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2007.12.12
講座・講演録
部落解放・人権入門2007
第37回部落解放・人権夏期講座(2006年8月23日-25日) より

フェアトレードと企業の社会的責任

小吹岳志(フェアトレード・サマサマ事務局長)


 フェアトレードとは?

 フェアトレードと企業の社会的責任というテーマですけれども、フェアトレードというのは、1940年代から行われていますが、なかなかそれが普及しない。なぜかということもふくめ、話をしていきたいと思います。

 フェアトレード運動の2つの側面

 フェアトレードは、どちらかというと途上国の人たちを支援する運動をNGO、NPOがやっていることではないかというふうに、理解しておられる方も多いと思います。そういう面もありますが、運動のもう一つの側面として、現在の世界における商慣行、貿易システムを公正なものにしていこう、ということがあります。

 私とフェアトレード

 私は1995年に、NGOアジア協会アジア友の会のスタッフになりました。この団体は、1979年からインドに井戸を贈る運動や、植林、里親制度といった活動をしており、長い実績があります。そして、私も、東南アジアや南アジアの国々などに行き、現地の方と植林をしたり、井戸を掘ったりしてきました。しかし、そういった活動をしている中で、ネパールに行ったとき、日本人は次に何をしてくれるのかと聞かれました。そこで、これはわれわれがやるのではなくて、現地の人たちが本来やるべきことではないかという議論をしたんです。

 現地の人たちにとっては、NGO、NPOであろうが、企業、政府であろうが、井戸、植林、学校、幼稚園、病院、そういった施設をつくってくれる機関としては一緒なんです。日本では、NGO、NPOはそんなにお金があるところではなくて、会員から会費を集めたり、寄付をいただいたりしてやっているんですが、現地の人にはそれが見えてこない。そして、そういう一方的な援助は、どちらかというと依存体質を生んでいきます。

 そうではなく、自分たちで村をよくしていこうという運動、それをわれわれが助けていくかたちにしたいということで、フェアトレードを推進していくことになりました。そして、現在、私どもは有限会社として、フェアトレードビジネスをやっています。 

 フェアトレードとは

 フェアトレードというのは、日本などの先進諸国で、経済的、社会的に弱い立場にある発展途上国の人びとから、伝統的な工芸品や農産物を公正な価格で買うことで途上国の人びとの経済的自立を支援する運動です。そして現在は、世界における商慣行、貿易システムが必ずしもフェアに行われていない。先進国の圧力が、結果として、途上国の人たちの賃金、生活環境、労働環境を苦しめている。そういうものを公正なものにしていこう、というふうに発展していきつつあります。


 フェアトレード・サマサマの活動

 生産者と生産地の紹介

 私たちがどういう国の商品を扱っているか説明します。ベトナムは、キン族が大きな民族で、その他にも43の少数民族の方がいます。そういった人たちはキン族よりも生活レベルは低い。そういった人たちの独自の刺繍、織物、染色品を、日本で売れるような商品に加工し売ることでサポートしています。

 それから、マハグチというネパールで20数年前につくられた非常に古いフェアトレードのグループがあります。そこからも商品を仕入れています。

 バングラデシュからは、ノクシカタ製品という刺繍製品を仕入れ、農村女性の自立支援をしています。ゴムの木は10年ほどで樹液がでなくなりますが、スリランカでは、その廃材を利用して木工品を作っていただいています。

 現在、7カ国、10の生産者団体とお付き合いしています。

 取引のシステム

 その取引のシステムを説明していきたいと思います。バングラデシュを例にあげますと、現地のシスターがつくった生産者団体があり、村の人たちに刺繍をしてもらい、それを集めて最終製品として仕上げています。それを買い取り、サマサマが取引しているフェアトレードショップを通じ、消費者の方にお届けする。あるいは、イベントを通じて販売する。最近は、多くの学生がフェアトレードにたいへん関心を示していて、学園祭でも販売してくれています。

 システムとしては、これまでの貿易とは、それほど違いはないんです。けれども、フェアトレード団体としてのサマサマが、今までの商社貿易、メーカー貿易と違うのは、生産者、生産者グループに対し、生活していけるだけの賃金、整った労働環境、自然環境を維持していくことを保証するというかたちでやっていることです。

 ですから、価格も割高になります。フェアトレードの問題点の一つが、価格を現実のマーケットにいかに順応させていくかだと思います。

 直面するさまざまな問題点

 それから、フェアトレードビジネスは途上国の人たちをサポートしていく立派なシステムだと言われていますけれども、現実的には非常に多くの問題点がでてきます。

 われわれが現実に直面している問題点をあげてみますと、先ほどもあげましたが価格の問題。それから、契約時に、仕様、条件、デザイン、納期を決めるんですけれども、それがなかなか守られない。しかし、われわれが実際に発注したものと違うからそれを拒否できるのかというと、なかなか難しいのが現実です。

