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中小企業問題の国際比較研究という観点から部落産業の問題が提起された。
伝統的地場産業、例えば皮革靴産業が、日本では部落差別の結果、産業の二重構造の最底辺に置かれてきている。これは近代的な大企業によって、基盤の弱いハンディをもつ中小の地場産業の近代化が阻害されるという構造である。産業組織論としては、力の強い大企業を抑えて中小企業を育成するということが当然のことと考えられているが、これまで同和対策の枠組みの中でそれが一定行われていた。しかし、同和対策のあるなしにかかわらず、産業組織の改革、中小企業の育成は政策として行っていく必要がある。
また日本の大企業製品、自動車や家電などの輸出の増大によって、その見返りとして弱小な産業分野の市場開放が迫られ、産業の空洞化問題も生じている。皮革産業や食肉産業の輸入自由化はその事例であるが、これらの産業は研究開発の努力によって自由化に対応しうる産業に脱皮していこうとしている。文化生活を担っている重要産業の芽を摘まないように、行政は実りある支援をすべきである。
21世紀は共生の時代といわれている。しかし一方では、21世紀への「勝ち残り」ということがいわれ、「弱者」の切り捨てということが強調されている。これは中小企業論でいえば消極的な「残存(断層)論」である。共生、助け合いは、「競い合い、学び合い」でないといけない。中小・零細企業者の意識を高め、近代的な関係を構築していく必要がある。
部落産業の実態はまず質の面でみていかなければならない。量的に改善されたということが、実態の質的な面での改善につながっているかどうかが問題である。その意味では、大阪や奈良(桜井市)の部落産業の実態調査の結果をみても、質的な格差はまだまだ大きいといえる。しかし産業の振興にあたっては、実態の把握のみならず将来ビジョンにもとづいた成長のための対応策をもたなければならない。
国際競争力の強化、企業の組織化などの取り組みにあたっては、技術、そして情報・知識というソフトの面がマッチしていかなければならない。その意味で地場産業の実験工房や開発製品の展示・人材育成・ビデオ制作やビジョンの作成などに関連組合・指導団体・地方行政が積極的に支援しはじめているのは評価できる。