講座・講演録

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2003.11.12
講座・講演録
第244回国際人権規約連続学習会(2003年10月21日)
世人大ニュースNo255 2003年11月10日号より

パネルディスカッション

「人権教育のための国連10年をふりかえり、第2次10年の実現を」

基調提案 友永健三(世界人権宣言大阪連絡会議事務局長)
自治体 龍野幸一さん(大阪府人権室)
企業 田中康仁さん(カネボウ株式会社)
学校教育 林伸一さん(大阪府立槻の木高等学校教員)
草の根 笠原秀己さん(世界人権宣言八尾市実行委員会)

■基調提案■

  1995年1月1日からスタートした「人権教育国連10年」、残すところ1年余となりました。以下、基調報告について柱立てで書きました。なお、基調報告の詳細な内容については、紙面の関係上省略いたしましたが、パワーポイントのデーターとして各方面で利用いただけるよう無料貸し出ししています。ご希望の方は、事務局までご連絡ください。

「人権教育のための国連10年」
〜第1次の総括を踏まえた第2次の課題〜

友永健三(世界人権宣言大阪連絡会議事務局長)

◆「人権教育の10年」の「行動計画」の柱とは何か

<1>世界人権宣言等の普及と実現、<2>被差別者の人権の重視、<3>特定職業従事者に対する人権教育の重視、<4>あらゆる場での人権教育の推進、<5>国際・国際地域・国等それぞれのレベルでの取組の推進、<6>委員会の設置による行動計画の策定、<7>推進体制の確立・予算の確保・センターの整備、<8>手法・テキスト・カリキュラムの開発など。

◆これまでの成果

<1>人権教育の重要性の認識の高まっている、<2>様々な分野での人権教育の連携の構築、<3>被差別者に光が当たるとともに特定職業従事者に対する人権教育が重視されたこと、<4>各方面での推進体制・行動計画の整備。

◆問題点

<1>まだ取組まれていない地域があること、<2>計画が具体化されていないこと、<3>議員や裁判官、民間企業や宗教教団の中での取組がまだまだ弱いこと、<4>人権尊重のまちづくり等と結合されていないこと、<5>情報化社会の到来に十分対応できていないこと。

◆国際的に求められている今後の課題

<1>人権教育をさらに重視すること、<2>全ての国で体制や計画を作って人権教育に取組み、地域会合を開催すること、<3>引き続き特定職業従事者向けの教材を作成すること、<4>企業に対して人権教育の取組を呼びかけること、<5>インターネット時代に対応した行動計画を策定し、<6>引き続き世界各地の人権教育に関した取組を収集・紹介すること、<7>第1次の総括を踏まえ、第2次が取組まれるようにすること。

◆日本国内で求められている課題

<1>各方面で第1次の総括を踏まえ、第1次のあり方を討議すること、<2>実態調査の実施、<3>行動計画や人権教育・啓発基本計画を策定・改訂し人権尊重のまちづくりとの結合を図ること、<4>「委員会」を設置し上記の取組を実施すること、<5>事務局を内閣府に設置し体制を充実させ予算を確保すること、<6>特定職業従事者に対する人権教育の充実、<7>全自治体で体制を整備し行動計画を策定し予算を付けること、<8>学校教育・社会教育・生涯学習のカリキュラムの中に人権教育を明確に位置付けること、<9>企業・民間団体・宗教教団・メディア、法曹関係者・議員等に対する人権教育の強化、<10>各方面での人権教育のリーダーの養成、各地での人権・教育センターの整備。


■自治体

「人権教育のための国連10年」の取組について
〜大阪府行動計画を例に〜

龍野幸一さん(大阪府人権室)

はじめに

  大阪府は「国連10年」に対して最も機敏に対応した自治体で、まだ日本政府も行動計画を打ち出していない97年3月から大阪府は行動計画を策定しています。また府としては中間年である2000年に見直し作業を行い、それを基に2001年3月に「国連10年」大阪府後期行動計画を策定し、現在は次の計画をどうするのかという作業を進めている段階です。

