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第214回国際人権規約連続学習会(2001年1月15日
世人大ニュースNo.222 2001年2月10日号より

「人権教育・啓発推進法と人権救済制度の在り方に関する中間取りまとめ」を考える

報告者  北口末広(部落解放同盟大阪府連合会書記長)?
丹羽雅雄(弁護士)?
林誠子(日本労働組合総連合会大阪府連合会副事務局長)
コーディネータ 友永健三(部落解放・人権研究所所長)

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人権教育・啓発推進法の評価と課題

●友永●昨年12月6日に公布・施行された人権教育・啓発推進法、同じく11月28日に人権擁護推進審議会から出された「人権救済制度の在り方に関する中間取りまとめ」の2つをテーマにシンポジウムを行っていきたい。

 まず人権教育啓発推進法について、特にこの法律をどう評価し、今後どう活用していくのかについてパネラーのみなさんに発言してもらいたい。

●北口●解放同盟中央本部が人権教育・啓発推進法についての見解を出しているので、それを整理したい。

 法律の評価について、6点の意義が示されており、‡@部落解放基本法案に盛り込まれていた教育・啓発法的部分の精神の具体化、‡A日本国憲法や教育基本法に盛り込まれた差別撤廃と人権確立に関わる条項の具体化、‡B国際人権規約や人種差別撤廃条約に代表される国際人権諸条約の教育面の具体化、‡C「人権教育のための国連10年」の取り組みについての法的根拠、‡Dあらゆる場で人権教育を展開する根拠、そしてそれらを踏まえ、‡E総じて21世紀を人権の世紀とするための教育の法的根拠、として積極的に評価している。

 しかし、いくつかの問題点もある。第一に第7条で策定が義務付けられている基本計画の内容が十分検討されておらず、第二にその策定も誰がどこで行うのかが明確になっていないということだ。改正男女雇用機会均等法の具体化が労働省の指針によって進んだことからも分かるように、どのような基本計画ができるかが国レベルでの人権教育・啓発を左右するのであるから、この点は今後の大きな課題といえる。第三に、法律の所管が法務省を中心とする文部省との共管となっており、「国連10年」が求める全政府の体制になっていない点がある。第四は財政措置が明確にされていない点であるが、政策を具体化するために財源の問題は重要だと私は思っている。そして第五に、人権教育・啓発を推進する具体的なセンターが明確でないことがあげられる。以上の課題をどう解決していくかということを考えなければならない。また、人権教育・啓発を進めるシステムをいかに作っていくか、そして国際化・高齢化・情報化という今の時代をいかに活かして政策を行っていくかが重要だと思う。

部落解放運動は同対審答申を最大限に活かしてきた。それと同様で、私達がこの法律をどれだけ活かしていけるかということに、今後の人権運動がかかっているといえるのではないだろうか。

●丹羽●外国人の人権に関わる最近の状況として、昨年4月の石原東京都知事による「第三国人」発言や、北海道を中心に飲食店や銭湯が「日本人専用店」等の掲示を掲げた問題、さらに新宿で「中国人お断り」の看板が出るとともに新宿警察署が中国人を見たら連絡するようにというポスターを出したことなどがあげられる。これらからも分かるように、外国籍者に対する入店拒否等が差別事例として多く出ているのが最近の大きな特徴のひとつである。

 また大阪府では、学校に通っていた中国残留家族の子ども達が突然入管局に収容されるケースが、特に昨年続出した。その多くは日系性に疑いが持たれるということで家族が同時に収容されており、99年度には558人の未成年者が、長い場合には100〜150日も収容されている。これに対して市民団体も運動を行っているが、状況は今も変わっていない。

話を人権教育・啓発推進法に移すと、実は日本が批准している人権諸条約の中には人権教育に関する規定があり、日本政府はその規定を実施する法的義務を国際法上負っている。従ってこの法律は、それを国内的に実施するための法的根拠、大きな枠組みとして作られたと私は理解している。しかし、法律の条文に条約上の義務という言葉はない。また、法律のいう基本計画が明確でなく、策定過程の公開性やNGOの参画を盛り込むべきだという問題もある。

 私達弁護士会では、多様性の尊重や少数者の人権保障といった人権教育の柱を実現するために、特定職業従事者への研修を特に重要視している。その対象は裁判官や警察官、拘禁施設職員、国会議員を含めた公務員や医療関係者等であるが、私個人としては企業の人権教育も非常に重要だと感じている。

●林●労働組合の中では、残念ながらいまだに人権に対して一種のアレルギーのようなものがあるのでは、という感じがしている。これは人権教育の名のもとに人権に値しないことが行われ、人権の問題を自分の体で受けとめることができない状況が繰り返されてきた結果ではないかと思う。そのために人権を自分のものではなく誰かの人のものと捉えてしまっている人にとっては、人権はとてもいやなものになっているのではないか。しかし、人権教育とは自分も相手も大切にする教育であると私は思っている。今後、職域における人権教育における労働組合の役割が問われていくだろう。

