賃貸住宅の登録、高齢者向け優良賃貸住宅の供給促進、終身建物賃貸借契約、高齢者向け住宅改良支援などが盛り込まれ、高齢者が安心して生活できる住居の確保が実施された。2002年には「ハートビル法」の改正によって公官庁やホテルなどの特定建築物に対する一層のバリアフリー化がうたわれ、是正措置命令と罰金刑などが制定された。 ユニバーサルデザインの街作りについては、1992年の兵庫県「福祉の町づくり条例」制定を皮切りに、様々な地方自治体で同様な条例が制定されてきた。そこでは、多様な全ての人々が安全に安心して生活し、かつ社会参加できるように、自宅から交通機関、街中から公共的な建物にまで、ハード・ソフト両面にわたる連続したバリア(障壁)のない生活環境を計画することがうたわれ、実際に地域全体を面的に整備するようになってきた。誰もが歩きやすいように電線などを地下に埋設した電柱のない道路、黄色の点字ブロック、多言語表記のわかりやすいサイン類、自動ドアや多目的トイレ、車いすが回転できるような広い面積のエレベーターの整備、高齢者のタウンモビリティ活動としての電動スクターや車いすの貸出などもこうした条例の支援事業として実施されている。 また、2000年には「交通バリアフリー法」が制定され、公共交通機関のバリアフリー化の目標設定、移動円滑化基準の適合義務化、改善命令措置や罰金刑などが盛り込まれて、誰もが利用しやすい公共交通機関のガイドラインとバリアフリー化への支援が図られた。「らくらくおでかけネット」の運用もこうした取り組みの一環である。 交通・災害・犯罪・人権侵害などからの安全と保護に関しては、高齢歩行者・高齢自転車利用者・高齢自動車運転者らの交通安全と、住宅防火・防災支援対策、悪徳商法・犯罪、虐待などからの保護が課題となっている。交通安全の面では、1998年の道路交通法の改正によって、75歳以上のドライバーについての高齢者講習(安全運転講習・運転実技・運転適性検査、約3時間)の受講義務と、運転免許証の返納制度が制定されて、一定の制約が付与された。 1995年の高齢者の死亡事故については転倒死・転落死が1222件、火災による焼死が561件にのぼった。雪下ろしボランティア活動や、消防庁の「住宅防火基本方針」や中央防災会議の「防災基本計画」、台所事故の防止に関する高齢者支援事業(台所用火災警報機・電磁調理器・センサー付きコンロなどの設置)などが行われている。高齢者が巻き込まれやすい悪徳商法に対する対策では、消費者契約法によるクーリング・オフ制度(訪問販売などの契約における一定期間内での無条件での申し込み撤回や契約解除に関する制度)、不実告知契約・誤信契約・困惑による契約の取り消し方法なども国民生活センターや消費者センターで相談や取り組みをしている。また、オレオレ詐欺などの犯罪に対しては、警察などが情報公開による注意の喚起と捜査をしている。 ところで、高齢者の人権侵害、いわゆる高齢者虐待の問題については、1995年制定の「高齢社会対策基本法」には記載がなく、2001年改正の「高齢社会対策大綱」や平成16年版までの「高齢社会白書」では生活環境の中の高齢者の安全に関する記述の中でわずかに記述されているだけであった。その主な理由は、高齢者虐待の実態に即した調査がなされていなかったことによる。厚生労働省は2003年になってようやく全国の高齢者虐待に関する実態調査にのりだし、平成17年度版「高齢社会白書」においてはじめて応分の記述がなされるようになったのである。高齢者虐待は、高齢者の様々な問題においても早くから社会問題化した事象であり、本来高齢者虐待に関しては「高齢社会対策基本法」や「高齢社会対策大綱」の中でも独立した項目をもうけるべき重要な課題と考える。 