 大阪府の行動計画には2つの目標があり、「10年の趣旨および行動計画の内容が各方面にくまなく浸透すること」、「2004年の最終年には、人権という普遍的文化が確立されるレベルに達すること」です。それでは具体的取組をこの目標と照合することで評価してみたいと思います。

大阪府の取組みをふりかえる

  大阪府の取組は、前述の通り中間年を境に前期と後期に分けられています。前期の取組は「国連10年」の広報・PRと推進体制作りといった環境整備、あるいは器作りに重点を置いてきました。また府庁内各部局で一斉に「国連10年」に取組むために、「大阪府人権教育のための国連10年推進本部」の設置という組織作りも内部的に進めてきました。また「国連10年」を各方面に広めるために大阪府行政のパートナーである外郭団体や関係団体への取組のガイドライン作成も前期に非常に力を入れてきました。

  一方、後期は、前期の器作りに対して、そこへ本格的に中身を盛り込んでいく時期だと認識しています。例えば、大阪府職員・公務員への人権教育の強化に向けた教材作成や人材育成、人権をそれぞれが自分の問題化できるような教育方法の改善、また、この間、「人権尊重の社会づくり条例」を制定し、これに基づく人権施策推進基本方針を策定し、府の人権施策を「人権意識の高揚に資する施策」と、「人権擁護に資する施策」との2つに体系化してきました。このうち「国連10年」に関係する施策は「人権意識の高揚に資する施策」の施策計画として整理しました。そして同時期に制定された人権教育・啓発基本法との関係において府の行動計画は、法が求める自治体の人権教育・啓発の基本計画に対応するものとして政策上の整理を行いました。以上がこれまでの大きな取組です。

取組みの目標達成度と成果について

 以上を受けて府の目標を評価していきますと、まず1つ目の目標については、府民の「国連10年」の認知度が20.6%で外郭団体職員では36.6%、農協団体では21.7%という数字が出ています。府内全ての市町村で行動計画が制定されていて、44市町村のうち18市町村で府と同様に「国連10年」の普及を目標にしているにもかかわらず認知度が20.6%というのは物足りない気がしますが、行政が行う広報としてはかなり高い方ではないかという意見もあります。2つ目の目標については非常に難しい目標設定をしていますが、それを測る目安として教材・人材・情報提供体制という人権教育を推進する環境整備がどの程度進んでいるかという物差しで判断することができるでしょう。

  まず教材プログラム関係では97年以降毎年40程度の具体的事例に即した教材が作られていて、質・量ともにプラス評価だと考えています。人権教育のリーダーの人材養成については職域・地域合わせて、年平均で約3300人を何らかの形で養成しています。しかしこれは府が行っている人材養成の数であって、これに加えて各市町村や民間団体も養成しています。従って、実際には府内で相当数の人材が養成・供給されています。情報提供については2000年に大阪府の人権ホームページが開設されたのを始め、民間の方でもホームページや人権教育の相談機能など、情報提供体制が相当整備されてきました。

大阪府のこれからの課題

 次に、これに対する府自身の課題について述べていきたいと思います。大阪府は広域行政体のため、府内の取組格差を是正して凸凹をなくすことが機能として重要です。そのため府内で人権教育を推進して、一定水準の取組が成されるように支援誘導しなければなりません。しかし、まだ関係団体の9割で取組がなされていないなどの現状があるため、もっと各方面への働きかけを強化する必要があります。また人材養成についても府が職域・地域のモデルを打ち出す必要があります。そして、それに見合う養成プログラム作成や養成した人材を活用する支援方策の検討が必要です。また、後期行動計画で検討課題とされ明らかになった人材養成、調査研究、情報収集提供、人権教育・啓発実施、NPO支援といった、府内全体の人権教育のレベルアップを促進・支援していく上でコアとなるこれら5つの機能を次の計画では盛り込んでいかなければなりません。これ以外にも府職員や特定職業従事者への人権教育なども強化して、大阪府が世界的な人権文化都市となるために次の計画にしっかり取組んでいきたいと考えています。

