講座・講演録

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200910.30
講座・講演録

部落女性たちの現在(いま)
~部落解放同盟大阪府連合会女性部 実態調査から見えてきたもの~ 

鶴岡弘美(部落解放同盟大阪府連合会女性部事務局次長)


実態調査に取り組むきっかけ

1985年に日本政府は女性差別撤廃条約を批准しました。この条約の批准国政府は女性差別撤廃委員会に対して、定期的に女性差別撤廃に向けた国内状況を報告する義務があります。偶然にも明日ニューヨークで、委員会が6年ぶりに日本政府の条約の実施状況を審査します。これまでの審査において、委員会からマイノリティ女性の労働・健康・福祉・教育・暴力等の実態を調査・報告するよう勧告を受けてきた日本政府は、今日に至るまでそれらの実態調査を一切実施してきませんでした。

そのためNGOである反差別国際運動(IMADR)が中心となり、部落・在日コリアン・アイヌの三者による実態調査に向けた取り組みが2003年に立ち上がりました。そのうねりが部落解放同盟各都府県連にも大きな影響を与え、独自調査に向けた動きが起こりはじめました。

私たち大阪府連女性部も2007年から議論をはじめ、1年間の準備を経て2008年に大阪府連の取り組みとして実態調査を実施しました。部落女性の置かれている現実を実感としてではなく、データとしてしっかり把握することで部落差別・女性差別が現存している根拠を明確にしました。

調査の概要

今回の調査は15歳以上の大阪府内の部落女性を対象としました。対象者の数はおよそ4万人と推定されており、統計学上の抽出率を26分の1として、1000所帯・1500人票程度の把握を目標としました。 結果的には個人1314票、世帯票1173票ということで概ね目標の84%の回収率となり、十分信頼できるデータだと言えるでしょう。

データから見えてくること

部落外居住者と部落内居住者の違い

今回の調査で注目すべき点として、部落外居住者のデータも含まれていることが上げられます。その結果、部落内居住層と部落外居住層では、特に生活実態に大きな違いが見られました。

部落外居住層には比較的若年層が多く、核家族世帯の割合と持ち家所有の割合が高くなっています。世帯年収も700万~1000万円がピークとなっており、安定した層が多いと考えられます。逆に部落内居住層では高齢単身世帯が多く、年収も低く、公営の賃貸住宅居住の割合が高くなっています。

これは部落の若年安定層が部落外に流出し、部落内に高齢貧困層が留まるといった、これまでにも指摘されてきた傾向が反映されているようです。調査では全体の11%が生活保護の受給経験があり、その内25.8%が受給経験10年以上の長期受給となっています。このような生活保護受給者の多くが地区内に居住しており、地区内外の生活形態の違いはこの点からも明らかと言えるでしょう。

 

教育について

大学進学は少ないのですが、高校進学は1965年以降急速に上昇しています。高校進学率で見れば府下の女性と大差はなくなっています。恐らく1965年辺りから実施された解放奨学金制度が影響しているのでしょうが、卒業となると同水準とは言い難いようです。

読むことに不自由を感じている人が19.9%、書くことに不自由を感じている人が22.8%となっています。その中でも、20~40歳という若い層においても5~8%が読み書きに不自由を感じている点には大きな注意が必要でしょう。

子どもの進学については、女子は短大、男子は大学まで期待する意識が顕著に表れています。この意識は親本人の学歴、世帯収入との結びつきが強く、特に子どもが女子の場合、明らかに比例しています。

その他の点では自宅でのパソコン利用が33%しかなく、全国調査での68.5%の半分以下になっています。この数は世帯収入との関連が強く、年収400万円を境にして大きな差があるようです。また情報源に関しては、テレビや新聞が6割以上を占めています。しかし全国調査では年齢が上がるにつれて新聞を選択する率が上昇しているのに対して、本調査では50歳をピークにその割合は低下しています。高齢の方で読み書きに不自由を感じる率が高いことが垣間見えます。その反面、口コミによる情報交換は全国調査よりも盛んなようで、昔からの部落の伝達文化は今も根づいているようです。