2003年以前には、「高齢者虐待における家庭内での主な加害者は、息子が32.1%、嫁20.6%、配偶者20.3%(夫11.8%・妻8.5%)、娘16.3%である」という統計データしかなかったが、それからでは高齢者虐待の実際の状況をうかがうことができなかった。厚生労働省による2003年の高齢者虐待の実態調査では、6698ヵ所の在宅介護サービス事業所などからの回答(回収率約4割)を受けることができた。調査結果については、主たる高齢者に関する加害者は近親者・家族・ヘルパーなどの高齢者をよく知る介護者である場合が多いことが判明した。そして、その6割が介護に関する他からの充分な支援もなく、一人で被害者の介護を背負い込んで孤立して疲れ切り、終わりのない介護に日々負われて、明るい希望のない精神状態に陥り、そのはけ口として高齢者への虐待に進展していく状況を示していた。介護に関する加害者の孤立状態に大きな問題があったのである。そして、高齢者虐待が児童虐待などの他の虐待と最も異なる点は、ギリギリの虐待のすえに、加害者も半数近くが無理心中を含めた自殺を試みており、被害者はいうまでもなく加害者に関しても非常に悲惨な社会現象として表に出てしまう点にあった。 高齢者に対する虐待については、身体的虐待(殴る・蹴る・叩く・つねる・拘束するなど)、心理的虐待(言葉の暴力、嫌がらせの行為など)、無視・放置(ネグレクト、介護が必要な状態なのに世話をせずに放置するなど)、性的虐待(性器をさらして羞恥心をあおる、性行為を強要するなど)、財産的虐待(現金や資産を取り上げ、処分を強要したり、無断で処分するなど)の5つに分類される状況がある。虐待の発生に関する基本的なメカニズムについては、高齢者に対する虐待と、他の人間関係の中で発生する虐待とでは大筋では変わらない。つまり、閉鎖的な環境の中で人間関係のバランスが崩れ、体力面や精神面などで強者と弱者との隔絶した立場ができ、さらに強者が外部から批判されない(見られない)密室的状況が作られる中で、強者が弱者に対して自分勝手な行動をおこし、弱者は身を守るために従順になるしかない関係性が両者の間にできてしまう。そののちに、強者の逸脱行為に歯止めがきかなくなって、甚大な虐待行為にエスカレートしてしまうと考えられている。したがって、虐待防止の対処についても基本的には他の虐待事例と大きくは変わらない。つまり、虐待の事実に関する認識を加害者・被害者の双方が確認し、密室性を弱めてたくさんの他者の目を加えることと、加害者の虐待にまでおよぶ因果関係を究明して原因を解消し、加害者の謝罪による被害者との人間関係の回復が必須である。この修復が不可能な場合には法的対処や被害者の加害者からの隔離が必要となる。したがって、他の虐待の防止と異なるところは因果関係をめぐる点にあり、高齢者を世話する人々が精神的に追いつめられて孤立するような状況に陥らないように、複数の人々による介護の分担を基本とした介護計画を作成することが、虐待への予防的措置としても重要になってきたのである。また、施設介護と高齢者の関係では、オンブズマン制度の導入によって、拘束などの虐待状態のチェックや入居者の要望・要求の迅速な対応がはかれる場合が多い。なお、アメリカでの財産的虐待の報告では、高齢者が虐待者の詐欺的行為に対して全幅の信頼を置いて妄信していた場合があって、高齢者が認知失調症でないがゆえにかえって解決への対処が非常に困難であった事例も紹介されている。 ところで、こうした高齢者への虐待に関しては、2005年に高齢者虐待防止法が制定され、虐待を発見した家族や施設職員らに市町村への通報義務を定めた。通報を受けた市町村長は高齢者の自宅や入所施設への立ち入り調査や、地元の警察署長への援助を求めることができる。また、市町村長や施設長が、虐待をした家族などの養護者と、虐待を受けた高齢者の面会を制限できる規定も盛り込まれた。ようやく国連5原則の「尊厳(dignity)」の要件への対処が日本でもはじまったのであるが、2006年4月からの施行によってどの程度改善が図れるかが今後の課題である。 (5)調査研究開発の推進(将来不安への対処の問題)高齢者に特有の疾病および健康増進に関する医療、高齢者の利用にかかる福祉用具・生活用品、情報通信などの研究開発の推進と基盤の整備に関する支援である。医療の点では、アルツハイマー症による認知失調症・ガン・免疫不全症などの治療法の開発とともに、インフルエンザ感染による施設入居者の多人数死亡への対策、生活習慣病や慢性疾患の予防対策などの取り組みがなされている。またハードの面でも、我が国で6番目の国立高度専門医療センターである「国立長寿医療センター」の設立(2004年)、国立がんセンター内に「がん予防・検診研究センター」の設立(2003年)、全国で3ヵ所(東京都杉並区・愛知県大府市・宮城県仙台市)の「認知症介護研究・研修センター」の設立など研究推進体制の整備が図られている。ただし、研究者の人材養成などについてはまだまだ充分な状況にあるとはいえない。 福祉機器の研究開発に関しては、1993年の「福祉用具の研究開発及び普及の促進に関する法律」の制定と、「福祉用具の研究開発及び普及を促進するための措置に関する基本的な方針」にそった研究助成、情報収集と提供などの支援事業が行われている。また同様に、ユニバーサルデザインによる生活用品の開発・情報通信技術を用いた高齢者の日常生活支援や社会参加推進などへの支援事業もこの間積極的に取り組まれるようになってきた。徘徊老人用携帯電話などGPSを利用したハイテク機器などの研究や、ずり落ちにくい車いすの開発、介護者の腰痛を軽減する腰痛バンドの開発など、地場産業などとも関わったシルバービジネスとしての立ちあげ支援としても重要な事項といえよう。 4.「高齢社会対策」から抜け落ちた諸問題次に、厚生労働省が対処している高齢社会対策や「高齢社会白書」の記述から抜け落ちた諸問題に光をあてて、今後の取り組みの見通しを考えたい。 (1)呼び寄せ老人の問題高齢の夫婦の一方が死去した場合、残された高齢者が単身生活者となっても元気に暮らしているうちはさほど問題がない。しかし、老化が進行したり、収入が減少したり、災害や犯罪被害への対処が充分でなくなってくるなど、子ども世代としてもしだいに不安がつのってくる。そのため、こうした単身生活の高齢者を往々にして子ども世帯に呼び寄せて同居する場合が多い。いわゆる呼び寄せ老人の問題では、高齢者が長年住み慣れた生活圏を離れて新しい人間関係を作ること、一つの生活共同体として確立された子ども世帯の中に初めは部外者としてはいっていき、三世代におよぶ新しい生活共同体の“家族”を再構築する必要があること、要介護状態になった時に在宅介護を中心とした場合は高齢者と介護者(多くの場合は義理の娘<嫁>)との新たな関係性を作らねばならないことなど、人間関係において大きなストレスが高齢者にも子ども世帯の構成員にもかかってくる。近年の研究では、人間関係による大きなストレスの長期化は、副腎皮質ホルモンの長期の分泌を促し、脳内の記憶をつかさどる「海馬」の細胞を死滅させることによって、高齢者においては記憶障害や認知失調症の原因となることもわかってきた。一概にどうすべきと規定しにくい問題ではあるが、介護保険における在宅介護・施設介護の問題としても検討すべき課題である。 (2)高齢者の結婚の問題ヒトは基本的に社会性のある動物である。したがって、仲間を作ろうとする集団性は本能の一部といってよい。その最も小さな集団が恋愛感情を基本としたパートナーとの関係であろう。これは、高齢者になっても基本的には変わらない。ところが、高齢者同士の場合には、日本国憲法第24条の「婚姻は、両性の合意のみに基いて成立」というわけには容易にいかない現実がある。親と子の関係では世間体や財産相続の問題からギクシャクすることが多く、有料老人ホームや養護老人ホームなどの場合は夫婦同室の対応ができないところが多い。