講座・講演録

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世界人権宣言54周年記念大阪集会(2002年12月10日)
世人大ニュースNo.245 2003年01月10日号より
講演2 韓国国家人権委員会の経験の共有をめざして

報告者:パク・キョンソさん
(韓国国家人権委員会委員)

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韓国人権委員会設立の背景と意義

韓国の国家人権委員会は人権状況を増進し、人権保護を促進するために2001年11月25日に設立された。韓国国家人権委員会は、国家権力による人権侵害という過去の暗い歴史を繰り返さず、国家権力による人権侵害を絶ち切るという韓国の人々の意思の反映のもと設立された。韓国は、1960〜80年代に権威主義・軍事政権による統治の時代を経験し、数多くの人々の犠牲と人権蹂躙の傷を負わされてきた。しかし金大中政権の誕生によって、様々な面での人権制度の発展がもたらされた。しかし現在もなお公権力による人権侵害が全くなくなったとはいえない。したがって人権委員会の主要な任務の1つが、公権力による人権侵害からの救済である。

また委員会は人権侵害の恐れがあれば、国家のあらゆる法令や政策に対して改善の勧告をするようになっている。更に国家行政機関や地方自治体の長は人権に影響を及ぼす内容を含むあらゆる法令を制定・改正する際には、あらかじめ委員会に通報して必要な意見を聞くことになっている。つまり国際的な人権基準が韓国の国内政策決定や公権力の行使に対して、重要な基準の一つになったということだ。これが人権委員会が設立されたもう1つの重要な意義である。

こういった人権委員会の設立の意義は韓国に限らず、全ての国の国内人権機構、そして今日本が設立予定されている人権委員会にも適用されるだろう。

国家機関による人権侵害からの保護

韓国国家人権委員会が設立した2001年11月25日から翌年10月までの1年間で受理した陣情件数は2197件である。その内の81%にあたる2411件が人権侵害に関するケースだ。0.5 %(138 件)が差別に関するもの、14%(422 件)がその他のケースに該当する問題である。また人権侵害を訴えた2411件の内842 件が刑務所などの矯正施設によるもの、668 件が警察、260 件が検察によるものだった。

このように個人が受ける人権侵害の大部分は国家機関によるものだ。個人が国家機関から人権侵害を受けた場合、それは深刻な人権侵害事案である可能性が高い一方で、個人にはそれを改善するだけの権限が与えられていない。そのため、当然これらは国家人権委員会が解決しなければならない問題となる。

韓国人権委員会法は国家機関、地方自治体、拘留または保護施設の任務遂行において、憲法の第10条から第22条で保障される人権が侵害された場合、人権委員会はこれを調査する権限があると明文化されている。

日本においても名古屋の刑務所で悲しい事件があったように、国家機関による人権侵害が発生している。したがって、国家機関と地方自治体による人権侵害の問題に対して、保護を法律の中に明示することは重要である。

人権委員会の独立性

韓国の国家人権委員会は、立法・司法・行政のどの機関にも属していない。このことは人権委員会が政府の干渉を排除し、特に国家機関を調査する際には非常に重要な意味を持つ。つまり人権委員会がその役割を十分に遂行するためには、法務省からの独立性がまず保障されなければならない。韓国でも法務部からの独立は容易ではなかった。1999年に法務部は国家人権機構を設立しようと法案を提出した。それが人権機構を法務部の下に置くという内容であったことから、韓国のNGOは3年におよび闘いを繰り広げた。委員会の権限、予算及び監査を法務部が支配するのは不適切であり、それでは委員会が十分に機能しないためだ。

国家機関による人権侵害を防止するための重要な制度として、勧告制度が設けられている。これは人権に関係する法令、制度、政策などに関して調査・研究し、改善のための勧告や意見表明を行なうものだ。これに基づき韓国人権委員会は、テロ防止法案への反対声明を発表、産業研修生制度の再検討を総理府に勧告、また教育および人的資源開発省への勧告などを行った。この制度は、社会における人権状況を効果的に向上させることを目指しており、どの人権委員会にとっても重要な機能といえる。こうした任務を遂行するためにも、やはり委員会の独立性は保障されなければならない。日本においても独立性が確保され、この制度が取り入れられれば、より効果的な委員会になるのではないだろうか。

委員会の適正な構成―委員と職員―

これまで人権委員会の独立性や効率的な制度の保障に触れてきたが、最後にもう1つの委員会設立に関する重要な点である、委員会の人的構成について述べておきたい。

韓国の人権委員会は委員長1人、常勤の委員3人、非常勤の委員7人の11人で構成されており、これらの委員は法律の専門家、人権の専門家また民間の人権活動家である。職員は215人で、約50%が民間出身の人権問題専門家である。韓国では発足1年あまりで、3000件以上の陳情を受けた。韓国より3倍の人口である日本においては、さらに多くの陳情が受理されることが考えられるが、わずか5人の委員では現実的にあまりにも不十分である。

人権分野における専門性を強化するのは、人権委員会の本質的問題である。そのために人権もしくは法律の専門家、人権活動家などから職員を採用する必要がある。

日本は現在国家人権委員会設置に向けた準備の時期にあるが、それは言葉を変えれば、法案に問題があれば修正できる時期でもある。つまりここに集まった皆さんが善意の圧力団体となって、韓国よりも素晴らしい人権委員会をぜひ目指していってもらいたい。

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韓国国家人権委員会へのQ&A
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Q1:日本もそうですが、なぜ政府は人権委員会を法務省(法務部)の中に置きたがるのでしょうか。また、タイと韓国では人権委員会を独立機関とすることになった決め手は何であったか教えて下さい。

A1:多くの国において、人権委員会設立に向けた初期の段階では、パリ原則に示された委員会の独立性にあまり注意を払っていないという傾向があります。いかなる犯罪に対しても、他のどの機関にも劣らない優位の捜査権を有すると自覚している法務省(法務部)は、委員会に監督されることを好みません。法務省(法務部)は、あらゆる他の機関からの監督を嫌っています。

NGOによる、3年間止むことのない協調のとれた努力、議員へのロビー活動、関心を寄せている人々や専門家との対話の結果が、委員会の独立性をもたらしました。どこに、あるいはだれに付属しているかということよりも、委員会の活動の独立性が確保されているかが、より重要です。私たちがずっと望んでいたものは、活動の独立性です。