講座・講演録

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世界人権宣言54周年記念大阪集会(2002年12月10日)
世人大ニュースNo.245 2003年01月10日号より
講演1 タイにおける国家人権委員会

報告者:スティン・ノーパケッさん
(タイ国家人権委員会委員)

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新憲法制定と人権委員会の設立まで

タイでは国家人権委員会の設立にあたり大変努力してきた。1997年制定の現憲法制定のためのセミナーなどのキャンペーンと併せて、委員会設立に向けて人々の参加と貢献を呼びかけてきた。この活動を通じて分かったことは、人々の参加と関与を得ることが最も重要な点であり、議会に働きかける上で大きな力になるということだった。

1997年の憲法改正と国家人権委員会法制定以前、私たちは人々の関与および参加を得るため様々な苦難に立ち向かってきた。タイ全土で大学などで集会、研究会を行い、各地でセミナー、グループディスカッションを開いた。また政治家や産業界などに対してロビー活動を展開し、メディアにも協力を求めた。この時も常に私たちは緑の旗をシンボルとして用いた。数多くの人々がその旗を手に活動し、タイ国憲法を現在の形に変えたのである。

人権委員会の任務

人権委員会の任務としては次の7つが挙げられる。(1)国内及び国際レベルにおいて人権原則の尊重と遵守を促進する、(2)タイが締約する国際人権条約に反する、あるいはそれと合致しない、作為または不作為による行為の調査し・報告。またそのような行為を行なった人・または組織に対して適切な救済措置を取るよう提案する、(3)人権の促進と保護に関する法、規則に関して政策及び勧告を提言する、(4)人権教育及び研究を促進、人権に関する情報を発信する、(5)政府機関、NGOなどとの調整・協力を促進する、(6)国内の人権状況と委員会の年間業績に関する2つの年次報告を作成する、(7)政府が人権条約への加盟を検討している際に意見を提言する。

人権委員会の重要な要素

1997年の現タイ王国憲法内に、人権の保護及び促進に関する部分として、第199 条及び第200 条が盛り込まれることになった。それに基づき国家人権委員会設置法が起草され、そこで選任委員会は中立で公開性と透明性を持った活動を行い、十分な経験と高い倫理観を有する委員が選出されるよう活動した。またどうすれば人々が国家人権委員の取り組みを最大限活用できるかという視点から、委員会の活動状況のフォローアップも行ってきた。

国家人権委員会の重要な要素として、何よりも運営における独立性があげられる。具体的には委員会はその組織構造、意思決定過程、予算補助などの財政面において完全に独立していなければならない。

人権委員会は政府からいかなる管理も受けない、どの省庁にも付随してはいけないと同時にNGOからも独立していなければならない。そしてあらゆる組織との良好な関係を築いていかなければならない。つまり委員会の成功は独立した機関でありつつ、あらゆる組織とのネットワークの継続にかかっている。

また成功するための要素として、社会のあらゆる部門との活動協力及び調整を行い、広く開かれた政策を策定すること。そしてあらゆる人々が容易にアクセスできる場所と施設形態が考えて設置されなければならず、厳重な警備は行われるべきではないということがいえる。

今後の日本にも参考になる点として、国内人権委員は常勤で10人以上を選任し、前職に関わらず自らをあらゆる人権侵害の問題解決に取り組む、専門的な人権実務家として考えるべきである。そしてまた国家人権委員会法制定以前から委員会は幅広い人々の関与と参加を得なければならず、制定に関してはあらゆる分野の人々に受け入れられることが重要であることも指摘しておきたい。

6ヶ年戦略プラン

タイ人権委員会は次のような6カ年戦略プランを策定、2002年から取り組んでいる。

(1)効率、実効性、説明責任を重視した組織強化、(2)情報ネットワーク構築と調査活動による関連知識の向上、(3)人権尊重政策の発展と法律の改正、(4)国内・国際的パートナーとのネットワークの強化、(5)組織内の実効性のある人権保護メカニズムの構築、(6)憲法に規定された権利の行使と保護のための人々のエンパワメント、(7)促進的活動と予防的活動の強調、(8)人権及び人間の尊厳の尊重に関する社会的学習の支援、の8つだ。