人生の晩年のプライベートな生活スタイルに関わることなので、社会的なコンセンサスと共になかなか有効な対策対処が困難な課題でもある。 (3)死に方の問題奈良県斑鳩町に所在する浄土宗清水山吉田寺(きちでんじ)は、天智天皇の勅願により恵心僧都源信が永延元年(987年)に創建したとされる。恵心僧都が母の臨終の際に除魔の祈願をした衣服を着せたところ、苦しむことなく往生をとげられたという寺伝から、「ぽっくりの寺」の異名を持つ。本尊の阿弥陀如来坐像のご宝前で祈祷すれば天寿を全うでき、ぽっくり往生をとげれる霊験あらたかな寺といわれる。苦しまずにポックリと死ぬこと、つまり長患いせずに周囲の者に世話をかけずに眠るように死ぬことは、日本医師会でも「PPK運動」(死ぬ直前までピンピン生きて、コロリと逝こうという運動)があるように、古今東西の理想的な死に方として多くの人々のあこがれでもある。ところが、現実には高度な医療処置によってかえって、死ぬことにはいろいろな制約が課せられることになった。尊厳死・安楽死の問題である。 欧米では、かなり早い段階からホスピス・緩和ケア病棟などの終末期医療に関する取り組みがなされてきた。そうした歴史の中から、1994年アメリカ・カリフォルニア州で「自然死法」が、1997年にはアメリカ・オレゴン州で「尊厳死法」が、2001年にはオランダで「安楽死法」が制定された。一方、日本では1991年に「東海大付属病院事件」が起こり、昏睡状態になっていた末期ガンの男性患者の家族から懇願されて、患者の死期を早める措置をした医師の刑事責任が問われた。この事例では、昏睡状態のため耐え難い肉体的苦痛がなく、昏睡前の患者自身の同意もなかったため、横浜地裁は1995年3月28日判決で執行猶予付きの殺人罪と認定し、有罪が確定した。一方厚生労働省は、2004年7月付で「終末期医療に関する調査等検討会報告書-今後の終末期医療の在り方について-」を発行し、来るべき法整備に向けて、患者への病名や病気の見通しに対する説明と治療方針の決定(インフォームド・コンセント“informed-consent”/患者自身による、自分の病気を「知る権利」と治療法を「決定する権利」)、リビング・ウィル(書面による生前の意思表示/最終意思決定書)や終末期医療のあり方に対する検討を加えた。 さらに、終末期医療の点では、ホスピス・緩和ケア病棟などの問題とともに、宗教などによる心の安寧などの点も充分な検討を加えるべき項目である。「幸せに死ぬこと」は社会的なコンセンサスが達成しにくい、今後の大命題といえよう。 (4)死んだ後の問題大阪市天王寺区に浄土宗坂松山高岳院一心寺という寺院がある。四天王寺の草庵のひとつとしてはじまり、文治元年(1185)法然上人が後白河法皇とともにここで日想観(極楽をイメージするために夕陽を拝むという浄土教の修行のひとつ)をおさめたとされた。嘉永4年(1851)に常施餓鬼法要とともに宗派を問わない納骨が始まり、納められたおよそ5万体の遺骨をもって明治20年(1887)に最初の阿弥陀如来が作られた。以後この「骨仏(こつぶつ)」の信仰習俗は、納骨された10~15万人分の人骨を砕いて、10年ごとに阿弥陀如来坐像1体を造像してきたもので、戦前の6体は戦災で焼失したが、戦後も新たに6体が作られた。一心寺の骨仏信仰のあり方は極めて特殊な形態であるが、墓をもたずに多くの人が先祖をまつる、明治期以降の大阪庶民の知恵のひとつといえよう。 「墓地、埋葬等に関する法律」(1948年制定)によれば、死体は死後24時間を経過した後に「埋葬」(土葬のこと)か「火葬」にし、埋葬・焼骨の埋蔵は「墓地」へ、焼骨の収蔵は「納骨堂」で行うこととされる。火葬を行う「火葬場」、墳墓を設けるための「墓地」、焼骨を収蔵するための「納骨堂」はいずれも都道府県知事の許可を受けなければならない。