年金について

国民年金加入者37%の内、13%が年金の支払を免除されています。年金の受給は国民年金44.9%、厚生年金44.2%、遺族年金20.2%、共済年金16.9%で、受給額はそれぞれの年金を平均すると25%が41,175円未満、50%が85,000円未満となっていますが、国民年金だけで見ると44%が20,000~60,000円未満という非常に厳しい現状となっています。

健康状態について

33%の人が何らかの慢性疾患を抱えていて、その率は加齢と共に増加し、80歳代では77.4%となっています。具体的には高血圧症、糖尿病、関節痛という、食生活に絡んで昔から部落に多いと言われてきた疾患が多いようです。健康診断を受けている人は74.8%で、受けていない人が23.5%なのですが、特に注目すべきは6.1%の人が保険証を持っていないことです。その8割にあたる生活保護受給者には医療保障がありますが、全体の1.1%にあたる人(調査対象者1314人中15人)が経済的理由等から保険証を持っていませんでした。また実際には障害があるのに障害者手帳を持っていない人が29.5%おり、障害の進行等による等級の更新を知らない人も5.6%いました。

介護について

8.4%が日常的に介護を担っており、50代では6人に1人が介護をしています。逆に自分が将来受けたい介護の形は「自宅で家族の介護と介護制度を受けて暮らしたい」というのが33.6%と飛び抜けています。この調査では家族の介護のみを望む人が非常に少ないのですが、これは周囲に迷惑を掛けたくないという女性特有の意識の現れではないでしょうか。男性を対象に調査を行えばまったく違う結果が出てくる気がします。

 

就労について

仕事に就いているすべての年齢層で府下の女性の労働力率を上回っていて、15~24歳では府の男性の値をも上回っています。これは調査対象者の学歴が低いことが影響しているのでしょう。また、25~29歳と40~44歳では府の男性とほぼ同程度の労働力率となっています。

特徴的なのは、女性の労働力率がM字型雇用のカーブを描いていない点です。一般的には学校卒業後、就職して雇用数は増えますが、30歳ぐらいから出産によって女性の雇用は急速に減少します。そして子どもの成長に合わせてまた仕事に就く人が増えるため、年齢別の女性の雇用グラフはアルファベットのMの形となります。しかし部落女性では30歳台で少し落ち込む程度の台形型を描いています。その理由としては世帯収入の不安定さを補う「働かざるを得ない」状況と、解放保育運動の成果として、0歳児保育を勝ち取ってきたこと等「働き続けられる」状況があると言えるでしょう。

収入面では50万円未満の低所得者が16.3%と府調査より7ポイント高く、300~400万円台も府調査より2~3ポイント高くなっていて、低所得と相対的な高所得とに二極化していることが明らかになりました。産業構成は「医療・福祉」が25%で最も高く、「公務」・「サービス業」が次に高くなっていて、府の女性に比べると「公務」の割合は15ポイント、「医療・福祉」も8ポイント高くなっています。しかし同時にパート・アルバイト、派遣、契約という非正規雇用は15~24歳で7割を超え、25~34歳でも6割に迫っています。その結果、府の女性と比べた非正規雇用率も10~25ポイント、65歳以上では31ポイント高くなっています。つまり中年層における雇用の相対的安定の一方で、若年層と高齢層における雇用の不安定さが明らかになったと言えるでしょう。

アイデンティティについて

調査対象者の29%の出生地が部落外で、3人に1人が地区外からの移住となります。自身を部落出身と思う人は60.6%、思わない人が26.3%、分からないと答えた人が7.2%で、これらの数字は部落内居住と部落外居住による差はほとんどありませんでした。部落差別の認識については結婚で7割、就職・恋愛で6割、日常生活で5割の人が差別を感じたという結果が出ています。部落差別の体験は15.6%の人が自ら体験しており、見聞きした人が11.2%います。ただ無回答や不明回答が2割弱あることにも注意が必要でしょう。

被差別体験は人間関係の多さからか、学歴が高いほど多くなっています。逆に若年ほど被差別体験・認識が減少していますが、これは生活経験の少ない若年ゆえの傾向か、実際に差別事象が減少しているのか、それとも差別を見抜く力の低下が原因なのかは今後の研究が必要でしょう。

