ゲーム「元気を送ろう」
「元気を送ろうをします。同じグループに入っておられるお客さんに、ゲームの仕方を説明してください」
〜各グループごとに説明をしている。Aくんの得意とするところである。〜
「では、手をつないでください。一回目は右へ二回です。よ〜いはじめ」
「次は、左へ二回です。よ〜いはじめ」
〜隣の人の手のぬくもりが伝わってきた、なんだか元気までが伝わってくる。〜
「最後は、目をつむって右に二回、左へ二回です。……」
〜はじめはとまどっていた参観者のほほも緩み笑顔が出てきた。子どもたちの緊張感もほぐれてきた。〜
サイコロを使って参観者と自己紹介
〜子どもたちは、事前にどの目が出ても大丈夫なようにそれぞれで準備をしていたので自己紹介にも余裕がある。
〜アイスブレーキングは順調だった。これは「参観者から参加者へ」の導入でもあった。
「私たちのまちへようこそ」
いよいよ、マイタウンの紹介だ。自分たちの考えた「21世紀の夢のまち」を絵図をもとにグループの中で紹介した。最寄りの駅より目的地までの道順とそれぞれの工夫を説明していった。一人ひとりの説明後に参加者に質問をしてもらい、それに答えることを通して自分の考えをさらに確かなものにしていった。最後に、自分たちの住んでいる地域の「まちの宝」を紹介し、これからどのように守り残していくのかを説明した。
意見交流・参加者の話を聞こう
意見交流の時間には、参加者の考えやその地域でのまちづくりの様子を紹介してもらった。子どもたちは参加者からのメッセージを目・耳・体でしっかり受け止めていた。
ワークシートでふり返る
最後にワークシートを使って学習のふり返りと感想を書き、数人が感想を発表して学習を終えた。
感想から(参加者のおとな)
- 最初は、どんなことをするのか分からなくて、少し緊張しましたがだんだん楽しくなってきました。みんなのまちづくりは、たくさんの人にやさしい工夫があってとてもいいなあと思いました。発表の仕方も上手だったと思います。
- おたがいの意見を聞いて交流することってすてきですね。
- 自分で駅の自動改札口の幅を測りにいったり、本屋さんのカウンターの高さを車椅子を利用している人の視点を考え測ったりしている女の子がいたことに驚きました。
- 子どもさんの発想に感心しました。勉強のやり方が、私の小学校の頃と全く違って大変参考になりました。など
(発表者の子どもたち)
- ぼくは、人がいっぱいいて発表するのに緊張して、言いづらいと思っていたけど、「元気を送ろうゲーム」で緊張を吹き飛ばしてはっきり言えました。
- 自分の説明もよくできたし、友達の説明も分かりました。先生たちからアドバイスももらったし、なるほどと思うことがいくつかありました。今日の研究発表会はとってもたのしかったです。
- 最初はどきどきしたけど、……。先生がいろいろ質問してきました。質問にこたえられてうれしかったです。またやりたくなりました。……〜略〜
ほんの45分ではあったが、子どもたちは自分の考えを伝えることができた充実感を味わうとともに県内外いろいろな所から参加された方々と有意義なひとときを過ごすことができた。各地で「人を大切にするまちづくり」のための取り組みが進められていることを知り、自分達の考えに対する自信と将来への展望や期待をもつことができた。この学習の中で出会った多くの方々のいきいきと輝く姿に照らされ、子どもたちが輝いた時間だった。
これは、1997年度、筑紫小学校公開研究会での公開授業(4年)当日の様子である。
公開授業と聞くと、眉間にしわを寄せた参観者や「教師の発問や板書、子どもの発言や態度」を見ながら指導案にメモを書きこむ参観者の姿を思い浮かべる。それも子どもと同数あるいはそれ以上の参観者が狭い教室にひしめく場合がある。このような場に出くわす度に「この状況を子どもたちのために何とか生かせないだろうか」と考えていた。そこで、こんなチャンスはめったにないこと有効活用せねば子どもたちに申し訳ない。と、研究会の公開授業で思い切って「子どももおとなも共に学び輝く時間に」「参加者全員によるTTチーム・ティーチングを・参観者から参加者へ」との場づくりをこころみた。単元の最後にあたる時間を、子どもたちのまとめとしての発表と交流の場に位置付けた。子どもたちは、より多くの方々にこれまでの学習のまとめを聞いていただきながら、ほかの地域でも取り組まれていることを聞かせてもらった。参観者には突然だったがボランティアティーチャーになってもらった。おかげで子ども二人に教師一人の割で参加型の学習ができた。参加者にとってもおおむね好評だったように思う。