 また価値観が違います。例を出しますと、「ゾウ」というのは、東南アジアから南アジアにかけポピュラーなモチーフなんですが、最初に発注したときは、リアルなゾウでした。これではなかなか売りにくい。というのは、日本における雑貨の購買層は、20歳代から50歳代の女性が中心で、「かわいい」というのが重要なんですが、それが生産者の方にはなかなか理解してもらえない。彼女たちはむしろリアルなゾウがかわいいと思っているのではないでしょうか。

 それから、サイズの問題です。フェアトレードはヨーロッパが先行していて、古くからやっている生産者団体はヨーロッパ志向です。ですから、サイズが大きかったり、日本人向けになっていないことが多いのです。

 品質も彼らが完壁だと言ったものが、なかなか日本の市場では受け入れられない。日本のマーケットは安くても品質については厳しいんです。そういうことを指摘すると、見えないところだからいいのでは、という意識が強く、苦労しました。ヨーロッパやアメリカではそれで受け入れられているので、よけいに大変です。

 そして、いちばんの問題は資金運用です。貧しいところほど材料も買うお金がないということで前払いになり、資金回収までに時間がかかります。銀行でお金を借りるにしても、「フェアトレード」としてやっていますと言っても、安い金利で貸してくれる銀行はありません。

 現実に、今あげたような問題があるんですけれども、フェアトレードを推進していくには、いろんなところでお話をし、お店に置いてもらって多くの方に知っていただく。そういったことの積み重ねがいちばん大切だと思います。


 フェアトレードの意義

 生産国で

 

 フェアトレードは、今まで述べたように、途上国の人たちの支援であり、またその伝統的な技術、文化を保持していくことをサポートしていくことです。そして、現地で産業を作り出すことにより、村自身を保持することができます。そうすることで、生活環境を守り、近代化、グローバリゼーションの波に対抗していくことができるのではないかということです。

 先進国で

 フェアトレード商品は、生産者を紹介することにより、生産者の顔が見えるという利点があります。現在スーパーなどでも、誰がつくったか、どこでつくったかわからないのではなくて、この人がつくったものだから安心して食べられる、子どもに食べさせられるというふうな、「安心感」を売るというようなことをやっています。

 フェアトレードも、実際にどういう人たちがつくっているのかを知り、その製品を買うことで、彼らの生活のサポートをしているんだということを考える材料になると思います。

 みなさんが買い物をする時の基準というのは、価格、デザイン、ブランドといったようなものが中心になると思いますけれども、もう少し進んで、つくっている人たちはどういう人たちなのか。これを買うことによって、その人たちの生活がどうなるのか。ものを買うことで、そういう人たちを圧迫してないか。そこまで考えていってほしいと思います。

 それが、生産者とつながる、顔のみえる貿易ということで、現在の自由貿易と違うフェアトレードとしての意義があるのではないでしょうか。フェアトレードという言葉は、この10年ほどで一般化してきたんですけれども、以前は、もう一つの貿易(alernative trade)、草の根貿易(grassr-oots trade)、民主交易(people-to-people trade)といったような、いろんな言われ方をしてきました。

 

 フェアトレードの基準

 それから、フェアトレードにも基準というものがあります。IFAT(国際フェアトレード連盟)という、先進国と途上国でフェアトレードをやっている生産者団体とフェアトレード団体が集まってつくったグループが決めています。日本でも、有機といいながら有機の基準がなかったので、法律が決まりました。それと同じように、基準を満たしているものをフェアトレードと呼ぶ、としています。

 その基準とは、事業の透明性と説明責任、公平、公正な対価を支払う、男女平等である、児童労働をさせない、環境に配慮するなどです。当たり前のことなんですけれども、こういうことをやっていかないとフェアトレードが推進されていかない。どうしても、メーカー、商社の力が強いので、値下げ圧力などがあると生産者にしわ寄せがくる。それに対抗しょうという、ガイドラインです。

 


 企業の社会的責任について 

  ISO26000

 

 さて、いよいよ本日の本題の、企業の社会的責任について話をしていきます。フェアトレードの意義の一つである、現在の商慣習、システムを公正なものにしていくための基準がつくられることになりました。

