講座・講演録

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2004.12.15
講座・講演録
第13回ヒューマンライツセミナー
世界人権宣言大阪連絡会議ニュース266号 より

フィリピン人権委員会の経験と日本の国内人権機関設立への期待

ピュリフィカション・ヴァレラ・キスンビン(フィリピン人権委員会委員長)

 2004年9月21日(火)、大阪市立浪速人権文化センターにおいて、第13回ヒューマンライツセミナーが開催されました。(主催:第11回ヒューマンライツセミナー実行委員会)参加者数は約700名でした。

 IMADR-JC専務理事で参議院議員の松岡徹さんより、人権擁護法案が自然廃案となった後、国内人権機関設置に関する審議がおこなわれていない中、今年10月の臨時国会であらためて人権侵害救済法(仮称)の制定に向けた議論を行っていく必要性を訴えました。


日本が国内人権機関を持つべき理由

 国内人権機関を日本が設置すべき理由としては、<1>リーダーシップの記し、<2>条約上の義務、そして<3>憲法上謳われている基本的人権の存在という3つの点があげられます。

 <1>については、安全保障理事会の常任理事国入りを目指して、小泉首相の国連総会における演説がこのセミナーの翌日に行われますが、日本が国際社会においてリーダーとなるためには、人権の面でもリーダーになるべきです。そうなるためには、国連憲章を遵守して、人権の保護の促進を法律上明らかにし、国内人権機関を設置すべきです。

 次に、<2>についてですが、日本は、10に及ぶ重要な国際人権条約を批准・加入しており、締約国たる日本には法的な義務が生じます。条約上の義務を履行するためには、具体的なプログラムを設け、また定期的に条約監視機関に国内における履行の状況を報告することが法的に求められます。会場におられる皆さんの中で、このことについて知っている人はどれだけおられますか?(・・・挙手した参加者少ない)

 知っている人が少ないということは、国家がこれらの条約に定められている権利を周知するのを怠っており、また保障のための十分なメカニズム義務がないことを示していると考えられます。日本の憲法には、特に第3章において人権を尊重するすばらしい規定があります。つまり、理由の3点目にもあげているように、国内人権機関の設置は日本政府、国民にとって本当に基本的なものであると考えるべきなのです。

どのような内容の国内人権機関が必要か?

 それでは、具体的にどのような内容の国内人権機関が必要でしょうか。この点に関して、いずれの国もその国に適した機関を設置すべきですが、特に国内人権機関の地位に関して詳細に規定しているパリ原則に合致したものであるべきです。この原則は、国内人権機関に対して、特定の性格を持つべきことを求めています。つまり、<1>独立性が憲法あるいは法規によって保障され、かつ政府から独立していること、<2>普遍的な人権基準に基づいた広範な責務を有し、実効性があること、<3>国際人権諸条約の国内的実施について監視することなどです。それぞれについてフィリピンの経験を下に検討し、最後に国内人権機関の形態について述べていきたいと思います。

 まず、<1>独立性の問題は、国内人権機関の問題の中でも最も主要な問題です。すべての人の権利が尊重されるように求めていくためには、強固な基盤と資源が必要であり、国内人権機関が自らの権限を発揮し、独自の資源を持ち、意見を述べることができなければなりません。フィリピン人権委員会(以下、委員会)では、委員の選任については、社会の様々なセクターの様々なグループの名から推薦された人物から大統領が任命します。委員の人数は5名(うち1名は委員長)であり、任期は7年です。再任はありません。委員は、弾劾によって相当の理由があると認められない限り、解任されることはありません。また、委員会の職員は、委員が選任し、常勤です。さらに、委員会は財政上も独立していて、委員会が議会に申請する予算だけでなく、独自に資金を調達することも可能です。

 次に、<2>広範な権限及び実効性についてです。委員会の主な権限として、i)調査権、ii)侵害の存否を宣言、iii)司法省、検察あるいはオンブズマンにレポートを提出、及びiv)拘禁施設の訪問、があります。

 i)について、委員会は、市民的・政治的権利の侵害について調査します。また申立がなくても、独自の判断で調査を行うこともできます。

 ii)とiii)については、委員会の調査により人権の侵害の認定を行い、その存在が認定された場合、司法省などにレポートを提出します。これは、委員会には訴追権限あるいは救済権限がないため、司法省と協力して問題の解決を図るとともに、司法省に対して適正に救済すべきこと要請するものです。

 iv)については、拘禁施設は24時間被拘禁者を拘束し、非人道的な取扱いが行われやすい環境であることから、拷問や不法拘禁が行われないように監視する必要があり、きわめて重要な権限であると言えます。現在、委員会は政府に対して拘禁・矯正施設について国際基準に合致したものとなるように要請を行っています。

 3点目として、国際人権諸条約の国内的実施の監視についてです。委員会は、国際的な人権条約上の政府の義務の履行を監視し、人権侵害に当たると考えられる点について助言を行っています。また、フィリピン人の多くが国外にいますが、これら移住労働者の権利の保障を行うことも委員会の任務です。この点に関して、日本に国内人権機関ができれば、相互協力によりこのような問題をより実効的に解決できるのではないでしょうか。

 最後に、国内人権機関の形態についてです。フィリピンでは、人権に関わるすべての事柄について調整する機関を中央に1つ設け、その下に15の地方事務所を設置しています。これは人権に関わる役割を地方事務所で果たし、それが無理な場合には中央で行うという方法を採用しているためです。日本において国内人権機関を設置する場合には、各地方・地域における人権侵害事案を中央が集約するという形式を取ることが考えられるのではないでしょうか。

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