講座・講演録

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2005.10.27
講座・講演録
第265回国際人権規約連続学習会
世界人権宣言大阪連絡会議ニュース278号より
人権が尊重された大阪づくりをめざして
「人権教育のための国連10年」の総括と「世界プログラム」等の創造を中心に

有山具仁子(大阪府人権室人権教育・啓発グループ総括主査)
宇野由紀子(大阪市人権室人権啓発担当課長代理)
中村紀之(枚方市人権政策室主査)
友永健三(世界人権宣言大阪連絡会議事務局長)

●世人大実施のアンケート結果からの報告

有山具仁子

「国連10年」に関する行動計画の(中間)総括

行動計画は大阪府および府内43市町村全てにおいて策定されました。すでに大阪府を含む36自治体が2004年度で期間を終了しており、2005年中に1自治体が終了を迎えます。そして残る4自治体が13年3月までに終了を迎え、3自治体が計画期間を定めていません。行動計画を終えた36自治体中17が既に総括をし、期間中若しくは期間を定めていない自治体でも2自治体で中間総括が行われています。

後継計画の策定について

既に9自治体が後継計画を策定しています。その中の2自治体が「人権教育及び人権啓発推進に関する法律」のみを計画の根拠にしており、1自治体が条例のみ、6自治体が両方を根拠としています。

後継計画の内容については人権教育・啓発に係わった包括的な計画と、人権擁護の推進も含め人権施策全般に係わった計画の中に人権教育・啓発を盛り込んだものに大別されます。

「人権教育のための世界プログラム」、小中(高等)学校における人権・同和教育について

「世界プログラム」の普及・宣伝は9自治体が既に実施しています。その重点課題となる学校での人権・同和教育については人権教育基本方針を42自治体が策定していて、その内18自治体が同基本計画を策定しています。また同和教育基本方針は37自治体が策定しており、内6自治体が同基本計画も策定しています。

最後に、部落差別をはじめあらゆる差別撤廃に関する条例・人権尊重の社会づくり条例についてですが、大阪府を含む41自治体が制定していて、その内40自治体が審議会を設置しています。またその内で審議会から答申を受けたのが17自治体で、2自治体が現在審議会に諮問中です。なお条例に基づく基本方針は、大阪府を含む18自治体が策定しており、条例に基づく基本計画は15自治体が策定しています。


●「大阪市人権教育・啓発推進計画」について

宇野由紀子

  国連の「国連10年」を受けて大阪市でも97年から「大阪市人権教育のための国連10年」行動計画の下、人権教育・啓発に対する行政としての施策を打ち出してきました。そしてその10年が終了を迎える04年当初から「大阪市国連10年」の総括が行われ、そこから大阪市は「大阪市人権教育・啓発推進計画」を策定しました。

  大阪市ではこの後継計画の策定について、これまでの取り組みの成果と課題を踏まえて今後の取り組みを進める方向をとりました。まずこれまでの成果と課題を次のように分析しました。<1>わが国ではこの10年間に様々な人権に関する法律が整備され、本市でも条例や基本計画が策定された。それらの中には具体的な人権擁護の施策や人権啓発の内容が盛り込まれ、それによって人権課題の解決に向けた取り組みの重要性が一層認識されてきた。<2>人々の人権意識が高まって、人権教育の重要性が認知されてきていることが市政モニター調査から明らかになった。<3>一方で人権尊重の重要性は認識しながらも、実生活では行動に結びついていない実態が明らかになっている。<4>市政モニター調査で3分の1の人が回答している通り、現在の大阪市では全ての市民の人権が尊重されているとは言い難い状況がある。

  このように成果は出ているものの課題も多くあると認識し、人権教育に取り組んでいくことになりました。このような認識に基づき、人権教育・啓発推進法第5条と「人権教育のための世界プログラム」の趣旨、あるいは既存の「大阪市人権尊重の社会づくり条例」や「大阪市人権行政基本方針」を踏まえて計画の策定が進められていきました。