これに加え、a)子ども・若者及び家族、b)天然資源基盤とコミュニティ権利、c)法律と司法手続、d)社会問題、e)人権教育、の5つの重点分野がプラントして記載されている。

また国内人権委員会は実効的な組織であるために、十分な人員と最小限の官僚組織が必要であることを強調しておきたい。タイ国家人権委員会は委員長を含む11人の常勤の委員で組織されており、事務局長と事務局次長の他に、4つの局である中央行政局、人権保護局、調査及び法治局、人権伸長とネットワーク調整局にそれぞれ部長を置いている。

国内人権委員会設立あたり日本社会に望むこと

今回のシンポジウムに多くの方が参加されていることからも、日本の人々が人権委員会設立に強い関心を持っていることがよく分かった。私は日本の国内人権委員会設立について、日本社会、そしてNGOに次のことを期待している。

このシンポジウムにおける幅広い人々の関与と参加を受けて、日本政府はこれまでの政策を転換し、委員会の独立性を高め、そして人権委員会を法務省またはどの省庁の所轄ともしないことである。そしてNGO活動を含む日本の市民社会活動が政府と議会に影響を与えることによって、現在想定されている人権委員会よりも、なおいっそうの独立性、公開性、実効性を持った人権委員会の設置が実現されることも期待される。最後に日本社会のあらゆる分野間の協力によって、日本にとって最善の人権委員会が設置されることを心から願っている。

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タイ国家人権委員会へのQ&A
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Q1:日本もそうですが、なぜ政府は人権委員会を法務省(法務部)の中に置きたがるのでしょうか。また、タイと韓国では人権委員会を独立機関とすることになった決め手は何であったか教えて下さい。

A1:第1に、日本政府を含む多くの政府が、人権侵害の問題を、人権の問題あるいは人間の尊厳の問題であるとは考えず、行政上の問題であると捉えて疑わない、ということが指摘できます。それらの政府は、人権の問題また人間の尊厳の問題を真には理解していませんし意識していません。多くの政府は、あらゆる問題を身内だけで処理することに慣れており、また、よりよくそれらの問題に対処できるのは他ならぬ自分たちであると信じています。何より重要なことは、多くの政府が、トップダウン方式であらゆる決定を下し、問題を自分たちだけで解決するというやり方を踏襲してきたことです。ほとんどの政府が、司法手続きは法務省によって処理されるのが最善だと考えています。

タイ人権委員会法で委員会の独立性を確保できた、最も重要な要因は、現タイ国憲法とタイ人権委員会法の起草過程において、タイの人々が多くの努力と時間をキャンペーンに費やし、そして政府、政治家、市民運動団体、NGOとの対話を行ったことです。政府が独立した人権委員会を認めるまでにタイの人々は、数多くの政治的危機を経験し、また軍事政権や独裁的な政府に挑戦する運動を経てきました。

Q2:人々は法に書かれた自分の権利を詳しく知っているのでしょうか?そうでなければ、委員会に人権侵害を訴えられないはずです。

A2:タイの場合、全ての人が、憲法や法律に明記された自らの権利について、十分に理解しているとはいえません。しかしながら、私たちは憲法を読み、理解するよう彼らを説得すると同時に、以下の3つのアプローチによって彼らを教育する努力をしなければなりません。

1)定型教育(学校、大学) 2)非定型(ノンフォーマル)教育 3)無定型(インフォーマル)教育

あらゆる人権団体、政府機関が市民運動団体とともに教育を推進し、人権侵害を防止しなければなりません。人権委員会法を完成させ、人権委員会を一刻も早く設立するにあたって政府と議会がイニシアチブを発揮するように圧力をかけるためは、人々の運動を促進することが大変重要で、不可欠です。これが権利と尊厳の侵害から日本社会のすべての人々を保護する最善のメカニズムです。