最後に

 現在行政の方では様々な施策が計画されているわけですが、これからの計画には数値目標が必要になってくるのではないでしょうか。なぜなら数値目標がなければ進める側の進行管理も難しく、一般市民に対する説得力や客観的評価についても難しくなると思うからです。従って、今後の計画については数値目標がどの程度持てるのかということ自体も課題の1つになってくると私は考えています。


■企業

「人権教育のための国連10年」と
大阪同和・人権問題企業連絡会活動

〜啓発活動を中心として〜

田中康仁さん(カネボウ株式会社)

はじめに 

  「国連10年」は世界の人権状況が世界人権宣言に謳われた内容と程遠い、むしろ後退しているために提起されたものです。従って、そこに定義されている人権教育とは、<1>単なる情報提供にとどまるものではなく、他者の尊厳について学び、またその尊厳をあらゆる社会で確立するための方法と手段について学ぶ、<2>研修・宣伝・情報提供を通じて知識や技術を伝え、態度を育むことにより人権文化を築く(人権が日常生活の中で定着した状況を作り出していく)という2点にまとめることができます。

  これに対して私が所属して活動している大阪同和・人権問題企業連絡会(大阪同企連)では「国連10年」を中心に据えた取組は残念ながらできていません。しかし、設立して26年を経過する中で取組まれてきた啓発活動はそれと多々合致するので、今回はそれを中心にこれからの企業組織における人権研修の意義も踏まえて報告していきます。

大阪同和・企業人権問題企業連絡会とは

  大阪同企連は78年に設立して、現在147社が加盟する任意団体です。設立のきっかけとなったのは75年の部落地名総鑑事件であって、その差別図書を購入した行為への反省のみならず、それを購入しようと思うこと自体の差別性に気付かなかった企業の差別体質を改めていこうということで取組が始まりました。そこで当初の目標は「会員企業の差別体質の払拭」と「人権尊重の企業経営の確立」の2つで、それに向けての雇用と啓発という柱のもとで活動を行ってきました。雇用については大阪人材雇用開発人権センターからの雇用、つまりは就職困難者の就労支援を行っています。啓発については、同企連では啓発は知識を拓き起こし理解を深めること、啓発活動はそれを手引きするものと認識しています。ですから、研修の積み重ねが啓発になると考えこれまで取組んできました。

組織の改革へ

 以上のような活動を行ってきましたが、やはり長期間続けていると組織的にも、また会員企業内でも様々な問題が生じてきました。そこで設立から20年が経過した97年に中期目標(97〜02年)を設定して、同企連改革を行いました。この中身は大きく分けて<1>推進体制の確立と推進委員会の機能充実、<2>役員・従業員への年1回以上研修・啓発の実施、<3>現状把握に基づく効果的な研修の実施の3点です。

  しかしこのような中期目標を掲げて新たな活動に取組もうとした矢先の98年、日本アイビー・リック社による差別身元調査事件が発覚しました。そして残念ながら同企連の中でも多くの企業がこれに関与していた事実が明らかになったのです。この事件を契機に私たちは再度自分達の取組を見直し、次の問題点を抽出しました。<1>研修・啓発への取組そのものが目的化していなかったか、<2>人権尊重の企業経営に向けて日常的な実践を浸透させていたか、<3>人権尊重の視点から関連会社への側面的支援を図っていたかの3点でした。そしてこれによって公正採用選考の徹底、人権尊重の企業経営を目的とする実効ある研修・啓発の更なる充実、人権の視点から現行の職場風土・慣行・業務の進め方・各種社内システム等の見直しという課題が明らかになったのです。

企業、企業組織における人権啓発・研修

  さて今日の社会は変化が非常に激しくなっており、その状況で今後大阪同企連はどのように活動していけば良いのでしょうか。それを明確にするために2000年に中・長期ビジョンを策定しています。その基本方針は、第一に人権尊重の企業経営の確立に向けて、人権尊重の企業経営・活動を確立するための会員企業の取組を支援する実効ある同企連活動を推進すること、第二に人権確立社会の実現に向けて、組織内外の企業・団体との連携を深め、人権に取組む企業の輪を広げる活動を推進することです。ちなみに、第一の方は設立当初からの柱の1つであって、第二が今回新たに加わった視点です。現在、大阪同企連はこういった方向で活動しています。

