講座・講演録

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2004.12.15
講座・講演録
第256回国際人権規約連続学習会
世界人権宣言大阪連絡会議ニュース268号 より
「教育コミュニティ」づくり
〜岬町すこやかネットの活動を通じて〜

矢萩純子(岬町教育委員会)
宮川益和(岬町すこやかネット事務局)

■矢萩純子(岬町教育委員会指導室)より

はじめに

 岬町は大阪の最南端に位置し、人口は19395人。町内には小学校が3つと、中学校が1つ、公立の幼稚園が1つと私立が2つに、公立の保育園が4つと岬高校があります。私が所属している指導室というのは教育委員会にいくつかある部署の中の1つで、私自身も元は小学校の教員であったように、現場の教員を置くことで学校と直結したサポートを行う、人員2名の小さな部署です。

 その指導室に「すこやかネット」の事務局を置き、そこが中心となって事務局を運営しています。そんな「すこやかネット」が先日「ふれあい教育フェスタ」というイベントを大々的に開催しました、まず私からは組織の説明をしていきたいと思います。

「すこやかネット」とは?

 「すこやかネット」というのは地域教育協議会の愛称ですが、これが発足する2000年(平成12年)の直前は学校・教育改革が出てきた時期で、中央教育審議会答申の中で総合学習の登場がささやかれる時期でもありました。地域に目を向けると岬町同和教育研究協議会(以下:岬同研)が参画している大阪府人権教育研究協議会の再構築の動きがあるなど、新しい教育手法の登場によって岬同研の改革が進められたのもこの時期でした。また後のすこやかネットにつながるPTAの改革もこの時期におこなわれました。

 当時の岬町は3小1中学校で『開かれた学校づくり』というコンセプトで統一されていたと思います。やはり岬町では3小1中学校の全てが同和教育推進校であったことから、従来から地域と連携した教材づくりやいろんな人と出会わせてきた積み重ねがあったため、そのコンセプトも案外容易に受け入れられてきたのでしょう。

「すこやかネット」の組織について

 このような背景があって、大阪府では2000年に総合的教育力活性化事業が始まりました。そして岬町でも『育てよう!うちの子・よその子・岬の子』というキャッチフレーズのもと、まず組織が作られました。具体的には役員会・企画委員会を中心に、それまで学校やPTAでやってきたことを7つの実行委員会として組織化しました。この実行委員会には町内の全教員を7つに振り分け、さらにPTAやボランティアとしてPTAのOBの方々に入って頂くという組織づくりを行いました。今になって特に良かったと思うのは、様々な各種団体の方々を直接組織に入れず、組織とは別に協力団体として活動して頂いた点です。

 2000年の途中からこの組織は発足し、その形態は年々整備されていき、現在2004(平成16)年度には「役員会」「子育て委員会」「子ども教室委員会」「学校づくり委員会」「広報担当者会」「コーディネーター会」「フェスタ実行委員会」に発展させていきました。具体的な取り組みをいくつか紹介しますと、まず「子ども教室委員会」の中に「すこやか部会」と「ふれあい部会」を設置しました。

 この「すこやか部会」では地域のボランティアによる体験活動を、「すこやか教室」として運営しています。例えばパソコンや押し花、文庫活動など、特技を持っている地域の人に、土曜日の学校を使って、普段の授業では味わえない親子向け体験活動を行っています。また、技能を持っているボランティアの人たちには普段の授業でもお手伝いして頂き、その技能が活用されています。

 以前は、学校の教職員が汗を流して企画や参加者集めまで全てを行っていましたが、それには限界があったために、何度も話し合いをした結果、今年度からは、できる限りボランティア自身が運営する仕組に変わってきました。

 もう1つの「ふれあい部会」は、以前に「児童生徒健全育成委員会」と呼ばれていたもので、学校と地域が連携して子どもへのあらゆる暴力防止を目指したCAP事業や、子ども110番・安全パトロール活動、親子デイ・キャンプなどを運営しています。また、「子育て委員会」では“劇づくり”を通じて子育てのネットワークを広め、保・幼・小・中の研究交流会の場として教職員による「みさき子育てフォーラム」を年6回実施しています。

