講座・講演録

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200910.30
講座・講演録

外国人労働者の今

早崎直美(すべての外国人労働者とその家族の人権を守る関西ネットワーク(RINK)事務局長)


はじめに

 RINK(すべての外国人労働者とその家族の人権を守る関西ネットワーク)は関西エリアの部落解放同盟や労働組合、弁護士グループ、外国人支援NGOなどで構成されたネットワーク組織です。私は中国語での相談活動を行っています。相談者は口コミで、北は青森から南は鹿児島まで広がっています。

 

日本の外国人労働者受け入れ政策

2007年、外国人登録者数に顕著な変化がありました。200万人を超える登録者の内、戦前の日本の植民地政策に由来する韓国・朝鮮籍者を抜いて、ニューカマーの多い中国籍者が第1位になりました。

日本にいる外国人には在留資格が必要とされ、日本政府はそれによって外国人の管理を行っています。また、政府は外国人が単純労働目的で入国、在留することを認めていませんが、これは建前で、実際は多くの外国人が単純労働に従事しています。

在留資格は「活動による在留資格」と「身分・地位による在留資格」の2つに大きく分かれています。前者は就労や留学・研修といった目的の在留資格で、認められた活動以外はできません。後者は日本人の配偶者や祖先に日本人がいることにより、日本政府が在留資格を認めているもので、この場合は単純労働を含め、どんな仕事に就くことも認めています。このように同じ外国人でも在留資格によって大きな違いがあるのです。

外国人研修生・技能実習生の相談事例から

研修・技能実習制度の目的は日本に来て技術を学ぶことですが、実際には単純労働に従事している例がたくさんあります。私が関わったケースで一番多いのが研修生・実習生からの相談です。

日本政府は1年目の研修生を労働者と認めていませんが、2~3年目の実習生は労働者として認めています。しかし、私が受けた相談で、3年間残業代200円というケースがありました。これは明らかに労働基準法違反です。私が会社に話し合いにいくと、まず「もともと200円でいいという話だったから、受け入れている」という返事が返ってきました。

確かに本人達は中国でその条件の契約にサインをしています。ところが日本に来てみると、これが法律違反だと分かります。しかし既に契約書にサインしているなど、本人達を縛る仕組みができているので、なかなか声を上げられないのが実態です。

日中双方に研修生受け入れに携わる機関があり、このルートを通じてしか研修生達は来日できません。研修生・実習生の条件はほとんどこの機関で決められます。日本円で約100万円、中国では数年分の給料にあたる金額の手数料を送り出し機関に払い、3年間働かないと保証金を返してもらえないなどの仕組みとなっていて、ほとんどの人が借金をして来ています。日本で3年間働けば、何とか借金を返してプラスアルファーの収入になるけれど、1年で辞めて帰ってしまうと借金が残る。だから、我慢するしかない、となってしまうのです。

なかには会社と受け入れ機関の人以外とは付き合わない、違反すれば中国に帰されると書かれた契約書にサインしていることもあります。また研修生達は会社の用意した寮以外に住めないのですが、工場の片隅にベッドを置いて寝泊りさせている会社もあります。

彼らは在留資格上も、3年間最初の受け入れ会社で働くことが義務付けられています。別の会社に移ることが簡単にできません。会社が倒産した場合などは例外的に移籍が認められますが、研修生受け入れ資格のある会社であることや、同じ職種に限定されるなどの条件があり、容易ではありません。

研修生たちから相談を受けると本当にひどい状況だと思いますが、本人達が人権を侵害されていると感じてもなかなか相談できない構造の中に置かれていること、そのことが一番問題だと思います。

専門職労働者の相談事例から

専門的な仕事に就くことを認められる在留資格があります。一番多いのは技術者で、需要が多いのはIT関係や機械工学といった分野です。他に人文知識、国際業務などの分野に就く場合も日本で働くことができます。

残念なことに、このような労働者も研修生と同じように、中国の斡旋機関に金を払い、日本の人材紹介会社を通じて派遣されている場合が多く、やはり中国で高額の手数料を払っています。技術者などの場合、入管局は同じ職種であれば会社を替わることを認めています。ところが斡旋機関が一つの会社に3年間勤め上げることを保証金返還の条件にしていたため、他に良い会社を見つけても転職できないといったケースがありました。自分たちを受け入れた派遣会社が派遣先を開拓できず、半年も日本にいたのに2万円しかもらえないまま解雇されたと相談に来られたIT技術者もいました。

日本政府はIT技術者をどんどん受け入れたいようですが、この分野でさえ蓋を開けてみたらこんな事例があるのです。これでは、日本の外国人の受け入れのあり方に大きな欠陥があるのではないかと考えてしまいます。

派遣切りの嵐のなかにある日系人労働者

ブラジルやペルー等の南米に加え、フィリピンからも日系人が来日しています。1989年に入管法の改定があり、日系人が日本人の配偶者等や定住者として来日できるようになり、現在は30万人くらいと言われています。日系人は就労に関して制限がなく、自由に仕事を探すことができますが、言葉の問題もあり、先に日本に来て安定している家族がいない人は、エージェントを通じて来ていることが多いようです。手数料は60万円程度で、給料からの天引きで返済している人が多いそうです。派遣社員として働く人が多く、日系人を専門に派遣する会社もあります。関西では滋賀県に多く、大きな工場で、グループで働いておられるようです。