近年、既存の墓地や納骨堂の購入・賃貸料の高騰を受けて様々な葬送儀礼のあり方が模索されるようになってきた。中でも、海外での実施例の増加から「散骨」についての要望が増え、1991年に法務省は、葬送のための祭祀として、節度をもって行われる限り「散骨」は問題はないとの公式見解を発表した。散骨を請け負う民間会社も増え、方法や場所も、山や川、船や空から海へ、人工衛星による宇宙葬へと多様化している。また、遺体をレーザーで焼いて、遺骨も残らない「レーザー葬」というものもあるらしい。こうした死んだ後の扱われ方に関しては、祖先祭祀におけるまつる者とまつられる者との関係性にも注目して、時代とともに胆力的な運用や法の整備を行う必要がある。 5.おわりに1990年から今日までの15年間は、年金・医療・福祉といった社会保障制度の再構築が急務な課題となり、特に2000年の前後には年金制度や介護保険制度・高齢者虐待防止法などの一通りの改革が急ぎ足で行われ、法律や制度の制定や施行が矢継ぎ早に行われた。団塊の世代といわれる第1次ベビーブーマー(1947~49年生まれ)の第一陣が、2006年4月以降に定年退職を迎える。高度成長期から今日にまでに連なる労働人口構成に大きな変化が到来する直前に、問題なしとは言い難いものの、一連の高齢社会対策の主要な改革は何とか間に合ったのである。では、高齢社会は第3節・第4節でみた現状対策の到達状況で十分な体制が整えられたといえるのであろうか。 ここで重要なのがユニバーサルデザイン(UniversalDesign)という考え方である。ユニバーサルデザインとは、「障害の有無、年齢、性別、国籍、人種等にかかわらず、多様な人々が誰でも利用可能であるように、製品、建物、生活空間、制度、サービス内容を前もって熟慮してデザインすること」をいう。1980年代に、アメリカ・ノースカロライナ州立大学のロナルド・メイスが提唱した。ユニバーサルデザインは、すべての人が人生のある時点で何らかの障害をもつことを発想の起点としており、障害やきまり事などによってもたらされるバリア(物理的障壁、制度や仕組みの障壁・文化と情報の障壁・心理的障壁)に対処し乗り越えてゆこうとするバリアフリーデザインを内包した概念として提示され、目に見えないサービスや情報、思想に至るまで対象は多岐にわたる。ユニバーサルデザインには7つの原則があり、この原則に基づいて「特殊化した設計や改善を行わずに、可能な限りすべての人々に利用しやすい製品と環境をデザイン」していくことが求められている。7つの原則とは「公平な利用(様々な能力を持つ全ての人々にとって役に立ち、さらに市場性があること)」「利用における柔軟性(個人的好みや能力に即して、広い範囲で柔軟に適応させられること)」「単純で直感的な利用(経験・知識・言語能力・その時々の集中力のレベルに関係なく、利用方法が直感的で理解しやすいこと)」「認知できる情報(周辺状況や利用者の感覚能力と関係なく、必要な情報を効果的に伝達させるための対策が講じられていること)」「失敗に対する許容性(予期せぬ行動、意図せぬ行動、危険な行動がもたらした不利益な結果を最小限にするための対策が講じられていること)」「少ない身体的努力(効率的で心地よく、最小限状の疲労の程度で利用できること)」「接近や利用のための大きさと空間(体格・姿勢・移動能力と関係なく、近づいたり、手が届いたり、利用したりするのに、適切な大きさと空間が提供されていること)」である。高齢社会対策や高齢社会白書にも生活支援のなかでも「ユニバーサルデザイン」という用語が登場するが、現状ではバリアフリーデザインの積み重ねの域を出ていない。例えば、車いすを利用する身体障害者に対して、昇降用のリストが付いたリフト付きバスと、床が低く乗降口に階段がない超低床ノンステップバスのどちらが最良か?