インド・タミールナドウ反差別訪問記
IMADR第15回理事会
今回で15回目を迎えるIMADR理事会(3月11日・12日)で、現在IMADRが力を入れて取り組んでいる1.インド洋大津波の被害者支援、2.世界社会フォーラムへの参加、3.日本におけるマイノリティ女性の実態調査、4.国連人権委員会・人種差別等に関する特別報告者の日本訪問報告書の勧告の実施を求めた取り組みという4点の活動がまず報告されました。
次に個別の課題として「職業と世系に基づく差別」の撤廃、搾取的移住と人身売買との闘い、先住民族の権利確立の闘い、マイノリティの権利確立に関する闘い、司法制度における人種差別の撤廃、国連人権保障機構の強化と被差別者の活用という6点の各論的な活動が報告されました。その後組織と財政に関する報告が行われて初日が終わりました。IMADR国際の年間予算は3700万円で、その内の3000万がIMADR日本委員会、すなわち解放同盟や同企連等から拠出されたものです。これらの組織の国際社会への貢献が非常に大きいと言えます。
2日目の理事会では次の活動方針が確認されました。
- 「原則と指針」のとりまとめと草の根活動支援に重点を置いた「職業と世系に基づく差別」の撤廃、
- 南アジアやアフリカも視野に入れた搾取的移住と人身売買との闘い、
- グアテマラプロジェクトの評価を踏まえた先住民族の権利確立、
- スリランカの和平に向けた取り組みや国連本部でのロマとスインティに関するパネル展示などに見られるようなマイノリティの権利確立、
- 狭山事件の国際的キャンペーンを中心にした司法制度における人種差別の撤廃、
- 国連人権保障機構の強化と被差別者の活用に向けた各国での取り組み。
そして理事や顧問の補充による組織の強化と予算案が検討され承認されました。
IMADR第7回総会と記念シンポジウム
翌13日はIMADR第7回総会と記念シンポジウムが開かれました。これには日本からも多くの人びとが参加しました。総会では先の理事会で議論された事項が報告・承認されました。総会では狭山第3次再審請求と「人権侵害救済法」の早期制定を求めた決議が提案され、承認されました。最後に、IMADR理事長に再任されたニマルカさんの『日本の部落差別、インドのダリット差別、スリランカのマイノリティの権利を守る闘いの旅を今後も続ける。法律を制定させるだけで差別がなくなるわけではない。法律の実施が求められている。日本、フランス、インド、スリランカなどで、右翼、ファシズムが力を持ってきている。貧困のグローバル化が進み、福祉予算が削減され、軍事に回されている。人権のための闘いは、平和を求める闘いでもある。人種主義、カースト差別、マイノリティ差別の問題とも深く結びついた問題だ。平和なくして人権なし、人権なくして平和はない。いつの日にか、鳩のように自由に飛べる社会を構築していきたい』という挨拶で総会は閉会しました。このあとに開かれた記念シンポジウムでは200人以上の参加者のもと、「アジアにおけるカーストと世系に基づく差別との闘い」というテーマで議論が行なわれました。
スタディツアー
総会の翌日から現地のスタディツアーに参加しました。最初の夕方に訪問したクーダラパッカク村について報告します。この村はインドの内陸部にあるため、津波の被害はありませんでした。50世帯ほどのダリット家庭が生活しています。村が経験した深刻な差別事例が3つ報告されました。1つはヒンズー寺院の建て替えに際してダリットからも寄付を集めておきながら、ダリット住民の寺院への立ち入りを拒否した問題。ダリットの人々が近くの池で魚を捕る権利を買ったにもかかわらず、漁が禁止されている問題。そして最後にダリットの住民は水を溜めたタンクから直接水を汲むことを許されていない問題。たまたま訪れたダリット住民の親戚の人がそれを知らずに直接水を汲んだために村が襲撃されたという事件も起きています。このような差別事象は以前より話には聞いていましたが、直接現地で見聞きしたのは初めてでした。
次に農村開発教育協会(SRED)の本部を訪問しました。SREDは1979年に創立された法人で、代表のブルナド・ナティソン・ファティマさんをはじめ37名の専従スタッフが働いています。ドイツのキリスト教系の団体「世界にパンを」などから財政支援をうけているSREDは、ダリット、農村女性、性産業で働く女性、マタマ(寺院に隷属した女性)、石切労働者、レンガ工、牛車労働者、土地なし農民、先住民の9つの運動を組織しています。
性産業で働く女性は、運動に立ち上がった結果、『警察の暴力から逃れられるようになった。食糧の配給をうけたり、家を借りられるようになった。人間として対応されるようになった』と語り、あるマタマは『村々を回り、子どもをマタマにしないように訴えている。仕事と住宅を保障すること、子どもに教育を保障することを要求している』と語ってくれました。SREDはこれ以外にもIMADRなどと協力しながらデイケアセンターの建設を進めたり、津波の被害者でありながら救援や補償を受けられなかったダリットへの食糧支給、被災各戸への山羊やミシンの配布などを行っています。SREDの運動は女性を中心にしていること、草の根レベルでの運動であること、ダリットをはじめとした被差別者を組織していることなど、私たちが学べることが少なくありません。これからも交流を継続していく必要を感じました。(以下、紙面の都合で略)
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