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2006.11.16
書 評
 
中村清二
研究所通信339号より

「金川の教育改革」編集委員会

(解放出版社、2006年10月、191頁、定価1800円)

大阪大学の志水宏吉さん等の研究者が、欧米の「効果のある学校」研究をふまえて、関西の学校を対象に調査され、部落の子どもや教育的に不利な立場に置かれている子どもの学力向上に成果を上げている学校の共通した特徴を「7つの鍵」として整理した(志水宏吉『学力を育てる』岩波新書、2005年)。

具体的には、<1>子ども荒れさせない、<2>子どもを元気づける集団づくり、<3>チーム力を大切にする学校運営、<4>実践志向の積極的な学校文化、<5>外部と連携する学校づくり、<6>基礎学力定着のためのシステム、<7>リーダーとリーダーシップの存在、を提案している。

本書の意義の1つは、まさに福岡県の旧炭鉱地域において、「効果のある学校」を10数年に及ぶ取組みの中で実現しつつある金川校区の試行錯誤と到達点をまとめたことと、その中にみごとに「7つの鍵」が含まれていることである。

1980年代は、旧産炭地という条件も重なり、被差別部落の子ども達も含めて暴走族が勢いを持つという状況の中での学校関係者の挑戦であった。そうした試行錯誤をへて、1997年以降、本格的な取組みが進みだし、学力保障の道筋の確立やPTA・地域の人々の「学校・学習応援団」の取組み、元暴走族メンバーのボランティア団体設立や福岡県内外の不登校生の居場所「田川ふれ愛義塾」づくりなどといった今日に至っている。是非一読の上、こうした点を読み取っていただきたい。

同時に、私は10数年に及ぶ金川校区関係者の「継続した挑戦」こそが、それを可能にしたと痛感している。なぜなら、多くの人権・同和教育を推進してきた学校では、学力保障は「古くて新しい課題」であり、個別にはさまざまな貴重な成果をあげてきたことは全国同和教育研究協議会の研究集会報告でも明らかである。しかし、その成果が学校全体に広がったり、10年20年という時間帯で持続している学校は極めて少ない。まさにそれは、関係者による「学校づくり」の視点の共有とそれを可能にする条件づくりにかかっている。この点も、是非、関心を持っていただければ幸いである。

もう1つ、個人的に興味深かったのは29名(教職員19名、保護者8名、卒業生1名、大学教員1名)の短かい文章ではあるが、学校の日常の雰囲気を伝える「コラム」である。

最近の公立学校の不祥事とそれを増幅させるようなメディアの報道に違和感を強く覚えるが、こうした「公立学校の挑戦」が進んでいることを是非知っていただきたい。