 最後にこれからの企業における人権啓発や研修の意義についての私見を報告したいと思います。この10年新たな社会システムや市民の意識変化等といった急速な社会変化が起こっており、これにきっちり対応していかなければ企業として存続できない状況になっているといえるでしょう。そこで求められる研修はどのようなものでしょうか。まず1つは社会の利益のために行動し、社会的責任を果たすものです。具体的には最近次々に制定されている人権に根ざした法律や施策に対応するものです。2つ目にはグローバルスタンダードへの対応です。これは先の社会的責任が国内の人権状況に対応したものであるのに対して、全てが人権というわけではないがそれも含めてより国際的潮流に対応したものであるといえます。そして3つ目が生産性と創造性の向上のための人権研修です。先の2つがどちらかというと外的な要因が強いのに対して、こちらは自らを研修で向上させる面が強いため、私はこの点が最も重要ではないかと思います。

最後に

 先ほど急速な社会変革への対応が必要と話しましたがそれはそこで働く者の意識も変えていかなければならないということです。そうすることで初めて市民からの認知や社会的評価が得られ、企業のイメージや競争力の向上につながっていくのです。しかし、企業にあってはまだまだ「人権問題」という捉え方が強い(対策型)。経営の根幹に「人権尊重」が位置づけられ、あらゆる経営活動(経営活動を支える社内システムを含め)の中に「人権」がしっかりとおさえられた取組が今まさに求められていると思います。


■学校教育

高等学校の取組みを中心にして

林伸一さん(大阪府立槻の木高等学校教員)

大阪府立人権教育研究部会体制の改革 

  私は大阪府立槻の木高等学校の教員であると同時に大阪府立学校人権研究会で研究交流部長という仕事をしているので、今回は主に府立の高等学校で「国連10年」についてどう取組まれ、どのような課題があるのか等について報告していきたいと思います。

  大阪府立学校人権教育研究会は大阪府立高等学校同和教育研究会を前進とする組織で、養護学校も含めた府立の学校約200校のほとんどが登録していて、現在は約300人が研究部員として登録しています。具体的な活動としては研究部会と、学区を中心とした各地域の交流部会、そして研究会の研究部員以外の人にも広く参加を呼びかけるオープンセミナーという研究会が持たれています。

  これまでの様々な「国連10年」の取組や大阪府の施策によって人権教育の認知度が上がるにつれて研究部員登録数、あるいは研究会などへの参加人数は増えてきています。かつての同和教育という名前の時にはテーマが限定されているのではないかという意見もありましたが、同和・解放教育の中で培われてきた経験が障害者や在日などの教育問題にも非常に有効に機能することが分かってきました。それが人権教育に変わってテーマがより一層広がることによって、参加者が増えたと私は考えています。

研究会の活動の成果

 この研究会の10年間の活動の大きな成果として、教材・プログラム集『おおさか発、総合学習への道』と『やってみよう!総合学習』の2冊ができたことがあげられます。具体的には近刊の『やってみよう!総合学習』は人間関係のトレーニングを目標にした教材・プログラム集となっています。私たちがこういう教材を作るようになったきっかけは「国連10年」が始まる少し前の、ある高校での3年生の男子生徒の『A(同和地区)って怖い所やろう?』という発言でした。

  実はこの男子の兄が盗難に遭って『こんなことをするのはB地区(いわゆる低所得者層の暮らす公営住宅が多い地域で、この男子生徒も住んでいる)か、A地区の者や』と言っていたのをこの男子生徒が聞いて、それを一緒に活動していたA地区出身の女子生徒に発言したのです。そしてこれは様々な話し合いを経て、最終的にはA地区でのフィールドワークを実施することになりました。この取組はその女子生徒が自分たちの地域の取組やそこでの誇りを話すことで、発言した男子生徒をはじめ多くの人の共感を得て、当日は学年のほとんどの生徒のみならず2年生も参加した大変大きなものになりました。