  大阪市の計画の基本理念ですが、まず基本的な考え方として、自らの人権について学び、自らの権利を行使することに伴う責任を理解し、他の人々とともに問題の解決に取り組み、それを通じて人権が尊重されるまちづくりにつなげていくことを挙げています。また目標としては、市民一人一人が互いに尊重しあい、地域に愛着を持って、ともに暮らし、支えあうコミュニティを形成し、心豊かに過ごすことのできる社会の実現をめざすとしています。更にそれだけではなく調査で明らかになった実態が10年後には改善されるよう、個別に具体的な数値目標も設定しています。これについて今後はモニター調査のような大きな調査だけでなく、様々な機会で独自にアンケートを実施し、定期的に数値目標についての評価・検証を行っていきたいと思っています。

  重点的に取り組む基本的な方向性として、<1>総合的な人権教育・啓発、<2>態度や行動へむすびつく人権教育・啓発、<3>交流を促進し、コミュニティづくりをめざす人権教育・啓発の3点を挙げています。

  次に具体的な取り組みの推進については、まず効果的な人権教育・啓発の推進として、様々な人権課題に応じた手法や教材を用いた教育・啓発が市の全ての部局で必要とされています。そして地域に根づいた人権教育の推進や、人権啓発推進員を核とした地域の人材の養成、NPO・NGO等との連携が必要とされています。3点目が就学前教育・学校教育における人権教育の推進ですが、「世界プログラム」の第1段階の重点課題が初等・中等教育における人権教育であることから、今後3年間はこの点が中心になるといえます。4点目の職員研修の推進では大阪市の「人権行政基本方針」に沿って、全ての職員が人権尊重の視点から業務を遂行することができるように職員研修の充実が必要とされており、特に人権に深い関わりを持つ職種に対する研修の充実が重要です。5点目の企業等における人権に関する取り組みへの支援では「大阪市企業人権推進協議会」との連携を図りながら、企業の様々な取り組みへの支援が必要とされています。最後に相談窓口を充実させて人権についての情報発信だけでなく、人権侵害等の様々な問題への対応を充実させていこうと考えています。

  このような取り組みが大阪市の全庁体制の下で、取り組まれようとしています。従ってこの計画は「大阪市基本構想」との整合性を図りながら、「生涯学習基本計画」や「大阪市地域福祉計画」等の様々な具体的な人権問題に関わる計画等と連携しながら進めていかなければならないと考えています。


●「枚方市人権教育・啓発基本計画」について

中村紀之

  国連が「国連10年」の期間を定め、行動計画を策定し、国も97年に「人権教育のための国連10年」に関する国内行動計画を策定しました。これらの動向を踏まえて枚方市では、99年4月に「人権教育のための国連10年枚方市行動計画」(以下「人権教育行動計画」)を策定し、本市独自に計画の期間を08年までの10年間とし、中間年の03年には進捗状況等により見直すとしていました。しかし一方で2000年に大阪府が実施した「同和問題の解決に向けた実態等調査」で、部落差別を受けている人がいることを知っている府民が86%以上にのぼり、同和地区に対するマイナスイメージが強いこと等の実態が明らかになっています。このような根強い差別意識を払拭していくには、個々人自らが身近な人権課題に気づき、その解決のために家庭や地域社会、職場等の生活の場から知識や技能、態度を身につけていくことのできる環境を整備していくことが大切です。

  そこで今後も様々な人権課題の解決に向けた取り組みや地域における人権教育・啓発の推進、それを支える人材の育成等が必要という認識に達し、計画を改訂することになりました。具体的には「第4次枚方市総合計画」に則って03年に「人権教育行動計画」中間年の見直しを行い、そこに後期の具体的な取り組みを補強することにより、04年4月に「人権教育行動計画」を発展的に「枚方市人権教育・啓発基本計画」と改定しました。また当初の計画で設定した10年の計画期間は解除し、今後必要に応じて見直していくとしています。そして今後は02年3月に人権の視点から行政運営を推進していくために策定された「枚方市人権施策基本方針・計画」と本計画を連動させて取り組むことによって、人権が尊重されるまちづくりを推進していくことになっています。