という相違であり、発想そのものがなかなか後者にはなっていないのである。高齢者が幸せに生活することができる高齢社会は、まずこうしたユニバーサルデザインによる社会の実現を第1目標とするべきである。では、その実現だけで豊かな人権社会に到達できるのであろうか。 次に重要なのはノーマライゼーション(normalization)の考え方である。ノーマライゼーションとは、「社会的に不利を受けやすい人々も、社会の中で他の人々と同じように生活し活動することが、社会の本来あるべき姿(ノーマルな社会)であるという考え方」をいう。この考え方は障がい者の人権問題から導き出された理念であるが、その成り立ちは、デンマークの知的障がい者親の会が、巨大な知的障がい者の施設(コロニー)の中で多くの人権侵害が行われていることを知り、この状況を改善しようという1950年代の運動からはじまっている。ただしこの考え方は、社会的に不利を受けやすい人を一般社会から切り離して特別扱いするのではなく、同じ人間として普通に生活することを目指すがために、設備や人権をはじめとした充分な環境作りがなされていない段階では、物理的・心理的・制度的に不自由な生活を強いられ、他の人々の差別的な視線にさらされることとなる。そうした困難を一歩一歩克服してゆく経過をふまえながら、市民一人一人が有機的に結びついて相互扶助的な新しい地縁社会をつくっていくことが重要なポイントとなり、そうした努力によってあらゆる人がともに住み、ともに生活できるような共生社会を築くことができるのである。このような共生社会の創造のための取り組みが、ノーマライゼーションの基本概念であり、現在の社会福祉における最も重要な基本理念といわれている。 そうした様々な考え方を高齢社会という枠組みの中で考えるならば、生まれたばかりの子どもから100歳を超える老人までの様々な年齢階層の人々が、特定の地域や施設、同じ世代の中だけに閉じこもるのではなく、街の至る所でハード的にもソフト的にも何ら不自由なく自己実現を可能にして、生き生きと共に暮らしていける社会を創造しようということとなる。100歳以上の高齢者が11000人を超し、5人に1人が65歳以上の高齢者となり、第1次ベビーブーマーの定年退職が待ったなしとなった現在、ユニバーサルデザインに根ざしたノーマライゼーションの考え方よる社会の創造が、世界の中でも特に高齢化率が高くなった日本社会の目指すべき明るい未来への目標であると考える。そして、在宅介護・施設介護の枠組みに固定されず、様々な介護の様態を享受しながら、高齢者を支える人々とともに、高齢者自身が多くの人々の温かい目の中でのびのびと生き甲斐を持って暮らし、穏やかに死んでゆける社会を創っていくことが、当面の高齢社会対策のあり方であろうと考える。 参考資料1.用語の解説高齢者・・・65歳以上の老齢者のこと。前期高齢者(65~69歳)と後期高齢者(70歳以上)に区分。70歳の境界が身体的・精神的な老化において大きいことからの分類。 高齢化率・・・高齢者が全人口中にしめる割合。高齢化率が7%をこえた社会を高齢化社会(agingsociety)、高齢化率が14%をこえた社会を高齢社会(agedsociety)という。読売新聞社の連載記事では20%以上を超高齢社会と表記。 高齢者対策・・・高齢者を対象とする諸政策 高齢社会対策・・・高齢化の進展に対して対応が遅れている国民の意識や社会のシステム全体に対して取り組むべき様々な対策 加齢臭・・・40歳代を過ぎると分泌が増加する(70歳代では30歳代の10倍)パルミトオレイン酸という脂肪酸が、皮膚の表面にいる細菌や中高年で増える過酸化脂質によって分解されて発生する「ノネナール」という成分による体臭のこと。 