講座・講演録

部落問題・人権問題にかかわる講座情報、講演録を各カテゴリー毎にまとめました。

Home講座・講演録 > 本文
講座・講演録
 
部落解放研究第36回全国集会
2002年10月18日
地域に開かれた学校づくり
                            
福岡市立東光中学校区
                                            (東光中・堅粕小・東光小)

1.はじめに 〜「校区事業」とは〜

 1997年に福岡市の「学力向上研究推進協力校区事業(略して「校区事業」)」を受けました。それは、これまでの取り組みを見なおし、地域の教育力、家庭の教育力をも含めた広い視野で、「子どもたちの進路・学力保障」「人権が尊重されるまちづくり」を目標としたからです。

 この委嘱を受けると中学校校区に特別に予算が下りたり、教員の数が増やされたりするわけです。それをもとに様々な取り組みを校区の中学校、小学校の連携のもとに取り組んでいくのが「校区事業」です。

 当時、堅粕(かたかす)小学校や東光中学校では、支部と連携しながら地区の子どもたちを中心に据えて学力保障・進路保障の取り組みを進めていました。しかし、子どもたちには、学力格差等の厳しい実態が見られました。また一方で、遅刻・長欠、高校中退者の増加等の課題をなかなか解決することができず、荒れた様相を見せる子どもたちも見られました。このような子どもたちの状況を地域は学校だけの責任にしてしまいがちだったし、小学校と中学校の間でもお互いに責任転嫁をするような状況もありました。

そこで、これらの課題を解決するためには、学校教育だけでは限界があるということで、「生活リズムから進路保障へ」というスローガンのもとに、就学前・学校・保護者・地域が連携して、子どもをとりまく環境をまるごと見ていく取り組みをつくろうという発想に立って、1997年に福岡市の第二次「校区事業」の委嘱を受けることになりました。

「子どもたちの生活リズムを整えよう」そこから出発したのですが、ここでいう生活リズムというのは、「一日1時間の家庭学習をすること」「早寝早起きをすること」「朝食を毎日とること」というものでした。

「地区関係校」ではない東光小学校は、この「校区事業」に参加するのが一年間遅れたのですが、地域の方々からいろいろな取り組みをしていただいたおかげで、次の年(98年)から関わることが出来るようになり、現在3校が連携して取り組むことができるようになっています。

2.取り組みの概要 〜推進委員会を中心として〜

 この東光中学校区「校区事業」の推進委員会には、学校関係者はもちろんのこと、校区の様々な教育関係者が参加しています。現在は、東福岡高校と東光小学校が入っていますが、「校区事業」ができた当初には、この二つが入っていませんでした。学校の方は、「学校教育推進部」「家庭・地域教育推進部」「地区活動推進部」という3つの部に、それぞれ3校の教職員が分かれて所属するという推進体制を敷いています。

この「校区事業」を実際に運営し、検討していくのが推進委員会の役割です。年3回おこなっていますが、推進委員会での話し合いが最初からスムーズにおこなわれていたわけではありません。推進委員会で私たち学校の方から報告していくわけですが、その内容と地域の方々との思いがなかなかうまく噛み合わなくて、学校に対する不満や要求が浮き彫りになっていた時期もありました。

例えば、「生活リズム運動をやっているのに、子どもたちの朝の遅刻の多さはどういうことか?」とか、「学力保障の取り組みをやっているが、子どもに本当の力がついているのだろうか?」という追及もありました。

子どもたちの現状とそれに対する学校や地域での取り組みをどうしたら多くの人に理解してもらえるのかを模索し続けました。その中の一つの取り組みとしてゲストティーチャーとして校区の方に実際に学校へ足を運んでもらって、平和学習や「昔の遊び」体験の講師をしていただく中で、子どもたちとの交流を深めてもらいました。

また、推進委員会で学校の取り組みを報告する際、それまでは、ただ字面を読む形になってしまって、なかなか実態を伝えきれないということがありました。そこで、子どもたちの活動がよりわかりやすいスライドを用いた報告に変えました。