地域のための学校づくり

 「すこやかネット」にはもう1つ、「学校づくり委員会」という重要なものがあります。そもそも「地域の持つ教育力を学校がいただくことで学校教育を豊かに展開する」という目的が「すこやかネット」にはありますが、全くそれだけではないのです。保護者の関心は何かということから考えると、やはりそれは子どもの学力や進路の問題などだといえます。その学力とは何かということを、地域と学校が腹割って話をする場が本当はすこやかネットであるべきだと私は思っています。つまりその場をどう実現していくのかがこの「学校づくり委員会」の役割なのです。

 立ち上げ当初は、「授業改革推進委員会」の名称でした。2002年度文科省の「教育総合推進地域事業」も受けており、組織としての方向性も定まらないまま、研究発表を主眼に据えた小学校同士、また小学校と中学校とが連携授業を行うなどといった授業発表に取り組んでいました。

 しかし2003年度に入ってから、その方向性についての議論を始めるため、あえて委員の構成を教員だけにして、“学力”論議を中心にしながらこれからの“学校”をどのように創っていくのか、話し合ってもらうことにしました。それでも、まだ各学校での取り組みの情報交換に終始していたのですが、各学校とも前年ぐらいから学力の基礎基本として読書活動が大事ではないかという意識が強まり、それが委員会で話し合われた結果、全校読書活動などという各校の取り組みにつながっていきました。 

 2004年度には大阪府が「わがまちの誇れる学校づくり」事業をスタートさせました。その要綱に書かれているのは学力保障・地域連携・人権教育という岬町各小中学校が既に取り組んでいることばかりだったため、早速指定を受けることになりました。「授業改革推進委員会」「授業づくり推進委員会」と次々に名称を変えてきている本委員会は、2004年度から「学校づくり委員会」に改め、多奈川小学校をコアスクールにして全町をカバーする取り組みを始めています。具体的にはどの学校も研究教科を国語科に挙げてきていて、基礎基本の学力のうち国語力の定着を目指して取り組みを現在、行っている段階です。今後はこの委員会に地域をどのようにコミットさせていくか現在、模索中です。

「すこやかネット」の今とこれから

 以上のような組織の下で先日開催された今年のフェスタでは、子どもたちの自主的な場面を出したいと思い、中学生によるパフォーマンスを企画しました。それも教師が子どもを集めて行うのではなく、地域の人に運営をお願いしました。これまで子どもに教えるのは教師の特権のように思っていましたが地域にも教師以上にうまく教える人が居ることが改めて分かり、また子どもたちが中心になって取り組んだことで、このパフォーマンスによって子どもたちが自主的に関わるフェスタの第一歩になったのではないでしょうか。またそれ以外にも今回のフェスタでは様々な団体の参加があり、人口2万人に満たない町で幅広い層の人が1200人以上もフェスタに集りました。

 さて、教育委員会という立場で学校を外から観ていて分かるのですが、最近子どもたちが落ち着いてきました。これは岬町すこやかネットの様々な取り組みが生み出した成果ではないかと思っています。歴代の指導室は、これまでこの「すこやかネット」の事務局として無我夢中にやってきました。また各委員会も活動を重ねることで地域との連携を深める動きを学んできたように思います。今後、教育活動そのものを地域と一緒に創り出すことのできる「地域の学校」づくりをしていきたいと思います。そうすれば、今子どもたちの姿に表れている成果ももっと加速されていくのではないかと思います。


■宮川益和(岬町すこやかネット事務局長)より

「すこやかネット」の活動の経緯

 私は自営業の鉄工所をやりながら岬町の地域教育協議会「すこやかネット」の事務局長をやっていますが、この「すこやかネット」は2000年に突然始まったものではなく、実はこの取り組みが始まる前に5年間CCP(Child Community Plan)という取り組みがありました。

