講座・講演録

部落問題・人権問題にかかわる講座情報、講演録を各カテゴリー毎にまとめました。

Home講座・講演録>本文
2009.02.19
講座・講演録
部落解放・人権入門2008(部落解放 増刊号 2008・592号)
第38回部落解放・人権夏期講座 より

課題別講演 部落問題入門1-2

インターネット上の部落差別事件
「部落地名リスト」全国版のインターネット上で流出について

松村元樹( (財)反差別・人権研究所みえ)


ネット上の差別事象をモニター

 財団法人「反差別・人権研究所みえ」は三重県津市の人権センターの2階にあります。2005年4月に設立されてから3年目をむかえているところです。私はそこで、三重県に関わるインターネット上の差別事象をモニターし、削除の要請を仕事として取り組んでおります。三重県内に関する差別的な書き込みがあった場合、三重県、関係市町、法務局と連携し、取り組みを進めております。

 また個人としては、ようやくマスコミで騒がれるようになってきました「学校裏サイト」問題について、私は「学校裏サイト」と呼んだことはありませんが、三重県内の中学・高校が並べられた携帯電話端末専用掲示板である「学校別掲示板」上での特定個人に対する誹詩中傷行為について、05年2月からモニターを携帯電話で行い、学校や教委と連携のもと、取り組んでおります。

 これから「『部落地名リスト』全国版のインターネット上での流出について」ということでお話をさせていただきますが、前提として、午前中に北口末広さんがご講演された「電子版『部落地名総鑑』」とはまったく関係のないものとして、お考えいただければと思います。

 先ほど北口さんのお話にありました電子版「部落地名総鑑」フロッピー版が36枚発見されたことが、2006年10月1日、メディアで大々的に報道されました。私も「これがインターネット上に流れてしまえば取り返しのつかない事態になるな」と感じながらモニターを進めていたところ、この報道をきっかけに「2ちゃんねる」掲示板の人権問題というジャンルの中に「部落地名総鑑フロッピー版を確認」というスレッドが立ち上げられました。ここにさまざまな書き込みがなされていく中で、10月22日、124番目の書き込みに「h」の抜けたURLが表示されており、そのURLに「h」をつけてアクセスし、パスワードを入力する者とテキストファイルで作成された「部落地名リスト」が発見されました。

「ふしあなトラップ」

 私は最初このことを知りませんでした。このスレッドが作成されたことは知っていましたが、「2ちゃんねる」は膨大であり、業務で15の掲示板をチェックするにあたって、当時「2ちゃんねる」上では「三重県のB」(三重県の部落という意味)というスレッドが作成されており、それをチェックしていたので、当然私自身も他の業務があるため、そこまで詳しくモニターできませんでした。そうすると、その「三重県のB」の書き込みの中に、「部落地名リストを作成しました」と「ふしあなトラップ」が作成されていました。10月20日に作成されたものです。「ふしあなトラップ」とは、簡単に言いますと、例えば今回のように「部落地名給鑑があります」と誘いをかけ、その誘いにのってしまった人に罠(わな)を仕掛け、その「ふしあな」に示された手順をふんでいくと、パソコンの情報が自動的に掲示板上に表示されてしまうというシステムです。「ふしあな」の存在は以前からすでに知っておりましたので、発見当初は放置をしておりましたが、「先日発見された電子版『部落地名総鑑』のデータが万が一、本当にアップされていたら」と脳裏をよぎり、危機管理として私はその「ふしあな」に入ったわけです。結果、そこに「部落地名総鑑」は存在せず、職場のLANの関係上、「三重県人権センター」の名前が「2ちゃんねる」上に表示されました。名前が表示されたことで多少なりとも「2ちゃんねる」上で騒がれるかもしれないが、それもすぐに消えていくだろうと私はまったく問題にしませんでした。「ふしあな」に「部落地名総鑑」がなくてよかったという思いでした。

発見から削除要請までの経過

 その2日後の10月22日の夕方、県外へ出ていた私は携帯電話にて、(社)三重県人権教育研究協議会の事務局の方から「部落地名リスト」が「2ちゃんねる」上で発見されたという連絡を受けました。最初に発見をしてくれたのは、三重県志摩市の教育委員会の事務局の方でした。その方がたも時折、掲示板上をチェックされており、その取り組みで発見できたわけです。内容は「部落地名総鑑フロッピー版を確認」というスレッドの124番目にある「h」の抜けたURLに「h」を入力してアクセスし、128番目にある「buraku」というパスワードを入力すれば、テキストファイルで作成された「部落地名リスト」が表示されるとのことでした。