 ところが、労働運動は正規の職員や男性、残業のできる人といった、企業の中で主流となる人だけのものとなっている。あるいは組合の大小によっても、主流でない労働者に対するいじめや人権侵害が職場で起こっている。存分に働ける人を評価する日本的な能力主義がさらにこれを助長し、組織としてだけでなく労働者同士でも人権侵害が増えるのではないかと心配している。今後、職場における人権侵害の多様化に目を向けなければならない。今回の法律は、労働組合がそれに対応していくための課題を与えてくれたと思っている。

 女性労働の問題では、条例や法律によって女性の権利が一定保障されるようになってきたが、その流れのなかでは人権の観点から男女平等の問題が語られるよりも、少子高齢化という経済の問題から語られることが極めて多いと思われる。たとえば、セクハラ防止に対する企業の考えにリスク管理の観点が強調されていることからもそれは理解できる。しかし国連の人権活動の流れでは、人権の観点がリスク管理と同等以上の考え方として捉えられなければならないといえるだろう。従って、職場に多様な存在がいるという前提で、人権教育・啓発推進法に取り組んでいかなければならないと考えている。
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人権救済制度の在り方について

●友永●では次に、人権擁護推進審議会から出された「人権救済制度の在り方に関する中間取りまとめ」について、どの辺りが問題であるのか、また提言も含めて発言してもらいたい。

●北口●私は人権救済機関の整備には、日本の司法システムの強化が大前提になると思っている。米国では日本が目指すものよりもっと強力なEEOC(雇用機会均等委員会)という独立行政機関があるが、その前提にはしっかりした司法システムがある。やはり基盤が弱ければ良いものを作っても駄目であろうから、夏に司法制度改革審議会から出される答申を踏まえて、日本の司法システムを強化していかなければならないだろう。

 また、どんな機関ができたとしても、その権限・機能・人的構成が重要になってくると思う。やはり人権救済機関は、国家行政組織法の定めるところの企画立案等の機能を持たない審議会的な8条委員会ではなく、そうした機能を持った3条委員会にすべきではないか。つまり、米国の証券等監視委員会の人権版のようなものを作って人権ルールを監視していかなければ、現在の法務省による人権侵犯処理と何ら変わらなくなってしまうのではないだろうか。

 今後日本でも人権紛争は増えていくだろう。なかでも私が最も関心を持っているのがインターネット上の情報関連の事件なのだが、これに関して中間取りまとめでは非常に不十分にしか取り上げられていない。現実空間でできることは電子空間でもほとんどできる。従ってこれまでの刑事法のように現実空間を基本とするのではなく、電子空間を基本とした考え方や措置ができるようなシステムに変えていかなければならない。特にこの問題は国際化が進んで非常に難しくなってきているため、答申でも1章を割く、あるいは別の答申を出すぐらいに重要だと思う。

 いずれにしても今回の中間取りまとめは全体的に、実際に人権侵害があった場合にどう処理していくのかという点が弱いと思うので、今後はそういった点を働きかけていきたいと思っている。

●丹羽●国内人権機関は、93年の国連総会で示された、国内人権機関の地位に関するいわゆるパリ原則を前提とすべきだと私達は考えている。この原則では、国内人権機関は‡@人権侵害被害者への救済、‡A立法・政策への提言、そして‡B人権教育の機能が必要だとしており、さらに政府から独立した機関でなければならないとしている。法務省が現在行っている人権擁護制度ではほとんどみられないが、弁護士会がこれまで行ってきた救済活動では、その8割が警察や入管局等の公権力による人権侵害の救済である。現実問題としてこういった公権力からの人権侵害の救済を担うわけであるから、政府からの独立性が国内人権機関の生命線であると私達は考えるのである。

 日本弁護士連合会でも中間取りまとめへのパブリックコメントを出すので、そこでの見解を示したい。

 私達はパリ原則を最低限の基準としているため、国内人権機関の最大の問題は政府からの独立性だと考えている。中間取りまとめでは一定の独立性は認めているものの、その機関の重要な機能は事務局が担うとしている。しかしこの事務局は、当面は現在の法務省人権擁護局や人権擁護委員を改組したもので担うのだから、独立性があるとは到底いえないだろう。従って私達としては法務省から切り離し、内閣府の所管としての3条委員会とする、あるいは委員の選任過程に市民参画を取り入れる等の意見で反論していきたい。

 また、機能に関しては取りまとめではなぜか「政策助言」となっているが、そうではなく「提言」としていかなければならない。人権教育についても、教育と啓発をセットにして理解すべきだと考えている。

 その他では私人間での人権侵害が大きな問題となっている。私個人としては、まず人権侵害・差別についての要件を明確にする必要があると思う。つまり差別禁止の実定法の創出も併せて必要だということだ。