 ISO(国際標準化機構 lnternational Organization for Standardization)という、ジュネーブに本部がある認定団体があります。ISO9000の品質管理、ISO14001の環境管理システムなどがよく知られていて、企業の中にも、これを取得されているところも多いと思います。

 現在、ISOでは、ISO26000というのが協議されています。これは企業の社会的責任について内容を決めているところなんです。議論されている内容は、7つぐらいに分けられます。その中の「人権」と「公正な商習慣」がフェアトレードにつながることになると思います。企業がISO26000を取得すると、こういったことに対して配慮しなければならないことになります。これが、2008年10月発効予定なのですけれども、大きな企業はこれに向け、いろいろと社内慣行などを見直しています。

 サプライチェーン・マネジメント

 その中で言われているのが、サプライチェーン・マネジメントです。企業が、一次下請け、二次下請け、三次下請け、原材料を提供してる企業、そういったところのすべての労働者の労働条件、労働賃金、生活環境をチェックしていくサプライチェーン・マネジメントが、企業の社会責任になっていく。配慮のある企業は、今、チェックをしています。

 これが発効すると、どういうことになるかというと、たとえば、松下が作っている携帯電話に使われているレアメタルを掘り出している南アフリカの鉱山労働者の労働条件、生活環境はどうか、というところまで問われるようになるということです。

 ただ、ISO26000のISO9000、ISO14001との大きな違いは、あくまでもガイドラインであるということです。ISO9000、ISO14001は第三者認証基準があるんですけれども、ISO26000にはありません。企業の社会的責任を、第三者が認証するのは難しいからです。しかし、企業がISO26000をやっていますと言っているにもかかわらず、問題あるようなことが発覚したときに、社会的信用を失うということがありますので、今後、対策が進んでいくのではないかと思います。

 

 SA8000

 

 それから、もう一つ、SA8000(社会説明責任 Social Accontability)というのがあります。これは、アメリカの企業、機関から発達していったものなんです。9項目があります。労働者の環境、条件というものを整備していくというふうなシステムなんですけれども、このSA8000をいくつかの日本の企業がとっています。ISO26000、SA8000、その二つの面から、フェアなトレードに対する企業の社会責任が、今後、問われていく可能性が高いと思います。

 

 各企業の社訓・社是

 

 企業の社会的責任について述べましたけれども、これが新しいことなのかというと、そうでもありません。それは、いくつかの企業が昔から決めているような社訓、社是、スローガンの中にも、大きな意味でのフェアトレードを推進しなさいというのがあるからです。

 たとえば、三井物産の企業使命には、「大切な地球と、そこに住む人びとの夢溢れる未来作りに貢献します」とあります。これは、日本だけではなく、実際に作っている人たちも地球に住んでいるんですから、そういったことに対しても考慮するということです。

 また、東芝のスローガンには、「人と、地球の、明日のために。」とあります。こういったことを実践していれば、いろんな事件も起こらなかったと思うんですけれども、東芝のスローガンは、たぶん、これをつくられたときは、日本のことだけしか考えておられなかったと思うんです。これを現在の国際社会で運用していったら、地球に住んでいるすべての人びとに対して、こういったことを広めていく必要がある。 

 これはフェアトレードの精神に合致することで、伝統的にこういったことを考えておられるのならば、別に難しいことではないと、私は考えます。


 消費者の課題

 CSRとSRI

 企業の社会的責任を問うと、消費者についても考えないといけないと思います。SRI(社会的責任投資 Socially Responsible Invenstment)というものがあります。CSR(企業の社会的責任 Corporate Social Responsibility)と並べて議論されることが多いんですけれども、これは株式に投資する際に、お金をいくら儲けたかということに投資するのではなくて、企業が社会的責任、環境、人権、そういったものに対して配慮しているのかどうか、ということに対し投資していくことなんです。

 7月10日の環境省の報告によりますと、日本の全個人金融資産の1500兆円の中では0.02%とたいへん低い。アメリカの1000分1の、イギリスの100分の1のレベルでしかないんですけれども、ここ数年は、どんどん伸びてきています。今後、投資家の意識が少しずつでも変わっていけば、SRIは伸びていくのではないかなという気がします。

 フェアトレードラベル

 それから、フェアトレードチョコレートというものがあります。フェアトレードラベルという国際機関があり、食品に対して、生産、取引をしているところをチェックし、これは公正な取引された食品であるということを認定しています。日本にも、フェアトレードラベルジャパンというのがあります。そこが認定したチョコレート、コーヒー、バナナ、ココアなどがあり、そのラベルのついたものを買おうという運動があります。