こうして、徐々にではありますが、子どもたちの現状や、今どういうことに学校では取り組んでいるのかということが、地域の方々に伝えられたのではないかと思っています。

これらの取り組みと並行して、学校から問題提起をしていきました。当時は、いわゆる子どもの「荒れ」が校区の中で見られ、校区の方々が子どもたちに声をかけるということがあまりない状況でした。地域と校区が一体となって教育に取り組んでいるのだという姿勢を子どもたちに理解させるためにも、校区の人たちが積極的に子どもたちに声をかけてくださるように呼びかけ、お願いしました。

しばらくするうちに、校区のほうから学校の方に子どもたちに関する連絡がよく入るようになりました。このようにして、子どもたちの様子を互いに連絡を取り合う中で理解していこうという取り組みが進んでいったのではないかと思います。

推進委員会の中でも、「校区でできることは何なのか?」という声もあがって、子どもたちを中心に据えた意見の交流が校区の方々と徐々にできはじめたのではないかと思います。

3.学校と地域がひとつに! 〜「校区事業」継続を要求〜

そしていよいよ3年目の「校区事業」の発表の年を迎えました。
さすがに発表の年ということもありまして、この年にずいぶんと取り組みの内容が広がっていきました。特に、教職員にとってもプラスになったなあと思えるところなのですが、合同学年会、合同教科部会をこの年に立ち上げたのです。小学校・中学校という壁を取り払って、今の子どもたちにどんな力をつけなければならないのかというこ
とをそれぞれの小学校からの意見、中学校からの意見を交えながら検討していきました。

 次に、年に一回、「マイ・タウン・フェスタ」という人権を考える集会を持っています。地域の人、小学生、中学生、さらに今年は保育所と東福岡高校も参加してくれることになりました。この取り組みが、いま少しずつ広がってきています。

また、3校でPTAの合同同和教育研修会をおこなっています。いろんな講師に来ていただいたり、子どもたちの現状について出し合ったりしています。

校区の方々によるゲストティーチヤーの中味も幅広くなってきており、「校区マップづくり」や「社会人ワークショップ」の取り組みなどもこのころから始まりました。

こうして「校区事業」の発表の年に、まがりなりにも学校と地域の方々との結びつきの中で生まれた取り組みを報告することができました。ただ、やっと「校区事業」のスタートの地点に立てたなあという状況でした。

 このようにして3年間の委嘱が終わるわけですが、「校区事業」の取り組みをいろいろ作ってきた結果、地域が一つにまとまったという感じが学校側にも地域の人たちにも少しずつ感じられるようになりました。そんなときに3年間の委嘱が終わるということで、「『校区事業』も終わらせるのか?」「人や予算がなくても学校は続けていくのか?」という問いかけが地域の方々からありました。

地域の人たちや違う学校の保護者とも少しずつ話が出来る関係ができつつあるときに、「校区事業」を終わらせてしまうのは、今までの取り組みが無駄になるだけではなくて、これからの子どもたちの教育にもマイナスになると考えました。

そこで、人や予算がなくても「校区事業」の取り組みを継続させていきたいという思いを地域の人たちに伝えると、地域の方々やPTAが「校区事業」に賛同するという形で福岡市の教育長に「校区事業」の継続と人的配置そして予算をつけることを願い出ました。

 そのような要求運動があり、東光中の「校区事業」は、委嘱の終わった後もさらに取り組みを広げながら現在まで継続することができています。

4.「校区事業」の成果 〜その豊かな教育効果〜

 成果と課題としてまとめていきたいのですが、昨年から東光中校区にある私立の東福岡高校も「校区事業」の取り組みに参加してくれるようになりました。「校区事業」の推進委員会や地区の教育対策部会という子どもたちの教育について考える場に、東福岡高校の同和教育担当の先生が必ず参加してくれています。

東光中学校区には高校中退という大きな課題がありました。「将来の展望を持つことが難しい」「生活リズムが整わない」「友達関係がうまくいかない」「(高校生活が)思っていたのとは違っていた」等々、中退者が後を断たない状況に悩んでいました。そんなときに、高校の先生と連携がとれるのはとても大きな力です。

推進委員会の中で、今の高校生の実態や思いを聞き、大人たちとのギャップに気づかされました。また、高校での進級の厳しさも知り、高校へ入学するまでに、保育所・幼稚園・小学校・中学校、そして家庭でどんな力をつけていかなければならないのかを考えさせられました。

