人種差別撤廃条約の国内での実施と反人種主義・差別撤廃世界会議の成功を!!
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1,はじめに
- 今年の人権週間は、20世紀最後の人権週間である。20世紀は、戦争の世紀であった。とりわけ第2次世界大戦では、多くの人びとが亡くなっただけでなく、大量虐殺があった。このことを反省することの中から1948年12月10日、国連の第3回総会で世界人権宣言が採択された。
- 世界人権宣言の基本精神は、「差別を撤廃し人権を確立することが恒久平和を実現することに通じる」ということにある。
- この世界人権宣言の基本精神を具体的に実現していくために、国際人権規約や人種差別撤廃条約、女性差別撤廃条約や子どもの権利条約などが採択されてきた。
- 日本も、多くの人びとの努力によって、今日ようやく10の条約を締結するところとなってきた。
- けれども、日本の人権状況を見たとき、「差別身元調査事件」の発覚やインターネットを悪用した差別宣伝の多発に象徴されるように、危険な傾向があるといわねばならない。
- このような人権状況の中で、本年1月人種差別撤廃条約に関する日本政府の第1.2回報告書が国連に提出され、来年3月人種差別撤廃委員会で審理される。また、来年8月には、南アフリカで反人種主義・差別撤廃世界会議が開催される。
- 世界人権宣言52周年記念大阪集会は、人種差別撤廃条約の日本国内での実施と反人種主義・差別撤廃世界会議の成功をテーマに開催する。
基調提案として、まず、人種差別撤廃条約について、基本的な事柄を紹介する。
2,人種差別撤廃条約が国連で採択された背景
- 1960年前後にヨーロッパでネオ・ナチ(新しいナチズム)の台頭が見られた。これを芽の内につみ取るため。
- 1960年は「アフリカの年」。この年に17カ国が一挙に独立し国連に加盟した。その結果、アパルトヘイト廃絶等差別撤廃の気運が高まった。
- アメリカでは1964年に包括的な公民権法が制定されたし、日本では1965年に内閣同和対策審議会答申が出された。
人種差別撤廃条約は、これらの盛り上がりの中で1965年12月、第20回国連総会で採択され、27カ国が締結した69年1月、国際的に発効した。
3,日本の加入
- 日本は、1995年12月、この条約に加入することを決定し、96年1月14日から発効した。(146番目の加入であった)
- この時期に加入したことの背景には、直前にアメリカがこの条約を締結したことにより、世界に大きな影響力を及ぼしている国で、日本だけが未加入になってしまったという事情がある。
- もう一つの大きな要因は、「村山内閣」の誕生で、部落解放基本法の制定を求めた運動が大きく盛り上がり、与党・人権と差別問題に関するプロジェクトチームが設置され、その「中間まとめ」の第1項に、この条約の早期締結が盛り込まれたことによる。
4,人種差別を撤廃していく上での重要な視点
人種差別撤廃条約の前文並びにこの条約に先立って国連で採択された人種差別撤廃宣言(1963年11月)を見たとき、以下の諸点が重要な視点として指摘されている。
- 人種差別をはじめ差別を撤廃することは、人権を確立していくうえで、基礎にすえられなければならないことである。
- 人種主義、人種優越理論は、科学的に誤っている。
- 人種差別は、社会の平穏と世界の平和を脅かす。
- 人種差別は、差別をされている人だけでなく、差別をしている人の人間性をも傷つける。
5,人種差別撤廃条約でいう「人種」とは、広範な概念である。
- 種差別撤廃条約で定義されている人種は広範で、人種(race)、皮膚の色(colour)、世系(decent)、民族的(national)、種族的(ethnic)な事由に基づく差別を含んでいる。
- 日本では、アイヌ民族、在日韓国・朝鮮人をはじめとする在日外国人、被差別部落出身者など対する差別がこの条約の対象となる。
- 一部に、部落差別はこの条約の対象にならないとの意見もあるが、これは間違っている。
6,人種差別撤廃条約の中で定められた差別撤廃のために求められていること
