講座・講演録

部落問題・人権問題にかかわる講座情報、講演録を各カテゴリー毎にまとめました。

Home講座・講演録>本文
2006.05.16
講座・講演録
第272回国際人権規約連続学習会
世界人権宣言大阪連絡会議ニュース285号より
国連持続可能な開発のための教育の10年
-国内実施計画の進捗状況と今後の展望

池田 満之(「持続可能な開発のための教育の10年」
推進会議副代表理事、岡山ユネスコ協会理事)


持続可能な開発のための教育の出発点

 私は岡山県内においてユネスコ活動等をしながら、「持続可能な開発のための教育の10年」推進会議(ESD-J)の副代表理事として活動しています。

 今回2006年3月30日に10の府省が集まり、「国連持続可能な開発のための教育の10年」関係省庁連絡会議が開催されましたが、そこで決定された日本国内における「国連持続可能な開発のための教育の10年」実施計画の概要と今後の展望について、またそれが皆さんが日頃取り組んでおられる人権教育とどう関わってくるのかという点について話していきたいと思います。

 残念ながら「国連持続可能な開発のための教育(Education for Sustainable Development)の10年」(以下「ESDの10年」とする)の知名度は低いです。先日決定された国内実施計画もインターネット上で閲覧できるのですが、皆さんの中でも見た人は少ないのではないでしょうか。もっと言えば、ESDが何かさえ分からない人もいるかも知れません。そもそもこの「ESDの10年」とは2002年にヨハネスブルグで開催されたサミットで日本政府から提案されたのですが、実はこの年は1992年にリオデジャネイロで地球サミットが開催されて10周年にあたります。つまりヨハネスブルグサミットは地球サミット以降の10年間を検証する位置づけでした。

社会がバランスよく発展できる教育

 1992年の地球サミットでは、それまでの状況ではいずれ地球環境はダメになってしまうということで、それを防ぐために地球温暖化防止等に代表される行動計画「アジェンダ21」が採択されています。しかしそれから10年経っても状況は改善するどころか、地球環境を悪化させてしまっていました。その原因は「アジェンダ21」そのものにあるのではなく、主要国がそれに対して効果的な政策を行わなかったことにあるということが議論の中で明らかになりました。

 人権分野でも同じですが、要するにどんなに立派な計画が出されてもそれだけでは問題は解決せず、それを担う人の質が重要だという結論に達したのです。そこで教育の重要性が注目され、「持続可能な開発のための教育」を世界的にきっちり取り組んでいこうと「ESDの10年」が提案されたのです。またその中身も環境問題だけにとどまらず、環境や経済や人権などの個別の課題が複雑に絡み合った社会がバランスよく発展できるような教育、つまりそれまでも行われてきた個別課題への教育を統合するような形で社会の持続的な発展を目指す教育がESDであり、それを集中的に取り組もうとするのが「ESDの10年」なのです。

日本国内におけるESD

 今回の実施計画は、序文に続いて基本的な考え方、ESD実施の指針、ESDの推進方策、評価と見直しという形で構成されています。これを元に日本では2014年までに「一人ひとりが持続可能な社会づくりに参画するようになる」、「環境・経済・社会の統合的な発展について取り組む」、「開発途上国が直面する諸課題への理解と協力の強化」が目指されることになります。

 「ESDの10年」の最大の目的は持続可能な社会づくりです。つまり私たちが10年後にも今と同じような暮らしを維持するには、今何をしなければならないのかを考えるものです。しかし今日の日本はエネルギーや食料の自給率の低さから国内だけでは市民は自活できない状況にあります。そのため国際社会が崩れると私たちの暮らしも崩れるだろうし、お米の完全自由化が認められれば米を中心とした社会も崩壊するかも知れません。それ以外にも私たちの身の回りには将来を不安にさせる問題がたくさんあります。今日明日は大丈夫ですが、数年先も今と同様の暮らしができる保障はどこにもないのです。

  ではこのような先の見えない社会だから崩壊するまで今の暮らしをただ続ければいいのか、といえばそうではありません。将来も生きている喜びを感じられる社会にするために今私たちは何を学び、どう行動するのかをみんなで作り上げていくプロセスがESDの根本です。つまりESDとは私たち一人ひとりが、世界の人びとや将来世代、また環境との関係性の中で生きていることを認識し、行動を変革するための教育なのです。だから、日本国内の実施計画の目標は10年後に全ての人びとが持続可能な社会づくりの担い手となるよう個々人を育成し、意識と行動を変革することを目指すといった「持続可能な社会づくりの担い手となる人づくり」にあります。    