 これは大阪府から同和教育推進校の指定を受けて府内の子どもと交流を図る事業でした。しかし当初は何をすれば良いのか分からない状況の中、どうにか3年間は活動を続けたのですが、いつしか「学校教育部会」と「家庭教育部会」とに活動が色分けされてしまっていたのです。しかしやはりそれはおかしいということで、4年目に事業費の使用を凍結して、1年間問題を見直しながら最後の年にフェスティバルの準備を進めたのです。するとその甲斐あってフェスティバルは大成功し、そこに参加したPTAの「今後も続けていこう」という声もあり、それが「すこやかネット」につながっていったのです。

 岬町すこやかネットの組織図を見てもらえば分かりますが、私たちの組織は毎年のようにその形態を変えています。これは企業のリストラのようなもので、効果の上がらないセクションはどんどん切っていき、その時の状況にあった必要なものを組み込んでいこうとした結果です。また組織の特徴として、先にもあった通り例えば役員組織に地域の自治会長や社会教育団体の会長などを一切入れていないことも挙げられます。結局そういった方々に入って頂くと肩書きが重すぎてイベントなどを行うときにしんどいのではないかと思い、そういった団体はあくまでも協力団体として位置づけています。最近ではやっとそのような方々からも少しは認めて頂けるような組織になったといえるのではないでしょうか。

 今回のこの学習会には企業からの参加者が多いと伺っていますが、私たちは「すこやかネット」を通じて子どもも大人も何かに気づく、そんな「気づきの社会」を作っていきたいと思っていることをぜひ皆さんに理解していただきたいです。そのためには学校と地域と企業がどう連携していくのかが重要で、例えばいろんな企業で職業体験をさせてもらったりしていますが、企業の方にも学校を見に来て欲しいのです。企業の社会的貢献というほど大げさではなく、同じ地域にいるものとして学校に目を向けてもらい、そこで気づいたことを学校や教育委員会に返してもらいたいです。また「子ども110番活動」にしても、別にかばんに子ども110番のステッカーを貼って頂かなくてもいいので、通勤の途中にでも見守ってやって欲しいです。

これからの「すこやかネット」に対する思い

 かつてすこやかネットが立ち上がった当初、日々の活動をどうするか迷っているときに「人を集めるなら祭りをすれば良い」と指摘をされてことがあります。そして今回「すこやかネット」が立ち上がって5年が経ち、やっと本当の意味での“祭り”が出来たと思っています。今回のフェスタで私が一番嬉しかったのは、保育所や幼稚園の先生から「子育て支援を通じて将来の岬町を担う新しい親や子どもの顔が見えるようになった」と言われたことです。

 今年のフェスタがまだ終わったばかりなので将来のことは分かりませんが、来年もやることが決まっています。また今後の組織づくりに関しては、行政との連携が絶対に大事だと私は思います。イベントを組んだり、何か地域に根ざした取り組みを行っていこうと思えば行政にはいろんな計画や先見の明があるのですから、そことタイアップして進めていくことが重要だと思います。そうすれば一人ひとりが子どものことを考えながら、豊かな心を育てていけるでしょう。   

 岬町の子どもは初対面の大人にもしっかりと挨拶ができると、他の地域から来た人に褒められることがあります。これはあいさつ運動を行ったからではなく「子ども110番活動」のような安全運動で、立ち番やパトロールをする時に大人が声を掛け、子どもがそれに応えるようになった結果です。だから私はこの活動を通じて大人が足腰を鍛えて子どもたちの可能性の追及に付き合っていきたいと思っているし、それを皆さんとやっていければ嬉しいと思っています。

 私たちの岬町地域教育協議会といってもたいしたものではなく、発足から5年経ってやっと軌道に乗った組織です。ですから「すこやかネット」といっても、特に企業の方々にとっては分かりにくい話であったかもしれません。ただ地域でこういう活動を行っている組織があるということを今回皆さんにご理解頂いて、今後何かあればお手伝い願いたいというのが私の正直な気持ちです。

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