 日本では非常に少ないですけれども、イギリスでは、全商品の20%ぐらいがフェアトレードの商品になっています。50%の人たちがフェアトレードの商品について知っている。普通のスーパーに、フェアトレードのバナナ、コーヒーと、そうでないバナナ、コーヒーが並んで売っているんです。ですから、消費者がフェアトレードの商品は2割、3割高いけれども、お金をだして買おうというふうな消費の選択ができるようになっています。日本でも、そのようにするのがいちばん理想的なんですけれども、なかなか進んでないというのが現状です。

 チョコレート革命(チョコレポ)

 日本の消費者のフェアトレードに対する認識、フェアトレード商品を購入する行動も低いと思います。われわれはそれをなんとかしたいということでチョコレート革命「バレンタインデーにチョコレートを贈ろう」という運動をしています。原料のカカオは商社が握っていて難しいんですけれども、やれないことはないのではないか。消費者が、ネッスル、森永、明治製菓などのメーカーに訴えていけば、やれるのではないかと考えています。

 サッカーボール

 こういった例があります。フェアトレードサッカーボール。ユニセフが、FIFA(国際サッカー連盟)に交渉し、児童労働で作られたサッカーボールを使わないようにしようということを、アメリカ大会のときにプッシュしました。というのは、手縫いで作られているサッカーボールのほとんどが、インド、パキスタンの子どもたちによって作られています。そして、フランス大会のときに、FIFAが児童労働で作られていないサッカーボールを使いました。もちろん、今回のドイツ大会でも実施しています。

 日本では、報道されないですけれども、プーマ、アディダスは、下請けの工場、会社に対して児童労働で作ったものは取り引きしないということを宣言していて、少しずつ改善されています。

 児童労働をなくしていくと、子どもたちの生活、子どもたちの家族はどうなるのかというような議論がでてきます。少し前の統計ですけれども、インドの児童労働が約6000万人いるといわれています。同時に、大人の失業者が約6500万人いるといわれています。つまり、理論上ですが、児童労働が大人の職業を奪っているという言い方もできるわけです。

 なぜ、子どもを便うかというと、子どもは素直である、力が弱くて抵抗しない、労働組合をつくらないといったことからですけれども、それに対し、購入する側がノーと言えば現状が変わるということが、フェアトレードのサッカーボールの例でも明らかになっています。

 安いキャラクター商品と消費者

 それから、これは悪い例ですけれども、産経新聞の7月31日の記事によりますと、非常に労働条件が悪いということで、広東省のおもちゃ工場で1000人以上の従業員が「暴動」を起こしました。そこで作られていたのは、ディズニーのキャラクター、マクドナルドのおまけといったものでした。日本で売られている安いキャラクター商品というのは、こういうところで作られている。こういったアンフェアなトレードをなくしていかなければいけない。逆に言えば、日本ができることは、こういったことを拒否していけば、人権改善になるのではないか。消費者と企業が一緒になって進められるのではないかという気がします。

 洗剤のコマーシャル

 現在流されているコマーシャルに「実は植物原料は、酵素の持っている力を最大限に引き出すのです。だから、ほら、真っ白。植物の力。環境にも配慮しています」というものがあります。非常に環境にいいということをアピールしています。このコマーシャルに対して環境団体が抗議しています。

 なぜ、抗議しているかというと、使われているパームオイルが問題なんです。それはアブラヤシという椰子(やし)の木の実を絞って、合成洗剤、化粧品、即席麺の揚げ油などに使われています。日本の需要が多く、自生しているパームヤシでは追いつかないため、熱帯雨林、マングローブの林を伐採し、プランテーションにして作っているのが現状です。しかも、農薬、肥料の大量使用により、生産地では、生態系、生活環境が破壊されつつある。さらに、そういうところに住んでいた多くのネイティブの人たちは追い出されました。

 これは、使う日本の環境、日本人にはやさしいけれども、生産地の環境、生産者の人権にはやさしくない。ISO26000を取得したら、非常に叩かれるのではないかなという気がします。わかりやすい例だったので紹介しました。

 日本人ができること

 フェアトレードは途上国の人たちを支援していくということだけではなくて、先進国に住んでいる人たちの生活、買い物の基準を見直し、われわれの消費をどのようにしていくかを孝え直していかなければならない問題だと思います。そうすることで、企業も変わっていき地球全体に貢献できる。日本人が貢献できる1つの手段として、フェアトレードがあると思います。

 ということで、われわれが現在おこなっているフェアトレードの活動と、消費者、企業がおこなえるフェアトレードについてご紹介しました。ありがとうございました。      

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