実際に持続可能な社会が何年後に実現できるかは分かりませんが、世代間の公平、地域間の公平、男女間の平等、社会的寛容、貧困削減、環境の保全と回復、天然資源の保全、公正で平和な社会等ESDの課題に向けた取り組みに、全ての人が当たり前に取り組めるような社会にすることが目指されています。つまりただ知識として学ぶことだけがこの教育の目的ではなく、ESDで学んだことを実際の行動に移し、それを持続可能な地域づくりへと発展させていくこともESDに望まれています。

  特にここでは「人格の発達、自律心、判断力、責任感等の人間性を育むこと」と、「個々人が他人との関係性、社会との関係性、自然環境との関係性の中で生きており、関わりやつながりを尊重できる個人を育むこと」という2つの観点が重要になってきます。それらを踏まえつつ、未来の社会を描き、その実現に向けた取り組みを実行できる人づくりをすすめて、具体的な地域づくりへと発展させていくことが望まれています。

  ここで地域が強調されている背景には、それぞれの地域が置かれている環境に差があることがあげられます。例えば大阪は他の地域と比べて人権に関する意識が高いところです。そのため既に豊中市などの事例にもあるように、大阪でのESDは人権関係に重点が置かれたものが多くなるかもしれません。また他の地域では環境や自衛隊の問題であったりと、それぞれの地域にある課題を核に据えたESDの実践が行われつつあります。それを全国一律のカリキュラムにするのではなく、結果的に10年後もみんながその地域で生きていけるようにすることが目的であるため、実施計画はそれぞれの地域の自治あるいは市町村の自主性を非常に重視しています。

 今回の実施計画ではESDの大きな視点として次の4点を提起しています。まず1つが身近な生活問題を通して世界の問題を考える視点で、国連レベルの問題もできるだけ身近な生活レベルまで落とし込んで考えるという視点です。2つ目が子どもの参画を重視しながら、地域社会を共に担っていく大人と子どもが一緒に活動する世代間の取り組みを重視する視点です。3つ目はこれまで行われてきた様々な取り組みをESDの方向でバランスよく統合する視点で、学校教育での総合学習でESDに取り組むことも求められています。そして4点目が学校、公民館、地域コミュニティ等を実施主体とし、そこで働く人がコーディネート能力やプロデュース能力を身につけ、それらを地域ESDの推進母体、地域の拠点にするという視点です。これらの視点をもってESDを進めていこうというのが、今回の実施計画です。

今後の展望と課題

 次に今後の展望について触れたいと思います。今回決定された実施計画は理念や文言としてESDの国際的な状況を踏まえていて、持続可能な社会を形成していくための視点や方法について盛り込まれていることや、環境だけでなく人権等幅広い分野を総合化している点等は評価できます。しかし実施計画を推進していくための体制が現在の関係省庁連絡会議では弱いという問題があります。また、「ESDの10年」と「人権教育のための国連10年」を比較したときに、最大の違いは法律の有無にあるといえます。

「人権教育の10年」は内閣府に推進本部が設置され、明確な法律も制定されました。これは人権教育を熱心にバックアップする団体があり、その強い後押しがあった点が最大の要因だとは思いますが、いずれにしても社会的に取り組む環境ができていました。一方、「ESDの10年」の場合は取り組むべき分野が非常に多いということもあって、まだそこまでには至っていません。しかしいずれは「人権教育の10年」同様に推進法を制定してしっかりとした体制の下で進めていかなければ、ESDはアバウトなものになってしまう危険性があります。

  従って「ESDの10年」がきっちりと機能して、社会的に取り組むことのできる環境をつくっていくことが今後の課題だといえます。しかし今日のようなほとんどの人がESDが何かさえ知らない状況では、その実現はむずかしいです。そのためこの点では政府と同じ意見なのですが、今後1年間の目標は「ESDの10年」の周知徹底に他なりません。これから各省庁から「ESDの10年」の広報に向けた資料やガイドライン等が出されてくるかと思いますので、ぜひ皆さんにはそれらを活かしていただきたい、持続可能な社会を実現するためにESDというツールがあり、それが「ESDの10年」という国連決議として進められていることを知ってほしいと思います。実際にホームページを見ていただければ分かりますが、既にいくつかの具体的なプログラムが公表されています。

  これらの多くは既存のプログラムをESDの視点から見直したものですが、今後はさらにESD独自のプログラムがそれに含まれてくるでしょう。ぜひ皆さんにもそれを見てこの問題が私たちにとっていかに身近な問題であるか、そして私たちが今日直面している様々な課題への取り組みは、持続可能な社会の実現に向けてESDの方向へ統合されていくのだということを理解してほしいと思います。

