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2009.02.19
講座・講演録
部落解放・人権入門2008(部落解放 増刊号 2008・592号)
第38回部落解放・人権夏期講座 より

課題別講演 部落問題入門1-2

インターネット上の部落差別事件
1 差別ウェブサイト「B地区にようこそin愛知県」を県連が告発

木村義之(部落解放同盟愛知連合会)


 部落解放同盟愛知県連合会の木村です。私は、今年(2007年)の2月に発覚をいたしました「B地区にようこそin愛知県」という差別ホームページについて、報告をさせていただきます。

 この差別ホームページは、「2ちゃんねる」のような掲示板にさまざまな人びとが部落差別について書き込むという形態ではなく、1人でホームページを立ち上げたものです。その内容も非常に悪質で、愛知県、一部三重県・岐阜県の被差別部落にみずから出向いて写真を撮り、悪質なコメントをつけて、そしてその各地域の詳細な地図を貼り付けて作成したものです。私たち県連が、即座にすべてプリントアウトをしたところ、掲示板ぬきでも500ページ以上にも及び、非常にまあ「労力」を費やしたホームページでありました。中には、写真だけではなく、作成者が地域の中をたぶん自転車で走りながら撮った動画も、アップされていました。

 私たちは2007年2月6日に、このホームページがあるということを本部から知らされ、一生懸命、対応をさぐっておりました。ちなみに、2月15日の時点で、このホームページには1万5000を超えるアクセスがありました。そして、2月17日の時点でこのホームページが削除されていることがわかりました。いろいろ調べてみると、2月14日に名古屋法務局が、このプロバイダに削除依頼をした結果であるということがわかりました。さらに、昨年(2006年)の12月にもこの同じ作成者が差別ホームページを立ち上げて、その時点で法務局から削除依頼をして、削除していたという事実も、その間の経過でわかりました。

 現在、「プロバイダ責任制限法」(「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律」)が施行されていますが、これは基本的に、プロバイダに対して、「ホームページを立ち上げている人のアドレスを教えてほしい」ということを被害者である人が申し入れをして、明らかに法律に抵触するような場合であれば、プロバイダはそれを開示するというものです。しかし、ほとんどの場合、プロバイダは発信者情報を開示をしないという事実があります。まして、インターネットを毎日のように使っていても、そのホームページがどこのサーバーを経由して、どのプロバイダを使っているのかがわかる人は、ほんとうに少数です。また、今回のようにすでにそのホームページが削除されていると、プロバイダは往々にして、「削除をしておりますので、私どもは今関係がございません」という対応です。したがって、作成者を特定するのは非常に困難を極めます。

 そのため、県連として検討した結果、3月14日付で、作成者氏名不詳のまま名誉毀損ということで、愛知県警捜査二課に告発をしました。差別事件で、私たち県連が刑事事件で告発をするということは、これまでの運動の歴史の中ではなかったことであります。本来、差別事件というものは、当事者ときちんと話し合いをして、どうしてそういった差別意識を形成したのかというのを話していきながら、最後には私たちと一緒になって、差別をなくす側に立ってもらうというのが基本であります。しかし、この作成者はインターネットの匿名性を非常に熟知しており、1人で差別ホームページを立ち上げている。こういったことをするということは、今までありませんでした。今後はこういった形態が出てくるのであろうということで、私たちは、警鐘という意味も含めて、告発に踏み切ったわけです。告発から4カ月後の先月、7月5日に、作成者と見られる名古屋市内在住の26歳の男性が逮捕されました。

 次に、この差別ホームページの具体的な中身についてお話をさせていただきます。ホームページの構成としては、「read me」「profile」「B-map」「BBS」という、4つの中身になっていました。

 「read me」というのは、「読んでください」という意味ですが、ここには「このサイトは管理人が自分で行った、主に愛知県の被差別部落の現状を写真と場所付で紹介しております。『注意』管理人は被差別部落民、部落解放同盟……などといった『基地外団体』とは一切関係がございません。……ただの暇つぶしであり、部落差別を助長するものではありません」と書かれていました。この部分だけをとっても、作成者の意識が表れていると思います。

 次に「B-map」ですが、これを開くと、愛知県の地図の中に被差別部落の存在する自治体の名前が記載されています。たとえば、その中の1つの地域をクリックしますと、「愛知県最恐B地区○○」というページが、詳細な地図とともに表示されます。そして「同和地区及び未解決部落への一般人の立ち入りは非常に危険です。被差別部落民は一般人に対して強い恨みと反感を持っています。同和地区及び未解決部落への侵入はすべて自己責任でお願いします。○○町同和地区は特にやばいです」というコメントが、「警告」というかたちで書かれています。他にも、地域にある工場を名指しで誹辞(ひぼう)中傷するようなコメントや、地域の肉屋さんの写真に「部落と言えば肉屋。肉屋と言えば部落」というコメントが書かれていました。また、私たちの支部の事務所の写真に、「ガクガク、ブルブル」というコメントをつけていました。

 作成者とみられる男性が逮捕された30分後ぐらいから、「2ちゃんねる」等の掲示板ではこの男性についてのさまざまな情報が流れました。自宅の住所が示され「今から彼の家に行こう」とか「彼を守ろう」、また「再度他のメンバーで部落へ行こう」という書き込みが増えていきました。この男性が掲示板の中で英雄視される動きも出てきて、「よくやったのに、逮捕されてしまってかわいそうだ」とか「激励に行こう」というような書き込みもありました。

 先ほど言いましたように、現在の「プロバイダ責任制限法」には限界があります。非常に問題点がたくさんあります。この事件は、告発をして犯人が逮捕されたからといって終わるわけではありませんし、削除されて今はないわけですけども、じゃあそれで果たしてほんとうにいいのかということであれば、まったくそうではないと思います。インターネットの性質上、複製が非常に簡単であり、彼が作ったページの一部が、誰かによって違うところに貼り付けられるということも、現実にたくさん起きております。したがって、このインターネットの差別は、非常に重要な問題であると考えていかなければならない。この事件の報告が、そのための1つの警鐘となればというふうに思っています。

きむらよしゆき