  そこで私たち教員も大きな成果が得られたと喜んでいましたが、一方では発言した男子生徒が自分の暮らすB地区をどう捉えているのかという不安もありました。つまり自分の住んでいる地域やそこでの課題に取組めていないために、そこへの誇りや自信が持てていないのではないかということです。この問題にどう取組んでいけば良いのかをずっと考えていたところで「国連10年」の取組が始まり、その中で人権というものが先の二人の生徒をつなぐ柱になると気付いたのです。そして子ども達が自分に自信を持っていけるようにするためにどのような教材や学校体制が必要なのかを考えた結果、この教材・プログラム集が誕生しました。

  こういった教材を用いることで既存の授業にはない自己肯定感や自己効能感の形成、あるいは生徒が社会に関わる活動を促進する教育ができるようになりました。これがこの間の取組の中での大きな成果であったと思います。

これからの課題〜人権教育の概念を明らかに〜

  では今後の課題についてですが、まず人権教育に対する意識の問題があると考えています。これまで同和問題では意識を毎年調査して結果を出してきたが、人権問題ではその概念がまだ明確でないために、調査でどのような結果が出れば人権意識が向上したのかを判断する基準が十分に検討されていません。今後はぜひこれを確立していきたいと思っています。

  また人権教育の多様性に注目して様々な専門分野の方々や、NGO・NPOとの関わりをもっと深めていくことも今後の大きな柱といえるでしょう。そして最後が職業・進路に関してです。現在私たちは子ども達の就職採用面接に際して、どういう質問に答えてはいけないのかを教えていますがそれだけでは不十分ではないでしょうか。まずその企業に対して自分の特徴は何で、何を売り込みたいのかを生徒自身がアピールできるようにならなくてはなりません。その上で自分のアピールできることを聞かないで、家族構成や親の職業といった自分の適正能力と関係のないことを聞くのはおかしいと指導していきたいのです。

  そうすればなぜその質問に答えてはいけないのかが理解しやすく、自信を持ってそれを主張できるからです。そのために教員がもっと企業と連携を深めていくことが大きな課題であって、同時に企業にも自分の会社のアイデンティティーは何で、どういった人材を求めているのかをもっとアピールして貰いたいと思っています。

最後に

 市場経済が大きな影響力を持つ時代になった中で子ども達は消費者として育ってきています。そんな子ども達に対して企業がその規模の大小に関わらず、生産・サービス提供の魅力、それぞれの企業の特徴、子ども達の適正能力を伸ばして人権を尊重する企業である等ということを宣言していただければ、子ども達は消費者としてだけでなく生産者としての資質がもっと伸びてくるのではないでしょうか。


■草の根

地域に根ざした取組について

笠原秀己さん(世界人権宣言八尾市実行委員会)

「世人やお」と「じんけん楽習塾」とは

  私の方からはワークショップの活用とネットワークを築いて市民主体の人権教育をどのように展開したのかを中心に報告します。

 この世界人権宣言八尾市実行委員会(「世人やお」)は2000年6月に再結成しました。八尾市には従来、社会教育団体や自治組織等で構成される八尾市人権啓発推進協議会、部落解放同盟や労組等で構成される同対審八尾市実行委員会、市内企業で構成される八尾市企業内同和問題研修推進連絡会、そして先の3団体で構成される世界人権宣言八尾市連絡会の4つ啓発団体が存在していました。しかし90年代に入っていくつかの人権NGO・NPOが新たに誕生し活動を始めていましたが、従来の啓発団体はどこも受け皿になりえていないという問題がありました。一方、八尾市同和事業促進協議会で始めたワークショップ講座が思わぬ好評を得たことも契機となって、組織の再編成を試みることになりました。