ところで、筑紫小学校は、校内研究のメインテーマを
「生き生きと輝く子どもたち 輝くおとなたち」
〜「自分らしさ 可能性 そしてチャレンジを」〜
サブテーマを
「人権意識を育む場の創造とその実践的研究」とし、九六年度より「同和」教育を基盤にした人権教育の推進として学校改革の取り組みをはじめた。
本主題の意味するところは、子どもも教師も「自分らしさ」を最大限大切にし、自らの中に秘められている「可能性」を切り開くために、柔軟かつ大胆にさまざまなことに「チャレンジ」する場の創造と保障です。言い換えれば「個性の尊重」と個性を尊重することで初めて見えてくる「個の可能性」、およびその可能性を切り拓くためのあらゆる「挑戦・追究」の場を学校教育の中に創造し、地域社会に開かれた教育の構築を図ろうとするものです。〜略〜
(1997年度筑紫小学校研究会紀要より引用)
「輝く教師たち」から「輝くおとなたち」へ
メインテーマ設定当初は、「輝く教師たち」だった。子どもたちは、筑紫小学校に通い学習をしているが、生活の基盤は家庭であり地域・校区である。その中でこそ子どもたちの生き生きと輝く姿が見られなければならない。また、筑紫小学校の教育活動は校区の方々にさまざまな形で支えられながら進んでいる。このことを再認識し、保護者(PTA)をはじめ地域の教育集団を形成するおとなたちの「輝きこそ」を大切にしていきたいと考え「輝くおとなたち」に変更した。
学校改革「ちくしのこころみ」の背景と概要
96年度からスタートした学校改革の背景には、次の三点がある。
- 差別事象からの教育課題の克服。
- 筑山中学校区学力向上研究推進校区事業の成果の継承発展と課題の解決。
- 「同和」教育関係定数有効活用の具体的実践である(詳細は紙面の都合上省略する)。
概要としては、96年度「同和」教育を基盤とした人権教育の充実をめざし、学校改革「ちくしのこころみ」が動きはじめた。まず、一年目は学校運営システムの見直しを重点に、これからさまざまな取り組みを進めるための基盤づくりを行った。
97年度二年目は、改革の重点を具体的な教育内容づくりへと移し、これまでの筑紫小学校の「同和」教育の積み上げを大事にしながらも、現在の子ども・学校・地域の実態に立ち、先進校の実践に学んだものを取り入れながら教育内容づくりに取り組んだ。
同年よりPTA活動はオールスタッフ制を導入し、活動のさらなる充実が進められていった。会員の活動への主体的参加の場が広がり、一人ひとりが輝ける場がつくられることになる。二年生の総合的な学習の中の読み聞かせでは、保護者とのTT体制が確立した。また、クラブ活動では、62名という地域ボランティアティーチャーの数からだけでもネットワークの広がりがわかる。
「人権教育の四つの側面」からの教育内容づくり・ 総合化のこころみ
「人権教育は、(1)人権としての教育 (2)人権についての教育 (3)人権を通じての教育 (4)人権をめざす教育 の四つの側面から見ていくことができる」という旨の文章に出会った。これまで安易に使ってきた「「同和」教育はすべての教育活動を通して……」の具現化の切り口が少し見えてきたように思えた。
私たちの教育活動は、この四つの側面から大まかに分けることができ、学校全体の活動を人権教育の視点から見通し調整することができる。さらに、その一つ一つの活動は、それぞれをこの四つの側面から細かく見つめ直すことで、具体的な活動効果の評価反省ができる。そして、その評価反省を次につなげ生かすことで、教科・道徳・行事など学校教育全般の関連化や総合化が図れ、総合的な人権教育としての展望が見えてくるのではないかと考えた。