1. 差別を禁止すること。
- 差別宣伝や差別煽動、さらにはこれを目的とした団体の結成やこれへの加入などは、犯罪として処罰することを求めている。(条約第4条)
これは、ナチス・ドイツで見られたユダヤ人等の虐殺が、差別宣伝・差別煽動から始まったことに対する反省に基づいている。
日本は、この4条の(a)(b)項を留保したが、導入部と(c)項については承認している。
- この条約の締約国は、(状況により必要とされるときは立法を含む)いかなる個人・集団または団体による人種差別をも禁止し、終了させなければならない。(条約第2条1項d)
- 法の下の平等、権利享有の無差別を定めている。(第5条)
この中には、裁判所での平等な取り扱い、身体の安全についての権利、政治的権利、市民的権利、経済的・社会的・文化的権利(労働や住居、教育についての権利など)、一般公衆の使用を目的とする場所・サービス(輸送機関、ホテル、飲食店、喫茶店、劇場、公園等)を利用する権利などが含まれている。
2. 差別の被害者に対する有効な救済機関を設置しなければならない。(第6条)
- 最終的な救済機関は、裁判所である。ただし、裁判所が有効に機能するためには、裁判官が人種差別撤廃条約を熟知している必要がある。
- 裁判は、費用がかさむし時間がかかるといった問題を抱えている。このため、裁判外紛争処理制度(ADR)の必要性が各方面で指摘されている。
- 人種差別撤廃条約でも有効な救済機関として「裁判所及び他の国家機関」との規定が盛り込まれている。日本では、現行の制度としては、法務省人権擁護局なり人権擁護委員による人権擁護制度があるが、多くの問題を抱えている。
- このため、人権擁護推進審議会等で新たな委員会の設置に向けた議論が行われ「中間まとめ」が公表された。今後、真に実効性のある救済がなされるための機関を創造していくための議論が必要である。
【注】なお、この条約の国際的な実施機関としては、この条約に基づき設置されている人種差別撤廃委員会がある。(詳しくは後述)
3. 事情により差別されている人びとが劣悪な状況に置かれている場合、特別の具体的な措置を講じなければならない。このための措置は差別とみなさない。特別の施策を実施することによって差別の実態が解消されたならば、その措置は廃止する。(第1条4項、第2条2項)
4. 差別的偏見と戦う(combat)とともに、世界人権宣言や人種差別撤廃条約等の内容を広めるために、教授、教育、マスメディア、文化活動等を通して迅速かつ具体的な措置をとる。(第7条)
- 現在「人権教育のための国連10年(1995〜2004)」が取り組まれているが、この取り組みの中に、第7条の規定を盛り込む必要がある。
- また、第150臨時国会で「人権教育及び人権啓発の推進に関する法律」が制定されたが、この法律の具体化として、第7条の規定を踏まえる必要がある。
5. 「分離」や「排除」はむろん「同化」も差別である。お互いの独自性を尊重し、連帯・共生していくことを奨励していく必要がある。(第2条1項e、第7条)
- 南アフリカで行われていたアパルトヘイトは、「分離」に基づく差別の典型である。
- 戦前の日本が朝鮮を植民地支配した際に行ったことが「同化」である。これもまた差別である。
- このいずれもが人種差別であり、社会の平穏と世界の平和を実現していくためには、こうした差別を撤廃し、共生・連帯を構築していく必要がある。このことは、人権が尊重され、平和な21世紀を創造していくために最も重要な課題である。
7,人種差別撤廃条約を守らせる方法(実施措置)
1. 人種差別撤廃委員会(CERD)の設置(第8条)
人種差別撤廃条約を締結した国によって、18名の専門家が、地理的文化的バランスを考慮し個人の資格で委員として選ばれる。(任期4年、2年ごと半数改選)
2. 3つの守らせる方法
- 報告書の定期的提出(第9条)
この条約を締結した国は、締結後1年以内、その後は2年ごと、さらに委員会の求めに応じて、この条約の国内での実施状況に関する報告書を国連に提出することが義務づけられる。提出された報告書は、人種差別撤廃委員会で審理され、その結果は勧告を含んで国連総会に公表される。