 この「じんけん楽習塾」は、参加型でいろんな人権課題を学べる連続講座ということで開いていますが、当初は「人権学習リーダー養成講座」と銘打って始めました。しかし、参加者はファシリテーターを目指すよりも参加型で学べることが楽しい、いろんな人とであい一緒に学びあえるのが楽しいという理由で来る人が多く、口コミで参加者を広げてくれたり、学びたいテーマに合ったファシリテーターを探してきたりと、自分達で講座を作る活動へと変わっていきました。そこで翌年に名称を「じんけん楽習塾」に変更し、目的をファシリテーター養成から自主的な学びの活動に変えていったわけです。

 このような参加型が持つ主体的な学びの活動を市民活動に活かしてみたい、それが先の再結成を提案する契機となり、同対審八尾市実行委員会と世界人権宣言八尾市連絡会を合同してネットワーク型の市民活動として「世人やお」を再結成したわけです。

「世人やお」の人権教育活動

  「世人やお」の活動の柱は<1>人権のネットワークづくり、<2>人権の市民活動支援、<3>人権のまちづくりの3つです。まず<1>については2つの活動があって、その1つがネットワーク会議、これは毎月1回開催されるもので、それぞれの活動報告を中心に進めています。その中で互いの課題を学びあったり、経験を交流したりして、面白そうな活動があればそれに乗っかったりといった具合で取組んでいます。もう1つは「ちいき・人権・world」という冊子の年4回の発行です。次に<2>については3つの事業を行ってきました。

  1つは市民活動募集事業ということで、市民グループの自主的な人権教育の取組を募集して助成する事業を2年間行ってきました。しかし昨年度から大阪府人権協会でも同様の事業募集や案内を回してくれるので、現在はそちらを紹介するようにしています。2つ目はCAP子どもワーク事業で、「世人やお」が費用の一部を助成することでCAPワークの学校での採用を促しています。そして3つ目がCAPを除くグループのワークの学校での採用を促す人権教育学校事業です。これらは要するにそれぞれの活動を支援することを目的に事業化したものですが、その上で、共通した取組も行いたいということで<3>の活動があります。

  共通の課題を見つけて人権のまちづくりに取組んでいこうと、結成から半年後に記念集会を開きました。この中で、「世人やお」に集う多くのグループがそれぞれユニークな人権学習方法を持っている反面、それを実践する機会に恵まれていないことが明らかになってきました。そこで「自分達の人権学習をもっと売りこんで行こう!」と、昨年度・一昨年度に文科省の人権感覚育成事業に応募しいろんな色々な取組みを進めてきました。

学びから行動へ

  そんな感じで、最近の「世人やお」は「学びから行動」が活動のメインになってきています。昨年も、子どもの権利条約を学び条例化していく、つまり政策提言につないでいくようなワークショップをやってみないかという提案があり、アドボカシー・ワークショップの取組みを始めています。具体的には昨夏から学びのワークショップやフォーラムを積み重ね、いよいよ11月21日に子ども権利委員会を立ち上げて市民で具体的な実践を始める段階に来ました。他に、PTAなどでの人権教育のファシリテーターづくりとしての「子どもと人権ワークショップ研究会」や、イベント「ひゅーまんフェスタ」を行政と協働で企画していくなどの活動が生まれてきました。

 最後に、人権教育の今後の課題というよりも、今後市民活動がそれぞれの地域で活かされるためのお願いとして、NPO・NGOを活かせるローカルネットワークの構築、府レベルなどでの「人権教育のためのワークショップ行動年」といった設定、人権教育・啓発が築いた資産と市民活動とを繋ぐ活動などして頂けたらうれしいと思っています。

最後に

 先日、ある県の市町村の啓発担当者の研修に呼んで頂きました。そこで、それぞれの啓発事業に自己評価点を付けて貰いましたら、多くの方が10点満点で8〜9点を付けていました。次に住民参加度を尋ねると今度は大半が3〜4点という低い点数になりました。つまり、住民の参加・参画が十分図られていない現状が見えてきます。啓発事業は住民の主体的な活動に繋いでいくことを忘れてはいけないと改めて感じています。