Q & A
Q. 大阪府等で「部落地名総鑑」の販売や部落差別調査を禁止する条例が制定されていますが、他の自治体はどうなっていますか。
A. 大阪府で1985年に制定されて以降、熊本、福岡、香川、徳島で条例が制定され、今年10月には鳥取県で人権侵害の救済をするための条例が制定されました。これは禁止規定の中に部落差別調査を禁止する条文があるので、内容的には大阪の条例に近いのではないでしょうか。これ以外の動きとしては行政書士の戸籍謄本不正入手事件を受けて兵庫県と、司法書士の戸籍抄本・謄本の不正入手事件を受けて京都府で条例制定を求める動きが出てきています。
また一度廃案になり継続審議になっている人権擁護法案では、第3条で「部落地名総鑑」の作成や販売、部落差別身元調査、就職差別が禁止されています。確かにこの法案は人権委員会の独自性など多くの問題点はありますが、このような画期的な一面もあります。この法律が成立すれば全国一律に「部落地名総鑑」の作成・販売や差別身元調査が禁止されることになります。
Q. 皇太子の結婚に際して行われた身元調査に対して解放同盟はどのような抗議や取り組みを行っているのですか。それは今回結婚した黒田慶樹さんの件にどう結びついていますか。また同企連の取り組みは今後もっと具体的な広がりが求められていると私は思うのですが、その点について動きはどうなっているのでしょうか。
A. 小和田雅子さんの身元調査については起こってからかなり後で事実が分かったので、一応抗議はしましたが、それほど強力なものではありませんでした。むしろ今、問題なのは「部落地名総鑑」の作成や身元調査の禁止、あるいは野放しになっている調査業者をどうするかということです。現状があまりにもひどいので自民党からも議員提案でこれらを禁止する法律を作ろうとする動きが出ています。
また、差別身元調査事件が起こって以降、部落解放同盟大阪府連では、関西の4大経営者団体と就職差別をなくすなどについての懇談会を毎年定期的に行っています。ただ私はこれを中央レベルでも行うように提言しています。それを通じて企業の社会的責任として部落差別をなくす、人権問題に取り組む等ということを中心課題に位置づけるように今後は申し入れていかなければならないと考えています。
Q. インターネットを利用した差別事件が起こっているということですが、表現の自由の問題も含めてプロバイダーの対応など最近の状況はどうなっているのですか。
A. 東京大学の浜田純一さんによればインターネットによる情報社会の登場は、もう一つ新しい世界ができたと思わなければならないほどの大きな変化ということです。そしてその新しい世界では法整備が遅れていて、人権の観点からインターネットを見た基本法的な法律が必要だという問題提起を受けたことがあります。つまり一つの方策では解決しないので、いくつかの基本的な方策を提案して、それを総合的に担うことで問題解決を目指さなければならないということです。そこで重要な柱になってくるのが教育・啓発です。しかし現在行われているインターネット教育は技術ばかりを教えて、何のためにインターネットを使うのかは教えていません。ですから人権・平和・環境を守るためにインターネットを使うという肝心なことを今後はしっかり教育・啓発していかなければなりません。
また相談や苦情処理をどうするのかも重要な問題です。やはりこれは個人では難しいので、公的な機関が必要になります。つまり然るべき公的機関が通報を受けてそれが人権侵害と認められた場合、その機関がプロバイダーに削除を求めたり、情報発信者に発信をやめるように求める等の方法が有効だと思います。あるいはプロバイダー自身が情報発信に対して規則を設けて、その規則の中で特定の事柄につながる情報があった場合は削除するという規定を予め謳っておく方法もあります。最近では約款の中で差別を助長するような記述は削除すると記載するプロバイダーも増えており、実際に削除するケースが増えてきているのが現状のようです。ただそれでも差別し続ける場合にはやはり罰則が必要ですが、これについては日本の国内法だけでは限界があります。なぜならどこの国のプロバイダーを使おうが料金はほとんど変わらないからです。最近では日本のプロバイダーから締め出された発信者がアメリカのプロバイダーを利用することが増えており、そこで部落の地名が掲載されたときにそれが差別につながるということを分かって貰うだけでも時間が掛かるという問題があります。つまり国際的な条約を設けるしか規制する方法がなく、国連でも現在インターネットでの人権侵害は重大なテーマとして議論されています。
Q. 部落の出身であるかどうかはそもそも集める必要のない情報です。しかし個人情報保護法では個人情報の利用目的の特定、利用目的による制限という規定がありますが、先のような情報を集めることへの規制はありません。なぜこの点においてこれまでの差別解消に向けた取り組みが活かされていないのでしょうか。
A. 個人情報保護法の最も重要な考え方の一つは、情報の主権者はその情報の本人であるということです。従って情報の収拾も利用も全て主権者の同意がなければ行ってはならないのです。私はこの考え方は非常に大事だと思っていて、戸籍謄本や住民基本台帳にもこの考え方を貫くようにかねてから訴えています。戸籍や住民基本台帳には公的な機関が証明する非常に詳しい個人情報が書かれているにもかかわらず、これらは個人情報保護法の対象から除外されています。その問題が現在いろんな形で出てきており、ついには住民基本台帳法の改正の動きへとつながり、更に戸籍法改正にも議論は広まっています。ぜひ皆さんにご理解願いたいのはこれらの情報の流出を防ぐ方法は、これまでの偽造されやすい本人確認やいい加減な利用目的の記入ではなく、本人通知しかないということです。いつ、誰が、どのような理由で情報が請求されたということが情報を取られた本人に通知される制度が導入されれば情報の不正流出は減るだろうし、万一人権侵害が起こった場合にも犯人が特定されやすくなるのではないでしょうか。
Q. 「部落地名総鑑」の購入先の都府県別の分布はどうなっているのですか。また購入先の全てに対して糾弾は行われたのでしょうか。
A. 具体的には覚えていませんが、東京と大阪が圧倒的に多かったと記憶しています。また「部落地名総鑑」購入企業で作られた各地同企連で、早くに結成された都府県は購入企業が多かったと理解して間違いないでしょう。
糾弾については一般企業に対しては全て行っています。ただ完全に開き直った個人や行方をくらました興信所・探偵社については実施できていませんが、いずれも極少数です。
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