- 締約国による他の締約国の通報(第11条)
この条約を締結した国は、他の締約国をこの条約の不履行で人種差別撤廃委員会に通報することができる。(これまでのところこの方式は使われたことはない)
- 個人または集団による通報(第14条)
この条約を締結した国で、第14条を受け入れる旨の宣言を行った国の場合、国内での手順を尽くしたうえで、この条約が守られていないことを、個人または集団が人種差別撤廃委員会に通報できる。
2000年4月現在、第14条を承認している国は、30カ国。これまで17件の通報がされている。日本は、第14条を承認する旨の宣言を行っていない。
8,今後の課題
1. 人種差別撤廃宣言・条約の普及・宣伝
- 学校教育で必修にする。
- 公務員や教員、警察官や検察官、弁護士や裁判官、マスコミ関係者など人権との関わりの深い特定職業従事者の研修で必修にする。
- 民間企業での研修の必修にする。
- 民間団体の中での研修で必修にする。
2. 人種差別撤廃条約を活用し、具体的な差別や人権侵害の撤廃を求めていく。また、人種差別撤廃条約の視点から全ての法制度等を見直していく。
- 抗議行動で活用する。例・・・石原東京都知事の差別発言
- 裁判で活用する。例・・・浜松市宝石店差別事件
- 法制度を見直す。例・・・北海道旧土人保護法を廃止し、アイヌ文化振興法を制定
3. 政府報告書の審査を活用する。
- 日本政府の第1・2回報告書は、2000年1月提出された。この中には、部落問題に関する報告がなされていない、国内法整備の必要性が盛り込まれていないなどの重大な問題がある。
- 2000年3月、スイスのジュネーブで開催される人種差別撤廃委員会で、日本政府報告書が審理される。
- これに向けて、反差別国際運動日本委員会が事務局となって、NGOレポートの作成が取り組まれている。
4. 国内法等の整備
- 日本が、1985年に女性差別撤廃条約に批准した際には、国籍法の改正と男女雇用機会均等法が制定された。さらに、1999年には、男女共同参画社会基本法を制定した。
- 人種差別撤廃条約についても、国内法を整備する必要がある。このため、社会的差別禁止法や、社会的差別撤廃基本法などを制定していく必要がある。また、地方自治体レベルで条例を制定する必要がある。
- 人種差別撤廃条約の国内での実施を確保する独立した機関を設置する必要がある。
5. 完全批准
- 差別宣伝や差別煽動、これを目的とした団体の結成や加入などを禁止する国内法を整備し、条約第4条(a)(b)項の留保を撤回する必要がある。(なお、日本は、市民的及び政治的権利に関する国際規約の第20条を承認している。この2項では、「差別、敵意または暴力の煽動となる国民的、人種的または宗教的憎悪の唱道は、法律で禁止する。」と定められている)
- 個人または集団が人種差別撤廃委員会に通報することを定めた第14条を承認する旨の宣言をすること。このことによって、日本は国際社会に開かれた社会として国際的に評価されることにもなる。
9,2001年反人種主義・差別撤廃世界会議の成功を
- 冷戦後の世界を見たとき、各地で民族紛争が多発し内戦が続いている。先進国においても、ネオ・ナチ勢力の台頭が見られる。
- これらの問題の原因を明らかにし、解決に向けた効果的な方策を明らかにするため、2001年8月31日から9月7日まで、南アフリカのダーバンで反人種主義・差別撤廃世界会議が開催される。
- この会議には、国連をはじめとした国際機関、各国政府のみならず、人種差別と闘うNGOが多数参加し、「宣言」と「行動計画」が採択される。
- この世界会議が成功裏に開催され、人種差別が撤廃され平和な21世紀を創造していくことに役立てるため、日本の地においても取り組みを本格的に開始する必要がある。大阪・関西の地においてもこのための取り組みを皆さんとともに進めていきたい。
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