岡山での実践

 岡山は10年以上前から市民サイドでの国際貢献についての取り組みが熱心で、県内NGOの連合体が核となった国際貢献NGOサミットが様々なテーマで毎年開催されてきました。そういった背景もあって、現在岡山では持続可能な社会を目指して官民が一体となったESD推進協議会を立ち上げ、そこが母体となった取り組みを行っています。ここでは円卓会議やワークショップを通じて様々な立場の人がESDについて議論していますが、同時にESDについての一定のカリキュラムも必要だということで、研究会を立ち上げてその作業を進めています。

 また岡山地域は国連大学からESDを進める地域の拠点として認定を受けているので、国連大学が提唱している学校間の縦横の連携強化を基礎として、公教育機関をつないだESDプログラムにも取り組んでいます。例えば京山地区では企業も含めた官民合同で環境を切り口にした取り組みを実施し、小学生からお年寄りまでが一緒になって自分たちの地域の環境点検を行っています。これはみんなで自分たちの地域の課題を認識し、問題解決のために行動するためだったのですが、この活動を通じてそれまでは気にもならなかった通学路に落ちているごみを、自主的に拾う子どもが増えてきています。

 つまり家と学校をつなぐ通学路でしかなった地域が可視化されることで、地域が自分と深くつながった存在へと意識の中で変わっていったのです。これ以外にも小中学生に国際ワークショップに参加してもらったり、教育長や議員も巻き込んだESDフェスティバル開催等の様々な活動を通じて、自分たちの10年後をどうするのかを模索しています。

 岡山では学校や公民館を拠点にして、地域全体でこれからもESDを展開していこうとしています。決して簡単ではありませんが、一部の人や団体だけが頑張るのではなく、地域全体で取り組み、ESDによって社会全体の意識や常識が変わり、持続可能な社会が実現することを目指しています。

「ESD泉北」の経過と展望

廣瀬 聡夫(世界人権宣言泉北3市1町連絡会事務局長)

大阪でのESDの取り組みは豊中市が全国的に見ても有名ですが、私たち泉北地域でも世界人権宣言泉北3市1町連絡会が母体となって「ESD泉北」という取り組みを行っています。

 そもそも世界人権宣言泉北3市1町連絡会の枠組みができたのは1998年に世界人権宣言50周年記念事業として初めて共同事業を実施したことからですが、当初は単独の市町村でやるよりも人もお金も有効に使えるといった程度の理由からでした。それが1999年以降毎年テーマと開催地をかえて共同事業を実施するようになりました。

 しかし世界人権宣言泉北3市1町連絡会といっても市民からすれば行政と同様であって、行政からのトップダウン形式の啓発活動ではNPOや市民が入ってきにくい状況でした。そこで2001年の「ボランティア国際年」からは3市1町連絡会が事務局となり、その年のテーマに専門性を持つ諸団体が参画した実行委員会と共催する形となりました。その結果、個別の専門性を持つNPOとの緩やかなネットワークができ、そして05年のテーマがESDになったことがきっかけで「ESD泉北」はスタートしたのです。

 私たちは2005年度のESD事業として次のようなことを行ってきました。まず開発という点に着目して開発教育協会大阪事務所と連携し、総会での記念講演会やワークショップを巡回して開催しました。またこれまで私たちには環境という観点がありませんでしたが、ESDを契機にネットワークの枠組みを広げるために「いずみ環境クラブ」という市民団体との連携も徐々にできてきています。

 さらに私たちが運営しているNPO法人ダッシュがESDの全国ネットワークに「人権」の視点からの参画を目指してESD-Jに団体加盟し、ESD関西やESD全国ミーティングへの参加・発信しています。また最後に05年度事業のまとめとしての今年の2月12日に「ESD泉北」地域ミーティングを開催しました。今後は「ESD泉北」のシンボルマークを作成し、関係するそれぞれの活動もESDの一環ということで、そのマークをつけてESDを啓発していきたいと考えています。

 「ESD泉北」と世界人権宣言連絡会議が本来目指すものは重なるはずなのですが、歴史的経過や組織の現状から現在はそうなりきれていません。そこを「ESD泉北」という取り組みを通じて脱皮していきたいと私は思っています。いずれにしても今までやってきた人権教育の取り組みを基礎に、少しネットワークを広げて新しい視点を取り入れていけば、簡単に「持続可能な開発のための教育」となるだろうと思っており、ESDはそれほど難しい取り組みではないと考えています。

関連書籍