そして、今、それを「校区事業」の取り組みに生かしていこうとしているところです。11月におこなわれる校区の「マイ・タウン・フェスタ」には、今年から東福岡高校の吹奏楽部も参加することになりました。小学校、中学校の吹奏楽部とのジョイントが実現することになり、とても楽しみにしています。高校生との交流を通して、子どもたちが高校に対する憧れを持ち、素直に感動する経験ができたらいいなあと思っています。

またこのフェスタには、今年から清水保育所の子どもたちも参加してくれることになりました。地区の家庭には読み聞かせや読書の経験が少ないという実態があり、保育所が読書の取り組みに力を入れて6年目になります。毎日2、3回の読み聞かせや本の貸し出し、親子読書など様々な取り組みを続けた結果、いま小学校に上がってくる子どもたちの姿が変わってきています。子どもたちの本に対する捉え方がとてもいいので、その取り組みのよさに学んで昨年の4月から堅粕小学校でも「朝の読書」運動に取り組んでいます。その結果、堅粕小学校でも子どもたちが変わってきています。

そういった取り組みの成果を3校合同の同和教育研修会の中でそれぞれの学校の先生に伝えていった結果、東光小学校でも「朝の読書」に取り組むようになりました。今年になって、それまで中学校の時制では「朝の読書」はなかなか難しいと言われていたのですが、保育所や小学校の取り組みの成果と「校区事業」の連携から中学校でも「朝の読書」に取り組むことができるようになりました。今、3校とも落ち着いた朝を迎えることができています。

先ほどお話した「マイ・タウン・フェスタ」なのですが、始まった最初の頃は外部からバンドを呼んで、地域や保護者、小学校の5、6年生、中学生が聞くという受け身のスタートでした。

そこで、「自分たちで手作りのフェスタを!」また、「全員が参加できるものを」と取り組んできた結果、今では地域の人たちの「博多にわか」をはじめとして、3校の保護者による人権劇、小学校同士の交流会の発表、中学生の合唱、保育所と2校の小学校5、6年生による合唱や合奏、小・中・高吹奏楽部演奏…と参加者や内容が広がってきました。

フェスタの発表の場だけではなく、作る過程での交流が、お互いを知り、関係を作っていく上で大切な出会いの場ともなっています。

今年の保護者による人権劇は、着ぐるみ劇をすることになっているのですが、3校の保護者が集まり小道具を作りながら、つい先日から劇の練習がスタートしました。その中で、「ここはもっとこんなふうにしよう」と意見を出し合ったり、ダンボールで作ったスピーカーの出来ばえにみんなで満足したり、ほんとうに笑顔と笑いの絶えない練習風景でした。その中で、これから先も一緒に取り組んでいこうという気持ちが強く感じられました。

このように、立ち上げた当時は大変なことばかりでしたが、振り返ってみると成果ばかりといっても過言ではない「校区事業」であり、地域や保護者、学校間の連携が進み、お互いに協力して地域全体で子どもたちを育てていこうという雰囲気が出てきました。    

そういった雰囲気が出てきた大きな要因として、「地区関係校」外の東光小学校と私立の東福岡高校がこの取り組みに参加してくれたことが挙げられます。子どもたちの学校生活が落ち着きを見せ、学びに向かう姿が少しずつ見られるようになってきたのは大きな成果だと思っています。このような豊かな教育効果を生みつつある「校区事業」を今後も継続していきたいと思っています。

5.残された課題

しかし、まだまだ課題も残されています。高校中退の問題、それから地区と地区外との学力格差の問題は依然として大きな課題として残っています。また、今回の「法」切れに伴って同和教育推進のための教員が削減されていくという方向性もあります。そのことによって現在の事務局中心の運営体制が維持できなくなると、今までの「校区事業」の継続が難しくなってきます。「人や予算がなくても続けるのか」という校区からの問いかけをもう一度真剣に学校現場として考えていかなければなりません。

「校区事業」を続けるために何ができるのか、どうしたら続けていけるのか、これがいまわたしたち東光中学校区の大きな課題となっています。これで東光中学校区の取り組みの報告を終わります。