●「国連10年」の総括と今後の取り組みに関する問題提起
大阪では全ての自治体において「国連10年」への取り組みが成されており、この先進的な流れを次の「世界プログラム」へ引き継ぐために当連絡会議は先のアンケートを実施しました。その結果は先程報告されましたが、私はそれに対して連絡会議としての考えを提起しておきたいと思います。
まず「国連10年」についての取り組みの総括は必ず実施すべきだという点です。ただ総括の視点については例えば具体的な柱立てを行って進めたり、庁内組織での総括だけでなく外部の色々な立場の人々によって構成された委員会でも総括をすること等が必要といえます。
第2に国連の動きにあわせて各自治体も「国連10年」の後継計画を策定する必要があるということを提起します。後継計画を策定する場合、大別すると以下の2つの選択肢があります。まず一つは、大阪府や大阪市のように人権教育・啓発に関わった包括的な新計画を策定する方法です。もう一つは堺市や茨木市が行っているような人権行政や人権施策全般の方針・計画の中に人権教育・啓発を重点的な柱として盛り込むという方法です。どちらもありえる形ですが、後者の場合は人権全般の方針や計画の一部に人権教育・啓発の方針や計画が盛り込まれるために細かな点まで書くことができず、限定的なものにならざるを得ないという問題があります。このため理想的には、枚方市のように両方の計画を策定することが望ましいですし、計画に予算や事務局体制をつけるためには、やはり条例を計画の根拠にする必要があります。条例が必要なのは今日、自治体の役割が大きくなっていることもあることと、住民から施策に対する情報公開を求められた場合にきちんと説明できる根拠が重要になってくるからです。そしてそれに加えて「人権教育・啓発推進法」も根拠にして二重の裏付けとすれば、計画にも一層重みが増すといえるでしょう。また後継計画の策定と実施のための体制として、庁内の包括的な体制と外部の色々な立場の人々によって構成された委員会や懇話会を設置することが必要です。
次に「人権教育のための世界プログラム」ですが、「世界プログラム」と「国連10年」には2つの大きな違いがあります。1つは「国連10年」が10年という期限を切っているのに対し、「世界プログラム」は3年毎の小段階はあるものの、05年からスタートすることは決まっていて、期限は決められていないということです。そしてもう1つは「国連10年」はいろんな分野の目標を設定していたのに対し、「世界プログラム」は3年毎で1つの重点課題に取り組むとしている点です。
「世界プログラム」には、「国連10年」の後継計画が策定されたことと、初等・中等学校制度における人権教育の重要性と在り方が示されたという良い点があります。しかし、同時に3年の期間は余りにも短い、あるいは第2次3年、第3次3年等の重点課題が未だ不明確で周到な準備ができない等の問題点もあります。ですから日本での活用の方向としては「国連10年」が「世界プログラム」に引き継がれたこと、その最初の重点課題が初頭・中等教育であることの普及・宣伝ということになると思います。
具体的な点についてですが、まず学校教育における人権・同和教育については「世界プログラム」を活用し、学校における人権教育推進のレベルを飛躍的に高めることが求められています。そのために小中高等学校あるいは幼稚園や保育所の就学前教育における人権教育・同和教育に関する基本方針・基本計画の策定が必要です。そしてこれらが既に策定されている所では「世界プログラム」を踏まえることによって見直しすることが望まれ、まだ策定されていない所では「世界プログラム」を踏まえて策定することが必要です。そして最終的には学校毎の計画の策定が必要だといえます。
条例についてですが、04年1月から「地方分権一括法」が施行されており、これによって国と都道府県と市町村は法的に対等になりました。この結果、部落差別をはじめあらゆる差別撤廃と人権確立の面で自治体の果たす役割は大きくなってきています。ただ三者が法的に対等になったとはいえ、今後は財政面での税収の分配が大きな問題になってきています。この点を考慮した時、全ての自治体で部落差別をはじめあらゆる差別を撤廃するための条例なり人権尊重の社会づくり条例が制定され、条例に基づく取り組みが実施される必要があります。具体的にはまず条例を制定して、審議会を設置することです。そして実態調査を実施し、それを受けて審議会を開催し答申を得ることです。そしてその答申を踏まえて基本方針・基本計画、実施計画を策定し具体化するとともに、定期的に評価することが重要です。ここまで実行されて初めて条例に基づく取り組みが実施されるのです。それが今、求められています。
人権教育・啓発推進にあたっての自治体のあるべき姿についてですが、自治体には包括的な将来像を明記した総合計画を策定することが義務づけられています。この総合計画の重要な柱に、人権施策、人権教育・啓発の推進を位置づけることが望ましいです。そして繰り返しになりますが、人権に関する条例、その条例を踏まえた人権全般の基本方針・計画を策定することが必要です。またその基本方針・基本計画は人権教育・啓発の推進、人権相談・救済の実施、人権施策の推進の3点を柱とすることが望ましいと思います。そして「世界プログラム」の考え方も反映させた人権教育・啓発に関する包括的な計画、学校教育における人権・同和教育の推進に関する基本方針・計画を策定、最終的には全ての学校毎に人権・同和教育基本方針・基本計画を策定していくことがあるべき姿だと思います。ただ人権教育の中で同和教育を重要な柱と位置づけることは絶対に欠いてはいけないと私は考えています。
最後に国や国連に対する働きかけについてですが、日本政府の「国連10年」に対する総括は近日中にもホームページで公表されます。しかしまだ「世界プログラム」を推進するための体制は整備されていません。ですから「世界プログラム」に連動した取り組み推進を求めた働きかけを各方面から日本政府に行う必要があります。また国連へは第2次3年、第3次3年の重点課題を早急に定めることを求めていく必要があると思います。
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