結婚差別について

結婚を反対された経験がある人が33.2%、ない人が63.3%。結婚後にも配偶者や家族から差別的な行為・言動を受けた人が、結婚差別の体験のある人の14.4%にも上っています。結婚差別への対処は学歴別に特徴があり、高学歴層ほど相手を説得した割合が高く、低学歴層では「特に何もしなかった」割合が高くなっています。この点も先の若年層の被差別体験・認識の現象を研究する上で、参考になるでしょう。

学歴別の特徴は家族計画へも影響を及ぼしていて、子どもの人数・産む時期について61.4%が「成り行き」で「2人で決めた」が25.9%となっていますが、低学歴ほど「成り行き」が多くなっています。10代については100%が「成り行き」と答えており、性教育や性と生殖に関する権利の普及の重要性を感じます。

 

女性差別について

家庭内で女性差別について話し合うのは約3割で、年齢別では40~50歳代が比較的割合が高く、ここでも高学歴層の方が割合が高くなっています。また不合理な扱いを受けたことがあると回答した人が7.5%しかないのですが、1日辺りの平均家事労働時間は女性が262.4分であるのに対して、男性は57.3分という結果も出ています。更に支部活動や自治会活動で女性だけが担わされている仕事があるかという問いに対して、あると答えた人が13.9%、ないと答えた人が20.1%。わからないと答えた人が43.2%もおり、明らかに「ある」と感じている、私たち女性部の思いに対して、非常に歯がゆい結果が出てしまいました。

女性差別についてはパートナーによる暴力の経験を問う項目もあったのですが、これについては3割の人が無回答・不明となっており、回答すること自体が難しい項目だったということが今後の検討課題として明確になりました。

現在の部落女性と今後の課題

調査結果を受けて40~50歳代に安定した層が多い反面、高齢層と若年層に低学歴、不安定就労、低収入といった問題があること、あるいは部落・人権問題に対する認識や自己アイデンティティの希薄さや弱さがあることが明確になりました。ある時期、運動と法律によって奨学金、加配、子ども会活動、仕事保障等のシステムや制度を勝ち取ってきましたが、法律の打ち切りと共に部落の状況は以前の厳しさに逆戻りしていると思われます。

特に若年層の課題は大きく、低学歴化からくる不安定就労等の厳しさは更に拡大する懸念があります。これに対して運動体や人権文化センター等各地域での相談機能充実の取り組みが行われていますが、十分に活用されているとは言い難く、必要な人に必要な情報が確実に届くシステムの確立が急務です。

彼女たちは部落問題認識や人権意識も希薄になっていますが、差別の現実は厳しく存在しており、複雑化さえしています。自信を持って自分らしく生きるために差別を見抜く力、立ち向かう力をどう付けていくかが今後の大きな課題だといえるでしょう。それとともに地域や運動体においても女性差別を差別として見抜くために学習、意識化が重要です。

そのためにも、今回の調査結果を更に分析し、今後の運動につなげていきたいと思っています。

**女性部からアピール**

今回の結果を持って、7月22日、私達は大阪府の男女共同参画課と話し合いを行ってきました。大阪府では男女共同参画プランを策定していますが、そこにはマイノリティ女性の問題がまったく反映されていません。今回の調査結果を基に、行政としてマイノリティ女性に対する施策を具体的に盛り込むように要求しています。同時に、私達自身も部落女性の要求・実態白書を作成して、私達自身がやらなければならないことと、行政がやらなければならないことの整理をしていきたいと思っています。 

部落女性の生活実態は大変厳しいものです。その背景には部落差別だけではなく女性差別との複合差別があるわけですから、女性自身が声を上げなければ到底男性に届くはずもありません。私達も頑張っていきますので、今後もご協力をお願い致します。

より詳しい調査結果をご覧になりたい方に、お薦めします

「部落解放同盟大阪府連合会女性部調査報告書」

~部落女性のおかれている現実をデータで把握することは、
今後の部落解放と女性差別撤廃の指針となります~     

1冊 1,000円

連絡絡先 部落解放同盟大阪府連合会事務局(TEL06-6568-1621 FAX06-6568-0229)