公立学校の民族教育の制度保障の経過と現状
-大阪府内を中心に-
私の方からは、「人権教育のための国連10年」の継続の観点に立って、今、何が求められているのかを中心に話していきたいと思います。
在日の立場から考えて見ますが、在日外国人をめぐる人権状況において絶対的に欠落している点としては、現在、日本に在日外国人の人権保障を規定する法律がないという事です。現在、外国人の処遇に関する法律は、外国人登録法と出入国管理及び難民認定法のたった2つだけであり、どちらも外国人を管理するためのもので、人権を守るためのものではありません。従って、在日外国人の人権は完全に空白状態にあるといえ、市民生活に一番密着している自治体が、切実さにせまられて外国人住民の支援策を作ろうにも結局行政裁量の範疇という小規模で不確実なレベルに留まってしまっています。
こうした状況で、政府施策の中に外国人の人権の視点を取り入れていくには、在日外国人人権基本法等の法律整備が必要です。ただ、今すぐそうした展望は見えてきませんので、人権教育・啓発推進法などの人権に言及した法律をうまく活用してくことは重要です。例えば、人権教育・啓発推進法に基づく基本計画の中に外国人に対する視点を具体的に盛り込んでいくということも重要であり、この計画の進捗状況が毎年国会に報告される「年次報告」時に、関係の国会議員に取り上げてもらうことも大切です。
現在、外国人の人権について言及している政府文書としては、91年の日韓外相が交換した覚書、「人権教育のための国連10年」政府行動計画、人権教育啓発基本計画の3つに集約できます。因みに、国連の各種条約の履行監視機関から外国人の人権に関する法整備が遅れていることを日本政府は再三にわたって指摘を受けています。
こういった状況から、法律や政府文章において在日外国人の人権をいかに言及させていくのかは非常に重要で、それを行うことが私達の使命です。
ただ、そういった運動を進めていく上で重要なのは、実態把握です。例えば、学校内における差別事象の把握についても、大阪府教委や大阪市教委では差別事象の調査・報告・教訓化に関して一定のルールが決められています。しかし、文科省では全く決められておらず、全国の学校現場で外国人の子どもを巡る差別の深刻な実態は全く把握されていません。また、南米をはじめとした渡日の子どもたちの未就学・不就学の問題が深刻化していますが、これも全く把握できていません。文科省が現在把握している外国人児童生徒の数とは「日本語指導が必要な児童生徒の数」であり、公立学校に外国籍の子どもが何人いて、どこの都市にどこの国の子どもたちが集中しているのかなど、まったく実態把握されていません。
更に、渡日の子どもに対する十分なケアがなされていないために、彼らの退学が安易に行われている現実があります。小中学校において退学が認められるのは、外国人には就学義務がないからです。そうして学校から排除された子どもたちは地域社会にもなじめず、遂には、犯罪に巻き込まれるといった深刻な状況が起こっています。
こうしたことからも、日本の外国人施策は全く体をなしておらず、むしろ、外国人施策の整備を拒むことで、日本に外国人が集まらないようにしていると言えるでしょう。
来年、現在の「国連10年」は終了しますが、先のような状況から言及すれば、第2次「国連10年」は重要です。特に、現「国連10年」と同レベルの行動計画ではなく、より踏み込んだ外国人の人権保障に関する言及が次期の政府行動計画に位置づけられる必要があります。また、2001年の人種差別撤廃委員会の勧告において日本政府に民族別統計、即ち日本国内のマイノリティーの実態調査を行うように求めていますので、マイノリティーの把握なくして施策はありえないとの指摘について今後の日本政府の対応に注目していきたいと思います。
最後に、人権救済について二つの観点を明らかにしたいと思います。一つ目は、実際に起こった差別への対処です。被害者へのケアと加害者への啓発や是正措置です。そしてもう一つは、差別の未然防止です。すなわち、人権救済には差別発生時の対処という観点と、差別の発生を未然に防止するという二つの観点が必要です。差別の未然防止のもっとも重要な点は、差別禁止法の整備などを通じた差別に対する社会的な抑止でしょう。そして、人権教育の中でかなり意識的に差別を未然に防止する教育実践が位置づけられる必要があります。人権教育が現在、ようやく市民権を得てきたということを実感しつつも、一方で、生きる力を育むや関心の領域を広げるという個人の生き方の域にとどめてしまい、より社会を意識した差別の未然防止としての教育実践の観点が弱いことが気になっています。
私たちは、日本の学校における民族教育の推進を当事者の子どもたちを孤立させないという観点から重要視しています。そうしたことが根付いていくことで、外国人の子どもたちの存在がより肯定的に顕在化されていくだろうし、そのことを通じて日本の子どもたちにより多様性や多元性を提示することができるのではないかと考えています。
おわりに
他のパネリストの方々との違いを指摘すれば、やはり外国人の問題に対してだけ法律がないということです。他の人権課題ももちろん法整備が不十分ではありますが、他の人権課題に追いつくためにも、在日外国人の人権法の制定は一刻も早く整備されなければなりません。そのための活動を続けて行きたいと思います。また、外国人の人権法の整備を急がなければならない理由のもうひとつに、政府高官である東京都知事による言いたい放題の人種差別扇動がまかりと通っているということも触れずにはおれません。ある意味で「国連10年」のレベルを超えた日本社会の本質が問われていると思います。
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