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2006.12.26
部会・研究会活動 <行財政部会>
 
行財政部会・調査部会 学習会報告
2006年09月11日
『2005年度鳥取県同和地区生活実態把握等調査』について

國歳 眞臣さん (鳥取大学名誉教授)

はじめに

  今回の報告時点ではまだ分析が完全に終わっておらず、10月中にまとまる予定である。したがって今日は、概要についてと、教育、就労と、そして結婚差別を中心に被差別体験についての報告をしていきたい。なお、今回の調査結果が大阪府等他府県で参考になると断言しにくい。なぜならば、混住率や結婚差別の現実、さらに県人口に対する被差別部落の人口の割合など鳥取県独特の被差別部落の状況があるからである。加えて、県民の部落問題に関する意識もこういった状況にあわせて特徴がある。

  ただし、部落問題の取り組み姿勢は他府県に比べて積極的に取り組まれてきている。この要因のひとつには運動団体が一本化されており、運動団体と行政との連携がうまく機能していたことと、県自体が安い地価の影響で住環境等のハード面の対策がやりやすかったこともある。

  同和教育についても積極的に取り組まれているが、今回の意識調査で「寝た子を起こすな」論が強くなってきており、とくに職業別の分析では「公務員・教員」にその傾向がみられた。これは特別措置法失効と関係しているようである。

  2002年2月、鳥取県が示した「今後の同和対策のあり方」は、?鳥取県ではいまだに部落差別が解消されていない、?今後は部落差別の実態をもとにした同和行政をすべきである、?その同和行政の手法としては、主は一般対策の活用でありながらも、特別対策と一般対策の両方の手法を活用する、?部落差別があるかぎり同和行政は今後とも積極的に推進していく、としている。そして、このために部落差別の実態について把握しなければならないということで今回の調査(生活実態調査と意識調査)が行われた。

2000年調査時点での部落の実態

  生活環境については、若干の格差はあるものの、ほぼ県平均との差はなくなっているが、「便所の水洗化率」や「公共下水道の普及率」等において、なお格差が大きい。また、「地域福祉」の面からは、とくに「家屋のバリアフリー化率」において相当な格差があるといえる。

  教育については、同和地区の「高等教育」への進学率は県平均よりかなり低く、同じく同和地区の高校生の「中退率」の高さも問題といえる。

  就労については、「15〜19歳」の就職率が県平均より高く、部落産業ともいえる「建設業」就業率が高い。雇用形態としては、「臨時雇・日雇」の比率が高く、安定した生活が保障されていない状況があること、等に教育状況が反映されていることが考えられる。

  世帯の経済状況については、「生活保護世帯」が全国の3.3倍もあり、その受給期間も長期化している。さらに、有業者の収入においても、格差が歴然としている。

  婚姻状況については、「同和地区外」との婚姻率は高くなっているが、具体的に個々の婚姻が憲法に保障されている「両性の合意」に基づいて、周囲から祝福されて成立しているかどうかの調査・分析が必要である。

  以上から、成果をあげてきているものの結果として差別は解消したといえず、差別実態が二極化ないし三極に分化し、年齢層別に、性別に、学歴別に、地域別に、「低位な状況の量的特有性」が残存しているといえる。

特別措置法失効後の被差別の実態(2005年度調査) 〜 教育・就労を中心に

地区の概況:地区数は前回(2000年調査)と同じで、人口は微減であるが、混住率は低くなっている。一世帯あたりの人数は県平均の2.8人に比べ3.3人と多い。なお、人口については、今回、老人を支えていく指数である老年化指数等の年齢構成指数をだしてみると、多くの問題点が明らかになってきた。すなわち、同和地区の方が県平均よりも、老年化指数が高く、老人を支える負担が高くなっており、高齢化社会の現実が部落に表れてきている。また、母子・父子世帯については、同和地区の方が県平均よりも高く、とくに母子世帯の問題が大きい。30歳代の転出者の問題について、年齢層別では「20〜24歳」「25〜29歳」の転出者が多く、これが年少人口指数が低い理由のひとつとして考えられる。

教育の状況:大学ならびに大学相当の学校への進学率はそれほど増えていない。今回の調査資料ではないが、2004年度の高校卒業者進学率をみると同和地区28.8%、県全体では39.9%と10ポイントほどの開きがある。卒業者の最後に卒業した学校別・年齢階層別世帯員数をみると、「短期大学」「大学」「大学院」では、「25〜29歳」が20.1%で「20〜24歳」は12.4%となっている。教育格差については、1975年以前と比較するとたしかに改善されているが、これは就労の取り組み等と関連しているが、とくに奨学金制度が大きい。

就労の状況:有業者の産業分類別就労状況について、2002年度の就業構造基本調査との比較になるが、同和地区の特徴は建設業就労が高いのと、製造業就労も増えてきている。製造業就労者は、女性の割合が高く県平均の3倍もあり、また、「常雇」ではなく「臨時雇」の割合が高い。鳥取県全体としてはこれまで第1次産業従事者が多かったが、現在は第3次産業従事者の方が多くなっているが、同和地区の場合は、第2次産業従事者が中心になっている。つまり地区では第2次産業化が進み、地区外では第3次産業化が進んでいる。また、第3次産業(サービス業)でも細かくみると、「教育・学習支援」「医療・福祉」の比率で明確な差がでている。