彼らは今回の経済危機の影響をもろに被っていて、滋賀県国際交流協会が行った聞き取り調査では、1月の段階で4割の人が失業していました。雇用契約が3ヶ月更新で、失業保険の受給資格がない人も結構いて、解雇されても失業保険の受給を受けられません。もともと日系の人達は「出稼ぎ感覚」だったのかもしれませんが、日本は物価も高いために計画通りにお金が貯まらなかったり、母国も経済危機の影響を受けて、帰っても仕事がないため、結果的に日本に定住し、永住資格や日本国籍を取得される人もいます。失業のため親が子どもの学費を工面できず、子どもたちが通学できなくなって、各地にあるブラジル人学校の運営が危機になるなどの問題も出ています。

帰国支援金をめぐる問題

政府は日系人への帰国支援事業を2009年4月から実施しました。しかしこの制度で帰国した人は同じ定住者の資格での再入国を認めないという条件をつけたので、日系人だけでなく、ブラジル政府からも批判が出ました。日本側が労働力を必要とし、日系人が労働現場を支えてきたのに「帰国費用を出すから、もう来るな」ということなのでしょうか。結局、無期限から3年へと再入国が許可されない期間は短くなりましたが、あまりにも情けない政策です。これだけ景気が悪くて仕事もないのに、それでも新たに来る日系人もいます。斡旋業者は1人を斡旋するたびにお金が動くので、うまいことを言ってその気にさせているのでしょう。しかし日本に来ても仕事がないので借金だけが残ります。

受け入れ政策の転換を

日本政府の外国人受け入れに関する建前と現実には、開きがあります。もちろん、移民受け入れ策が完璧な国はありませんが、受け入れてからの外国人に対する制限は、少なければ少ないほど、その権利が守られやすいと思います。実際、研修生より技術者が、技術者よりも日系人の相談ケースが問題を解決しやすいのです。劣悪な労働条件で働かされているとき、その職場を自分の意思でかわれる自由があることは、労働者としての権利を守るための基本です。時給200円でも働きつづける労働者を抱えると、悪意のない経営者でも、その状態を当然と思うようになってしまいます。こういう仕組みがある限り、問題はなくなりません。

不人気だった経済連携制度(EPA)による受け入れ

 昨年8月に、国が進める経済連携制度(EPA)により、インドネシアから看護・介護労働者の第1陣が来た事は、マスコミでも大きく報道されました。インドネシアとフィリピンから2年間で各1000人を受け入れることになっていますが、実際には予定より大幅に人数が減りました。公的機関が斡旋するので本人達の金銭的な負担は大きくないのに、なぜでしょうか。日本側は、来日後6ヶ月は集中的に日本語研修を受け、4年以内で日本の看護師・介護士の国家試験に合格しなければならないという条件を出しています。日本語、しかも漢字はとても高いハードルでしょう。また自国で2年以上の看護師経験があるので言葉の問題を除けば、十分に看護師として働ける人達なのに、日本での資格は「看護助手」。給与も低くなりますし、看護師としてのキャリアが中断されることも、やる気を削いだのではないでしょうか。

出入国管理法等の改定の動きから

現在、入国管理法と住民基本台帳法が大きく変わろうとしています。衆議院を通過し、参議院で審議されています*。法律が変わると外国人登録がなくなり、戦前から日本にいる在日韓国・朝鮮人を中心とした特別永住者は、特別在留者証を持ち、旅行者のような短期滞在者を除く日本に住む外国人は、ICチップの入った在留カードを持つことになります。そして、ともに住民基本台帳に記載されることになります。これにより、国際結婚の家族関係は住民票だけで証明できるようになるでしょう。

一方で、これらの法律が成立すると、外国人の住所や勤務先、家族関係等の情報が法務省入国管理局で一元的に管理されるようになるのです。そのため、変更がある度に正しい情報を常に把握することが必要になり、外国人を雇っている企業や留学生のいる学校も、外国人の在留状況に変化があれば必ず報告しなければなりません。これはとても厳しい条件です。

管理が厳しくなるほど、管理される者は我慢することが増えます。誰であれ不当なことがあった場合、自分の権利の回復に動くことが大切ですから、それを押しとどめるようなものは少ない方が良いに決まっています。今でも足かせがあるのに、外国人に対する管理が厳しくなれば、彼らに対する人権侵害に拍車がかかるのではないでしょうか。

地域社会で共に生きる市民として

 日本は人種差別撤廃条約に加入していますが、日本政府は外国人に関しては在留資格の範囲の中でしか、権利の保障をしていません。最高裁でも判決が出ていて、それが大きなしばりになっています。日本は批准していませんが、世界的には「移住労働者の権利条約」が発効しています。外国人の入国に関する権限は国にありますが、一旦入国した外国人には平等に権利を保障することが国際基準です。

少子高齢化が進めば、日本の労働力は足りなくなります。自民党内にも「1千万人の移民が必要」と言った人がいるほどです。移民とは定住を視野に入れた呼び方ですが、「ずっと住みたい」と思えるような国にならないと、移民は増えません。そのためには外国人労働者のワークライフバランスやその家族の権利保障が必要なのです。

 今の日本政府には外国人との共生に関するビジョンがありません。しかし、どのような日本社会にしていくのか、社会のコンセンサスを作って行く時期に来ています。その際、現在日本に住む外国人にも参加してもらいながら、話し合っていくことが大切ではないでしょうか。

*7月8日、改正案は参議院で可決され、成立しました。