尿失禁・・・自分の意志とは関係なく尿がもれてしまう状態をさし、腹圧性(括約筋や泌尿器を支える筋力の低下などが原因で腹部に力を入れた結果引き起こされる)、切迫性(神経障害や精神的な原因により突然尿意を覚えて我慢できなくなって起こる)、溢流性(尿が出にくくなる排尿障害が原因で一気にあふれ出る)、機能性(身体運動障害や痴呆などが原因で起こる)の4種類がある。老人介護では尿失禁の克服が寝たきりや自立の第一歩になる。 骨粗鬆症・・・骨から主成分のカルシウムが溶け出して、骨組織(骨量・骨密度)が減ってしまう(軽石状になる)病気。 認知症・・・医学上の痴呆症のこと。痴呆という言葉が侮蔑的な雰囲気の表現であることをふまえて、2004年12月24日付厚生労働省老健局長名通知により名称使用の協力依頼がなされた。ただし、日本心理学会などの心理学系の4学会では、「認知」は人間の知的機能をあらわす概念であることから、「認知失調症」の呼称を代案として提起する意見書を厚生労働省に提出している。後天的な脳の器質的障害により、正常に発達した知能が低下した状態をいうが、医学的には知能のほかに記憶や見当識の障害、人格障害などをともなった症候群として定義される。老人性のものとしては、脳血管性(脳出血などの血管障害の後遺症によって、血液が循環しなくなった脳細胞が壊死して起こる。)とアルツハイマー型(特殊な蛋白質が脳に蓄積して老人斑を作り、神経原繊維変化と呼ばれる病変が積み重なって脳が萎縮して起こる。予防と治療法が確立していない。)の2種がある。 介護・・・高齢者・障がい者などの衣食住に対して介抱し世話をすること。在宅介護(家族などによる在宅での介護)・訪問介護(ヘルパーなどの自宅訪問による介護)・通所介護(本人の通所による施設での介護、デイサービス)・短期入所介護(短期間の施設滞在型の介護、ショートステイ)・施設介護(居住施設に長期間入所して受ける介護)などがある。 介護保険制度・・・65歳以上の高齢者、40歳以上65歳未満の医療保険加入者を対象とする介護サービス。サービスの内容は居宅サービスと施設サービスに分けられている。居宅サービスには「家庭を訪問するサービス:訪問介護など」「日帰りで通うサービス:通所介護など」「施設や病院への短期入所サービス:短期入所生活介護など」「その他:福祉用具の貸与など」に分けられ、施設サービスには、介護老人福祉施設(老人福祉法に基づき認可された特別養護老人ホーム、養護老人ホームなど)・介護老人保健施設(介護保険法に基づく老人用の通院介護・短期入所生活介護用の保険施設)・介護療養型医療施設(医療法に基づき許可された病院・診療所の療養型病床群など)での施設介護がある。介護保険の財源は保険料50%、公費50%(国25%都道府県12.5%市町村12.5%)で、利用料は費用の10%。 老人用施設・・・老人福祉法5条3の「老人福祉施設」には、老人デイサービスセンター、老人短期入所施設、養護老人ホーム(身体上、精神上、環境上及び経済上の理由によって家庭で養護を受けることが困難な高齢者向けの公的な施設)、特別養護老人ホーム(寝たきりなどで常時介護が必要な高齢者が入る公的施設)、軽費老人ホーム(無料や低額な料金で、日常生活に支障がない老人向けの生活用施設で、軽費老人ホームA型〔60歳以上で、利用者の生活に充てることのできる資産、所得、仕送り等の収入が利用料の2倍程度《約34万円》以下の者であって、身寄りのない人または家庭の事情等によって家族との同居が困難な人向けの施設〕と、ケアハウス〔60歳以上で、身体機能の低下や高齢などのため、独立して生活するには不安が認められる人、家族による援助を受けることが困難な人が低額な料金で利用できる施設〕の2種がある。)、老人福祉センター(相談や、健康増進・教養の向上・レクリエーションなどための老人向けの施設)、老人介護支援センター(情報提供、相談、指導、連絡調整などのために設けられた老人向けの施設)がある。