講座・講演録

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2004.02.24
講座・講演録
おおさか人権情報誌『そうぞう』No.7(2003年12月号)、
発行:大阪府企画調整部人権室、編集:大阪府人権協会、より

今、なぜ「人権相談」なのか

北口末広(近畿大学教授)

 人権分野にかかわらず、あらゆる分野において現場は宝の山である。現場から提起される多くの問題は知恵と創造の原動力であるように、具体的に生起している人権に関わる問題が、私たちに大きな示唆を与えてくれる。人権相談はその最たるものである。具体的な人権相談の中に多くの社会矛盾が投影されており、人権相談へ真摯に取り組むことが人権確立社会を実現する出発点であるといえる。

実態把握の最前線

そうした視点に立って人権相談の機能を整理すると、まずはじめに実態把握機能をあげることができる。差別や人権侵害にかかわる実態調査や意識調査が、これからも有効であることはいうまでもないが、より現実感をもって実態を提示してくれるのは、個々の人々からもたらされる具体的な相談である。一つの人権相談から人権侵害の現実が鮮明に描き出されることも少なくない。

近年、家庭内暴力や夫・恋人など親密な関係にある者からの暴力(いわゆるDV)が、大きな社会問題になっているが、これらが社会的に問題として認識されるようになったのはNPO(民間非営利組織)や行政機関が受けてきた個々のからである。相談を受けている人々や相談に来る人々は、個々であってもほとんどの場合、社会的な事柄と密接に結びついている。それらの相談が集約されることによって、個々の相談ではなく、社会的な傾向としても把握される。

さらに人権相談は最も新しい現実であり生のデータである。実態調査や意識調査では把握することのできない現実が提示されることも頻繁にあり、人権相談は実態把握の最前線であるとともに、最も有効な手段といえる。

また、相談者はどのような解決方法があるのかというアドバイス等を求めて来ているのであり、解決方策を提示していくという機能を担い、相談内容や相談内容に対する解決方策を蓄積する機能を併せ持つ。

ネットワークが重要

人権相談の内容には差別を受けた相談や人権侵害を受けた相談だけではなく、教育相談、生活相談、医療相談、法律相談なども含んでおり、そうした多様な問題の解決を通じて、人権相談システムを中心としたネットワークが構築されていく。多種多様な人権相談に対応するためには一つの機関だけでは不可能であり、行政機関やNPOをはじめ、多くの専門機関のネットワークが必要になってくる。

具体的な人権相談に対応するためにはネットワークとともに、コーディネート機能が必要になってくる。個々の相談に的確な解決策を提示するためには、一つの施策や機関だけでは無理な場合が多く、多様な施策や機関を組み合わせて解決策を提示しなければ、具体的な相談に的確に対応できないことは多々ある。

一つの施策では効果を発揮しないものでも、複数の施策を講じることによって相乗効果を生み出すものもある。それは施策だけではなく、例えば人権相談にもカウンセリング型相談とケースワーク型相談が存在するように、解決策をパッケージのように提示できるケースワーク型のものもあれば、相談者に寄り添って解決を考えていくといったカウンセリング型のものも存在する。それらの相談方法をうまく組み合わせていくコーディネート機能も求められている。

さらに、個々の人権相談に対応していると、現行施策やシステムだけでは相談内容を解決できないこともたくさんあることがわかる。相談に表れた社会矛盾を解決するためには、現行の施策やシステムを改革しなければできないということや、新たな施策やシステムを創らないと解決しないということも数多くある。このように具体的な人権相談を通じて、人権実現のために必要な政策とはどのようなものかということが浮かび上がってくる。

政策提言につながる

つまり、人権相談システムには、その本来の役割を通じた政策提言機能が必要となり、相談を通じて具体的な現実を把握していることによって、的確で強力な政策提言機関になる。さらに情報発信機能も併せ持つことによって、社会変革の原動力にもなる。

また、個々の相談を解決していく営みは、人材育成にも繋がっていく。相談者は自身の問題を解決していくことを通じて、その経験を同様の問題で悩む新たな相談者のアドバイザーとして活かせる。このように自身の問題克服への経験を活かしてカウンセリングすることをピアカウンセリングというが、人権相談システムはこのような機能をも持つことになる。それだけでなく、個々の相談を受ける人々も、その経験を通じて、相談を受ける力量やそれらの相談内容を解決していく力量をアップすることになる。相談内容は千差万別であり、同じような内容であっても条件等が少しずつ異なる。相談を受ける側にとっては、日々の相談内容がケース・スタディーであり、相談の力量アップを図る研修という側面を持っている。

以上のような機能を担うためにも、人権相談機関の信頼構築が鍵を握っているといえる。