  具体的な人権教育・啓発の推進については前期の「人権教育行動計画」に基づいて、これまで様々な取り組みを進めてきましたが、まだ多くの課題が残っています。と言うよりもむしろ新たな課題が出てきているといえます。そこでその点について<1>就学前教育での人権教育の推進、<2>学校教育での人権教育の推進、<3>生涯学習の場での人権教育・啓発の推進、<4>人材の育成、<5>市民意識、学習ニーズの把握、<6>地域における人権教育・啓発の推進、<7>職員に対する人権研修、<8>企業、外郭団体等における人権教育・啓発への支援、<9>様々な機関との連携という、これまで4項目だったものを9つの項目に細分化して具体的な方向性を示しています。ここでご理解いただきたいのは、枚方市の後継計画ではあまり無理な目標を掲げていないということです。つまり高邁な理想を掲げすぎずに、できるだけ身近にある実現しやすい課題への解決の方策を提起しています。

  上記の通り2つの計画を連動させていくことで、枚方市における人権教育・啓発、人権施策の基本的な枠組みや具体的な方向性はできたといえます。そしてこれによって次にその計画を包括する条例が必要だという議論になり、予定より若干遅れましたが04年3月に「枚方市人権尊重のまちづくり条例」が制定されました。今後は本条例に基づく人権施策の推進によって人権尊重を基礎とする地域社会を目指すことになりますが、この条例のポイントとしては「人権尊重のまちづくり審議会」を条文の中に明記していることにあります。具体的にはこの条例の下に先の2つの計画があるという形になり、この2つの計画は人権尊重のための手段になるため、それがきちんと運用されているのかを評価する必要があります。そこでこれらの計画の進行管理や評価を第三者的に行う審議会の存在が重要になってきますので、委員の一部を市民公募としている点も含めて、そのことを条例に含んでいることは重要だといえます。

  最後に具体的な施策・事業展開の手段として、05年4月に枚方市人権協会が立ち上げられたことを紹介しておきたいと思います。現在ここでは枚方市から委託された人権ケースワーク事業と、独自に市民レベルでの住民啓発が取り組まれており、現在組織強化に向けてNPO法人格の取得手続にかかろうとしているところです。今後は法人となってきちんとした運営体制を築き、市の職員の派遣も受けることになるでしょう。そしてもっと多くの事業委託を受けるようになり、いずれは人権協会を実働を担う中核的な団体にしたいと考えています。


●「国連10年」の総括と今後の取り組みに関する問題提起

友永健三


  大阪では全ての自治体において「国連10年」への取り組みが成されており、この先進的な流れを次の「世界プログラム」へ引き継ぐために当連絡会議は先のアンケートを実施しました。その結果は先程報告されましたが、私はそれに対して連絡会議としての考えを提起しておきたいと思います。

  まず「国連10年」についての取り組みの総括は必ず実施すべきだという点です。ただ総括の視点については例えば具体的な柱立てを行って進めたり、庁内組織での総括だけでなく外部の色々な立場の人々によって構成された委員会でも総括をすること等が必要といえます。

  第2に国連の動きにあわせて各自治体も「国連10年」の後継計画を策定する必要があるということを提起します。後継計画を策定する場合、大別すると以下の2つの選択肢があります。まず一つは、大阪府や大阪市のように人権教育・啓発に関わった包括的な新計画を策定する方法です。もう一つは堺市や茨木市が行っているような人権行政や人権施策全般の方針・計画の中に人権教育・啓発を重点的な柱として盛り込むという方法です。どちらもありえる形ですが、後者の場合は人権全般の方針や計画の一部に人権教育・啓発の方針や計画が盛り込まれるために細かな点まで書くことができず、限定的なものにならざるを得ないという問題があります。このため理想的には、枚方市のように両方の計画を策定することが望ましいですし、計画に予算や事務局体制をつけるためには、やはり条例を計画の根拠にする必要があります。条例が必要なのは今日、自治体の役割が大きくなっていることもあることと、住民から施策に対する情報公開を求められた場合にきちんと説明できる根拠が重要になってくるからです。そしてそれに加えて「人権教育・啓発推進法」も根拠にして二重の裏付けとすれば、計画にも一層重みが増すといえるでしょう。また後継計画の策定と実施のための体制として、庁内の包括的な体制と外部の色々な立場の人々によって構成された委員会や懇話会を設置することが必要です。