●林●労働者が多様になってきているように、人権救済の対象も、これまで私達が想像もしなかった者にも目を向ける必要が出てきていると思う。そこで中間取りまとめにないものとして、婚姻上の地位や家族構成、性的指向や性的自己認識、あるいは政治的意見の問題等も救済の対象に追加すべきだと思っている。

 人権救済手法の整備に関しては、中間取りまとめに調停や斡旋は入っているが、それに加えて差別禁止命令や裁定を入れる。あるいは訴訟支援の検討ではなく、たとえば英国のように訴訟参加という問題を追加すべきではないだろうか。また調査手続については、被害者の立証責任による負担を軽くするために調査権限の強化が大切であるだろう。

 先ほどから出ている独立性の問題について、私も人権救済機関は既存の組織とは切り離すべきだと考えている。たとえば今ある労働委員会制度のように中央に人権救済機関を設置し、同時に都道府県でも設置してそれぞれに事務局機能を作っていくというものだ。つまり現在の人権擁護委員会とは全く別のものとし、そこで個別の事件の処理に止まらず人権教育や企画立案・政策提言、あるいは地方では自治体に対する助言等をその機能に含めていった方が良いということである。

 人権救済機関の人的構成については、中央の場合は国会の同意を得て首相が、地方の場合は議会の同意を得て知事が任命する形にすべきであろう。しかし非常に重要な役割を果たす人々であるのだから多元性・専門性・社会的経験・ジェンダーバランスがその任命において尊重されなければならないし、その中には法曹の資格を持った人の一定割合の確保も必要だと思っている。つまり市民社会の多様化を反映した選び方が大切であるということだ。

 連合では現在、以上のような観点からの人権救済機関の設置と、差別禁止法の制定との一本化を求めている。
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人権確立のために必要なこと

●友永●最後に、特に強調したい点も含めて、まとめの発言をいただきたい。

●北口●人権侵犯事件を扱うときには、基準を明確にすることが非常に大事である。なぜなら、差別がいけないことは誰でも分かっていても、何が差別なのかということは人によって全く違うからだ。従って何が差別か、何が人権侵害なのかという明確な基準を示す必要があって、そのために差別禁止法は必要である。しかしこれは救済の問題からだけでなく、国際人権諸条約の具体化という意味でも差別を明確に禁止するとうたわなければならないと思う。何を規制するのかが恣意的になってしまうと、逆に問題が出てくるおそれがあるからである。

 いずれ必ず人権救済機関はできる。ただ問題なのは、私達がそれをどう活用していくのかということだ。従って、たとえその機関に私達の意見が十分に取り入れられなかったとしても、後に強化していくための運動をそろそろ準備しておかなければならないのではないだろうか。

●丹羽●人権活動とは権利のための闘争が鉄則であり、特に差別撤廃に関しては闘いという言葉が人種差別撤廃条約に記されているほどである。従って主体的な市民・住民の闘争が基本となるのであって、それを表現するものが法制度なのである。主体が市民・住民にあるということを踏まえることが重要だと私は思う。

 また、人権教育、国内人権機関の両方にとって政府からの独立性は確かに重要であるが、それに併せて市民参画・参加ということが今後地方分権社会へ転換していく際の、あるいはこれからの人権確立に向けても、非常に重要なかなめになると思っている。

 私は人権教育・啓発推進法をどう進めるか、あるいは国内人権機関をどう作っていくのかを考えるには、それを包み込むような多元的な市民・住民のネットワークが必要だと思っている。それを広げていくことがひとつの大きな柱といえるのではないだろうか。

●林●先の訴訟参加の件については、実際にやってみると実効確保がなされないという問題が非常に多くある。従って、実効確保の申立が機関としてできる仕組みが盛り込まれるべきであるということを付け加えておきたい。

私は、女性という自分の属性を通じて、はじめて人権問題を意識して考えるようになった。それと同様に、人権について考えるには、世の中には様々な属性を持つ人々がいるという想像力を持てるようにならなければならないと思う。そうでなければ人権教育も人権救済制度の確立も、本当に持続可能な社会を目指すという立場で、企業・労働組合・市民団体が一緒になって作り上げていくことはできないのではないだろうか。私自身も、今後そのように努めていきたいと思っている。

●友永●部落解放基本法は85年から制定要求運動が起こり、それから15年かかってその一部である人権教育・啓発推進法ができた。これだけ時間をかけて勝ち取ったのだから、今後この法律を活用していかなければならないということを、ぜひ強調しておきたい。

 また、今日規制や救済が議論されているが、実は既に65年の同対審答申にその必要性が述べられている。それが35年かかってやっと議論されるようになったのだ。そこから考えると、今回決定される人権救済機関の内容がこの先50年ぐらい続くかもしれない。ならば、50年に一度のチャンスがせっかく巡ってきているのだから、21世紀に通用するものを皆さんと一緒に作っていきたいと思っている。