 翌23日の月曜日、いつもより早く職場に着き、「部落地名リスト」を確認しダウンロードをして、データで保存をしました。そこで私と人権センターの担当者と協議をし、三重県生活部から全国人権・同和行政促進協議会へ連絡をして、そこから法務省へ削除の要請に動いてもらうようにし、人権センターからは「部落地名リスト」内に書かれている県内の市町へ連絡し、そこから各地の法務局へ削除の要請に動いてもらうように連絡、職場からは解放同盟三重県連合会へ連絡し、中央本部へ情報を提供してもらいました。

事実を歪曲されて

 そしてそのことが10月27日付で産経、毎日、読売新聞に取り上げられました。その記事の中に「『部落地名総鑑』と題した全国の地名一覧がインターネットのサイト『2ちゃんねる』 の掲示板に掲載された」と出たことで、この記事を見た人や「2ちゃんねる」の利用者が一斉に「部落地名総鑑」を検索するのですが、見つかるはずはありません。ダウンロードが必要なため、検索にはひっかかってこないのです。おそらく血眼になって探しても「部落地名総鑑」が出てこないので、記事中の「三重県人権センター」も含めて検索したところ、「2ちゃんねる」 の「三重県のB」に「ふしあなトラップ」によって表示された三重県人権センターの名前が出ていたことから、これを見た人たちが、「三重県人権センター職員はふしあなトラップにひっかかったことに腹を立て、存在しないはずの地名総鑑をあたかもあるかのように嘘をついた」と、事実を確かかることなく憶測でブログや掲示板などで一斉に流していきました。

 さらに連日の「同和バッシング」報道に迎合し、差別的な内容さえ書かれていくようになっていったわけです。

 これによって三重県人権センターに対する批判がネット上で飛び交い、関係者から「本当にあったのか」と問い合わせがあるたびに、「地名リストの存在は事実であり、データで保管している」と説明しなければなりませんでした。

「削除」ではなく「閲覧できなくなった」だけ

  この10月27日付の「部落地名リスト大量流出」の新聞記事では、「ネット上で37都道府県の430件分が発見され、すでに 『削除された』」と書かれていました。しかし実際のところ削除依頼はどこからも出されておらず、おそらく記事中の法務省が確認した24日から25日までの間に「閲覧できなくなった」というのが正しいと思います。この「地名リスト」がアップされたサイトは、サーバーなどの容量がそんなに大きくありません。そのさまざまなデータは分単位で更新され、古いものは次つぎと閲覧できなくなるというものでありました。つまり、この「部落地名リスト」のデータは、今なお存在し、おそらく私のようにダウンロードした人もいるでしょうし、これを誰が作成したかもわからず、いつ何どきネット上に再びアップされるのかわからない状況にあります。

 この430件の地名は、解放同盟中央本部の方によると被差別部落でない地名が3分の1含まれているということで、三重県の地名の書き込みにも被差別部落でない地名が一件ありました。パソコンやインターネットの知識に長(た)けていなくても簡単にダウンロードができ、簡単に複製もできるので、家庭のパソコンにデータとして所持している市民がいると思います。これまで一部の企業や興信所が所持していた「冊子」が、個人が「データ」で所持できる時代になったわけです。

 今回はいわゆる「偽物」が出回ってしまったわけですが、これを悪用しょうと思えばできることから、このデータを入手した市民が、「部落地名総鑑」という名前なので、すべてが部落だと認識して、この「地名リスト」に書かれた被差別部落でない地名に住んでいる青年なりが部落差別に遭う可能性は十分にあると思います。

 今日こういった機会をいただき、事実を歪曲され、ネット上で憶測によって書かれた記事が大々的に流されたことによって、「地名リストはなかった」と考えておられた方がこの場にいらっしゃれば、多少なりとご理解いただけたのではないかと思います。

ネット上の誤った情報への危惧

 今回の件でもそうですが、活字で報道されている内容、またインターネット上で流されている情報は、すべてが正しいとは言えない側面があります。

 私が最も危惧(きぐ)することは、わずか1桁(けた)や10代の子どもでさえ、世界中の情報を収集できる機器を買い与えられ、さまざまな情報を主体的に読み取っています。つまり、情報の正誤の判断を幼い子どもたちに委ねられているのです。またインターネット上で差別し放題の状況の中、中学校や高校などでも、これらネット上で歪曲された人権問題に関する情報に基づいた差別発言が生起しています。例えばフリー百科事典「ウィキペディア」に書かれている非常にいい加減な情報をすべて鵜呑みにし、差別事象も生起しているのです。

 愛知県、兵庫県のような(前項の報告参照)状況が起こる中で、やはり未然に防ぐことが大切であり、そのためには教育・啓発を強化していくべきであり、その取り組みも、インターネットという新たな状況で生じる差別に応じて見直されていくことも、求められていると思います。どうもご静聴ありがとうございました。