私たちはまず、「人権学習の場において、子どもの人権を大事にしない学習形態や教師の不用意な言動により、子どもの人権意識を育むことが抜け落ちるばかりか阻害する結果になってはいないか」と問い直してみた。これは、一つの教育活動において、「四つの側面のうちの一つの側面」のねらいを達成しようとするときに、「他の三つの側面」にマイナスの効果をもたらすことになっていないかを注意深く問い直すことへつながった。しかし、これでは一つ一つの教育活動が消極的な取り組みになってしまうのではないかと考え、積極的にこの「人権教育の四つの側面」からの教育内容・方法・組織面での総合化をこころみた。このことは、新設される総合的な学習の時間の有効活用はいうまでもなく、私たち教師自身の日常的な取り組みの中で気づいていない「隠されたカリキュラム」を意識化することであり、児童観・授業観そして教育観の転換につながるものと考える。
マイドリーム マイタウン センチュリー21ちくし
具体的実践例として、97年度の4年生「マイドリーム マイタウン センチュリー21ちくし〜人権のまちづくりに学んだ、総合的人権部落問題学習のこころみ〜」を人権についての教育の側面からのアプローチとして紹介する。ここでいう「人権のまちづくり」とは、筑紫小学校校区の「美咲地区のまちづくり」を主にさす(部落解放1998年度4月号に掲載)。
まず、人権についての教育の側面から、4年生人権・部落問題学習の単元構成にあたり、「地元教材による、部落とのプラスイメージでの出会い」を第一の課題とした。そこで、「美咲のまちは、人にやさしい工夫がたくさんしてある」ことの事実にフィールドワークや聞き取りを通して出会い、実感することからはじめた。そして、その工夫が、住民主体のワークショップの中で一人ひとりの願いが形となっていること、現在もまちづくりを住民全員で進めようとしていることを、まちづくりにさまざまな立場で参画している人との出会いを通して学んだ。
次に、人権を通じての教育の側面から、子どもたちの第一の課題「人の話を聞き自分の思いを表現できるようにする」を念頭に、相手を意識した活動や一緒にやる活動を取りいれた。具体的には、グループワークとして取材活動や新聞づくりを、交流の場として校内フォーラムを設定した。一学期にクラスや学年合同で楽しんだ参加型の学習がこの基盤づくりとなっていた。単元を通してのグループ構成も学級の枠をはずし、自分の住んでいる地域ごとの六人グループを親グループとした。さらに資料収集のグループは、親グループ内でコースを各自の選択により決めさせ、親グループの枠をはずしたコース別の4,5人で編成した。コース別の聞き取り、フィールドワーク、新聞づくり、そして校内フォーラム。地域別の親グループでの地図と絵図を取り入れたまちづくり、……と子どもたちはいろいろな友だちと生き生きと活動した。
また、人権としての教育の側面から、子どもたち一人ひとりの学習の足跡を残し、自分の学習を振り返ることができるようにし、また、教師としても学年の取り組みをカリキュラムとして残したいと考えた。そこで、まず、とにかくファイルで残そうと取り組んだ。そのためには、子どもに分かりやすいワークシートが必要になってきた。フィールドワーク先の写真や出会った人の写真を取り入れたワークシートへの書きこみには子どもたちも気持ちがこもる。こころもち丁寧な文字で書きこんでいたように思う。また、取材・まとめ・報告・発表の場としては、国語の「壁新聞づくり」や「ニュースの時間」の単元をあてた。これまでの 学習のための学習ではなく子どもたちは集中して生き生きと取り組んだ。発表のリハーサルも子どもたちが協力しながら行い、言葉遣いも自然と分かりやすく丁寧なものになっていた。発表を聞く側にも評価シートに発表グループのがんばりや内容のキーワードを書きこみながら聞けるようにした。美咲に住むB君が撮ってきた写真をいくつかのグループが焼き増しして壁新聞に使っていた。自分が撮った、自分のまちのその写真をさしながら生き生きと発表する友達のことを笑顔でみつめるBくんがいた。