  次に「人権教育のための世界プログラム」ですが、「世界プログラム」と「国連10年」には2つの大きな違いがあります。1つは「国連10年」が10年という期限を切っているのに対し、「世界プログラム」は3年毎の小段階はあるものの、05年からスタートすることは決まっていて、期限は決められていないということです。そしてもう1つは「国連10年」はいろんな分野の目標を設定していたのに対し、「世界プログラム」は3年毎で1つの重点課題に取り組むとしている点です。

  「世界プログラム」には、「国連10年」の後継計画が策定されたことと、初等・中等学校制度における人権教育の重要性と在り方が示されたという良い点があります。しかし、同時に3年の期間は余りにも短い、あるいは第2次3年、第3次3年等の重点課題が未だ不明確で周到な準備ができない等の問題点もあります。ですから日本での活用の方向としては「国連10年」が「世界プログラム」に引き継がれたこと、その最初の重点課題が初頭・中等教育であることの普及・宣伝ということになると思います。

  具体的な点についてですが、まず学校教育における人権・同和教育については「世界プログラム」を活用し、学校における人権教育推進のレベルを飛躍的に高めることが求められています。そのために小中高等学校あるいは幼稚園や保育所の就学前教育における人権教育・同和教育に関する基本方針・基本計画の策定が必要です。そしてこれらが既に策定されている所では「世界プログラム」を踏まえることによって見直しすることが望まれ、まだ策定されていない所では「世界プログラム」を踏まえて策定することが必要です。そして最終的には学校毎の計画の策定が必要だといえます。

  条例についてですが、04年1月から「地方分権一括法」が施行されており、これによって国と都道府県と市町村は法的に対等になりました。この結果、部落差別をはじめあらゆる差別撤廃と人権確立の面で自治体の果たす役割は大きくなってきています。ただ三者が法的に対等になったとはいえ、今後は財政面での税収の分配が大きな問題になってきています。この点を考慮した時、全ての自治体で部落差別をはじめあらゆる差別を撤廃するための条例なり人権尊重の社会づくり条例が制定され、条例に基づく取り組みが実施される必要があります。具体的にはまず条例を制定して、審議会を設置することです。そして実態調査を実施し、それを受けて審議会を開催し答申を得ることです。そしてその答申を踏まえて基本方針・基本計画、実施計画を策定し具体化するとともに、定期的に評価することが重要です。ここまで実行されて初めて条例に基づく取り組みが実施されるのです。それが今、求められています。

  人権教育・啓発推進にあたっての自治体のあるべき姿についてですが、自治体には包括的な将来像を明記した総合計画を策定することが義務づけられています。この総合計画の重要な柱に、人権施策、人権教育・啓発の推進を位置づけることが望ましいです。そして繰り返しになりますが、人権に関する条例、その条例を踏まえた人権全般の基本方針・計画を策定することが必要です。またその基本方針・基本計画は人権教育・啓発の推進、人権相談・救済の実施、人権施策の推進の3点を柱とすることが望ましいと思います。そして「世界プログラム」の考え方も反映させた人権教育・啓発に関する包括的な計画、学校教育における人権・同和教育の推進に関する基本方針・計画を策定、最終的には全ての学校毎に人権・同和教育基本方針・基本計画を策定していくことがあるべき姿だと思います。ただ人権教育の中で同和教育を重要な柱と位置づけることは絶対に欠いてはいけないと私は考えています。

  最後に国や国連に対する働きかけについてですが、日本政府の「国連10年」に対する総括は近日中にもホームページで公表されます。しかしまだ「世界プログラム」を推進するための体制は整備されていません。ですから「世界プログラム」に連動した取り組み推進を求めた働きかけを各方面から日本政府に行う必要があります。また国連へは第2次3年、第3次3年の重点課題を早急に定めることを求めていく必要があると思います。

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