その他には、グループホーム(高齢者や障がい者が少人数《5~9人》で自立した共同生活をするための施設)、有料老人ホーム(常時10人以上の入所者がいる、日常生活に支障がない老人向けの有料の生活用施設《老人福祉法29条》)などがある。 高齢者虐待・・・高齢者に対する虐待については5つに分類されるが、それぞれの虐待の被害者には「身体的虐待:説明のつかない転倒や傷が頻繁にある。訳もなくおびえ怖がる。腿や上腕部の内側、背中にあざやみみず腫れがある。身体拘束のあとがある。」「心理的虐待:指しゃぶり、身体ゆすりなどがみられる。不自然な体重変化がある。」「無視・放置:部屋が非衛生的で異臭がする。濡れたままの下着を身につけている。」「性的虐待:歩行や座位が困難。人目を避ける。生殖器の痛みやかゆみを訴える。」「財産的虐待:困ったいるはずがないのにお金がないと訴える。資産状況と生活状況の落差が激しい。」などの兆候がある。高齢者に対する虐待については2005年に高齢者虐待防止法が制定された。 2.高齢者の人権関連年表
3.参考文献内閣府『「暮らしと社会」シリーズ高齢社会白書(平成16年度版)』ぎょうせい(2004.6) 内閣府『「暮らしと社会」シリーズ高齢社会白書(平成17年度版)』ぎょうせい(2005.) 内閣府が刊行する暮らしと社会に結びついた白書のひとつ。高齢社会対策基本法第8条に基づき政府が国会に提出する年次報告書。様々な統計資料を用いて日本の高齢化の状況を示し、その要因や影響について分析するとともに、高齢社会対策の実施状況・実施案について、高齢社会対策大綱に沿って記述したもの。内閣府のインターネットでも閲覧・ダウンロードすることができる。 (他の「暮らしと社会」シリーズ:国民生活、男女共同参画、青少年、高齢社会、障害者) 読売新聞社編集局解説部編『超高齢時代豊かな人生をデザインする』日本医療企画(1997.5) 読売新聞社編集局解説部編『超高齢時代Part2新しいシステムを考える』日本医療企画(1998.6) 読売新聞社編集局解説部編『超高齢時代Part3共生の社会をめざす』日本医療企画(1999.10) 読売新聞社編集局解説部編『超高齢時代Part4活力ある社会をつくる』日本医療企画(2001.3) 読売新聞社が毎土曜日付朝刊解説面に掲載した「高齢化と少子化をテーマとした連載企画」で、1996年2月に開始し、2000年11月に終了した206回にわたる長期連載記事をまとめたもの。読者の反響が予想外に大きかったことを反映して驚異的な連載となり、東京・大阪・西部・中部の4本社を総動員した取材体制を組み、100人を超える記者が執筆。日本各地の状況はもとより、アメリカ・ヨーロッパ・アジア諸国への海外取材まで対象とし、高齢社会における今日的諸問題を具体例に基づいて、わかりやすく多角的に取り上げて、体系づけながらまとめたレポート。なお、「超高齢社会」とは、世界ではじめて日本が体験する、高齢化率が20%を超える社会を想定して読売新聞社が命名したもの。高齢者問題・社会保障制度の一連の大きな改革・改正の動きの中での連載なので、記述の内容にはすでに解決をみた課題もある点に注意する必要があるが、レポート記事のバリエーションの豊さは類本中では出色であり、近隣諸国との連帯など今日的な課題として引き継がれているものも多く、高齢者問題における入門書としては最適なものの一つ。 池田直樹ほか『知っていますか?高齢者の人権一問一答 』解放出版社(2004.11) 『知っていますか?高齢化社会と人権一問一答』解放出版社(1994.12)の改訂版(1998年)に対する全面リニューアル版。阪神大震災・2000年度からの介護保険制度の実施など、高齢者の生活に関わる諸制度改革、終末期医療や安楽死、高齢者虐待や高齢者を対象とした悪徳商法などの新たな問題も取り上げ、高齢者の人権に関する幅広いバランスのとれた設問構成になっている。 |