最後に、人権をめざす教育の側面から、まず、学年TTとして取り組むことにした。そして、まちづくりに参画している人びととの出会いの場を設定するための事前打ち合わせをはじめた。これからが地域の方々とのTTのスタートだった。多くの方が聞き取りの当日子どもたちのために資料を準備してくださっていた。また、自己紹介の時に、子どもたちが出した手紙を元に一枚一枚一人ひとりの名前を呼びながら聞き取りをはじめていただいたり、スライドやOHPを準備してくださったりと子どもたちのことを大切にしていただいた。話をしてくださる表情やまなざしからもあたたかさややさしさが伝わってくる。このように、自分のことが大切にされていると感じる中で改良事業にかける思いや願いをしっかり受け止めていた。また、当初は計画になかった佐賀大学都市工学科の三島先生に世界のまちづくりの話と「今あるまちの宝」を守り残していくことの大切さを教えていただいた。その後三島先生と六名の大学生に、子どもたちのまちづくりのワークショップに参加していただいた。そして、単元の最終の時間を冒頭のように楽しんだ。
最後になったが、人権をめざす教育集団の輪を広げるためには、保護者へのおたよりは欠かせない重要なてだての一つとなった。子どもたちも自分たちの活動を振り返る楽しみの一つになった。
三学期は、「まちづくり」で学んだ「人の話をきく、そして、自分の考えを言うことが人を大切にすること」をベースに学校づくり「明日も来たくなる学校のワークショップ」に取り組んだ。全校でアンケートをとったり、ランキングなどのグループワークを中心に進めた。終業式前日には五・六年生全員と教職員・保護者でKJ法を使ってのワークショップを行った。
98年度は、これらの活動が新年度の児童会の活動や学校行事、委員会活動へとつながり子どもの発想による新しい取り組みが生まれはじめている。また、開かれた学校づくりで、最も重要なPTA活動もますます活発に行われている。広報委員会では、学年ごとのお便りを発行するなど特に楽しい活動が進められている。
人権教育の四つの側面からのてだてが相互に絡み合い、それぞれの内容が広め深められていったように思う。
学校づくりこそ子どもとおとなのワークショップで
人権をめざす教育集団のネットワークづくりを通して、子どもたちが生き生きと活動する参加体験型の人権部落問題学習をこころみてきた。
「この単元丸ごと全部が子どもたちとのワークショップたい」と打ち合わせの時にいわれた藤本さん(美咲まちづくり事務局)の言葉が頭から離れなかった。そして、一年間の取り組みを通して、学校づくりが「子どもと教師と保護者そして地域の人たちとのワークショップであること」つまり校区事業でめざしている「人権のまちづくり」としっかり重なってきた。人やもの、事実に出会い、思いや願いを知る、すばらしいと感動する、そして、それを地域の人たちと共有し広め深め楽しむ、このことが、地域で育まれている人権文化を受け継ぎ、発展・創造させることにつながると確信できた。
今、美咲のまちでは、第三期の闘争方針の具体化として中央公園や解放センターを中心にスポーツフェスタやコンサート、また、漢字検定などを周辺住民へ広く呼びかけ開催している。九八年夏には「環境」をそのキーワードに第一回宝満川カヌー大会が開催された。そして、解放子ども会はその宝満川をテーマに総合学習に取り組み、筑紫小学校の4年生も川をテーマにTT体制を工夫しながら総合的な学習に取り組んだ。
これからは、地域の取り組みに深く関わることを通して、地域の特性を生かした、総合的人権部落問題学習のプログラミングと実践を楽しむことができそうである。
そこで、美咲まちづくりの理念である「事業は有限の結果なり。されど、まちづくりは永遠の過程なり」この標語の意味を再認識し、子どもたちの実態と部落差別の現実の厳しさをふまえた取り組みを進め、真に部落解放につながるものにしていきたい。
ここに実践を振り返る機会をいただいたことに感謝します。