はじめに
本報告では、まず「同対審答申」40年にあたって再度答申を読み込み、活用できる点を紹介する。続いて、40年という時代の流れの中での限界と答申後新しく生起してきた問題点を整理して、その限界を補い今後の部落問題解決の足がかりとなるものを紹介、最後に今後の課題についての問題提起を行っていく。
答申の評価(1):「前文」「第一部 同和問題の認識」
- 同和問題解決の重要性を明確にし、その解決が国の責務であるとともに国民的課題であることを明記した。
- 部落差別が「身分差別」に起因する問題であることを明確にした。
- 近代社会の部落差別が、就職の機会均等が保障されておらず、主要な生産関係から疎外されてきたことを明らかにした。
- 同和問題解決の中心課題を、就職と教育の機会均等の完全保障と主要な産業の生産過程への導入にある点を明らかにした。
- 部落差別を支えている歴史的社会的根拠を指摘した。
- 部落問題が主観を超えた客観的事実に基づく問題であることを指摘するとともに、「寝た子を起こすな」論を否定した。
- 部落差別を存続させている社会体制を指摘した。
答申の評価(2)「第二部 同和対策の経過」
- それまでの同和対策が、同和地区住民の大衆運動に刺激されて対応されたものであったことを明らかにした。
- それまでの同和対策が総合性に欠けていることを指摘した。
- すべての行政組織が同和問題解決に取り組む態勢整備の必要性を指摘した。
- 同和行政は、地区住民と密接な関係の中から総合的かつ計画的に実施する必要性を指摘した。
答申の評価(3)「第三部 同和対策の具体案」
- 同和行政が日本国憲法に基づくものであり、部落差別が残存する限り積極的に推進されなければならないことを明らかにした。
- 同和対策が総合的かつ計画的に実施されるべきものであることを明らかにした。
- 同和対策の環境改善について、健康で文化的な生活を営む基盤であり、他の諸施策と相まって実施されるべきものであることを明らかにした。
- 同和地区における社会福祉について、その特殊性にかんがみた位置づけと、実効ある諸施策の実施を明らかにした。
- 同和問題の根本的解決をはかる中心的課題の一つとして、地区の経済的基盤確立の必要性を明らかにした。
- 同和地区の教育を高める施策の推進の必要性と、個人の尊厳を重んじ合理的精神を尊重する教育活動の必要性を明らかにした。
- 差別に対する法的規制、差別から保護するための立法措置、人権擁護機関の在り方を根本的に見直す必要性を明らかにした。
答申の評価(4)「結語」
- 国の政治課題として同和対策を位置づけ、同和対策としての行政施策の目標を正しく方向付けることの必要性を明確にした。
- 長期的な展望の下での総合計画策定と、具体的年次計画樹立の必要性を指摘した。
答申の問題点と時代的限界
答申では、(1)現在の部落差別の現状認識、(2)「特別措置法」失効後の部落差別撤廃の方向性、(3)国際的な差別撤廃の潮流、(4)地方分権時代の新たな動向、(5)他の差別や地区周辺地域との関連性、(6)人権尊重のまちづくり、(7)NGOやNPOの役割の増大等、といったことには触れられていない。
今後の課題
これからの部落差別撤廃に向けた課題について、以下の内容があげられる。
- 部落ごとの実態を明らかにして、要求白書を作成する。
- 人権尊重の社会づくりの制定と、条例にのっとった基本方針、基本計画、年次計画の策定等、総合的な施策の実施を求めていく。
- すべての自治体で「人権教育・啓発基本計画」の策定と年次報告の提出を求めていく。
- 国に対して、
- 部落差別撤廃を国政の重要課題に位置づける、
- 部落差別に対する法的規制、被害者救済の法的整備を行う
- 部落問題実態調査の実施と、審議会設置、総合機能をもったセクションの設置
- 人種差別撤廃条約を履行するための国内法整備を求めていく。
- 部落差別の解消を真の意味で国民的な課題として取り組んでいく。
- 戸籍制度を含めた部落差別を支えている歴史的社会的条件を変革していく。
- 民間運動団体やNPOの果たす役割を重視する。
(文責:松下 龍仁)
|