  性別・学歴別・産業分類別有業者数でみると、「建設業」では「小・中卒」「高校卒」の割合が高い。「建設業」と「製造業」についてさらに詳しくみると、男性の「建設業」就労では「15〜19歳」を除いて同和地区の男性の就労率が高く、女性の場合には県平均よりは高いもののそれほどの差はない。これは、同和地区の女性の就労先が製造業の比率が高いためであり、とくに2000年調査時には「15〜19歳」「20〜24歳」で県平均の方が高かったが今回の調査では逆転している。このように、鳥取県の場合には「建設業」「製造業」が第2次産業の中心であるが、そこに同和地区の若年者の就労が多くみられるのである。さらに、「卸売・小売業」の割合にも同和地区と県平均とに差がみられ、地区の場合にはその比率が低い。

  産業分類別・性別・収入別有業者について、「建設業」の場合、収入の中心は「200〜249万円」「150〜199万円」になっている。「公務」の場合には男女間に差がみられ、女性の場合、正職員ではなく臨時職の比率が高い。

  産業分類別従業員規模別勤め先状況については、「建設業」では45%が「1〜9人」であり、「10〜29人」を合わせると80.5%にもなる。また、現在の職へ就いたきっかけを「建設業」についてみると、「知人の紹介」「親・親戚の紹介」が高く、地区外の人が就労しない地区内の人が経営する建設業者に就職している。しかもこれは、教育の課題とも関連しており、中学・高校で勉強についていけない者がいてもなんとかなる就労先として地区内の人が経営する建設業者がなっている。

  有業者の職業分類別就労状況については、2000年調査では「専門的・技術的職業従事者」15.4%という数値は信用できないデータだったが、今回調査の数値8.9%はきちんとしたデータである。ここでは男性の「専門的・技術的職業従事者」の比率が低い。また、「技能工・採掘・製造・建設作業及び労務作業者」の比率も高く、とくに男性は半分を超えている。この「技能工・採掘・製造・建設作業及び労務作業者」について現在の職へ就いたきっかけをみると、「知人の紹介」「親・親戚の紹介」が非常に高い。さらに、第3次産業分野である「事務従事者」「販売従事者」「サービス職業従事者」の割合が県平均に比べて低い。

  有業者の就労生態については、「常顧」が増えてきているものの県平均に比べると低く、「臨時雇」、とくに女性の「臨時雇」の比率が高い。

  年齢階層別・性別・就労形態有業者数については、女性の場合ほとんどの年齢層で「臨時雇」が2割を占めている。

  産業分類別・性別・就労形態別有業者数の「建設業」について、男性の「常雇」は50.4%で女性の「常雇」は41.3%である。女性の場合、「製造業」「卸売・小売業」「飲食店、宿泊業」「教育・学習支援」「サービス業」「公務」等多くで「臨時雇」の比率が高い。また、「常雇」でも賃金形態は「日給月給」という回答がわりあい多くみられた。

  業種別事業経営、つまり同和地区の人がどのような事業を経営をしているかについて、「建設業」が49.0%で、ちなみに県平均は10%ほどである。

  世帯の収入額別世帯数については、日本全体では575万円を境にそれ以上の収入の階層の人の収入はここ3年増えてきているのに対して、それ以下の収入の階層の人の収入は減ってきている。つまり格差が広がってきており、格差社会が進行している。今回の調査で鳥取県の同和地区世帯の収入をみると、600万円以下の収入世帯は72.2%にもなっている。このことが生活保護の受給状況にも反映されており、生活保護率は19.7%で県平均は6.4%とおよそ3倍の数値である。

被差別体験にみる加差別の現実

 婚姻状況:配偶者の出生地別夫婦組数については、「夫婦の一方が同和地区外の生まれ」、「夫婦とも同和地区外の生まれ」の比率が少しずつ増えてきている。しかしながら、「夫婦の一方が同和地区外の生まれ」については1993年全国調査における全国平均36.6%に対して2005年調査で鳥取県の場合は30.8%と、全国と比べては低い数値である。これを詳しく年齢階層別、出生地別夫婦組数としてみると、「夫婦の一方が同和地区外の生まれ」は「25歳未満」(83.9%)、「25〜29歳」(74.8%)、「30〜34歳」(70.1%)と高い数値になっている。これをみると若い世代で地区外との結婚が増えてきているといえるが、祝福されて結婚しているかどうかは別の問題である。

配偶者の出生地別世帯について、「夫は地区、妻は地区外」と「夫は地区外、妻は地区」を比べてみると前者は22.5%で後者は10.2%と開きがある。このことは同和地区の女性にとってきびしい結婚差別の実態を示している。

身元調査肯定意識にみる加差別実態

 意識調査で、同和地区出身者の結婚状況について「同和地区出身であることが不利な条件になっていると思う」「もはや不利な条件になっていないと思う」「わからない」との問いに対して、「同和地区出身であることが不利な条件になっていると思う」との回答は1993年57.3%、2000年47.3%、2005年33.0%、と下がってきており、「もはや不利な条件になっていないと思う」との回答は1993年15.7%、2000年25.2%、2005年32.7%、とこちらは上がってきている。ただし、ここでの問題は、「わからない」が1993年25.8%、2000年26.9%、2005年33.1%と増えてきていることである。

 結婚相手の身元調査に対する調査については、いけないことだと「思う」12.0%、「どちらかといえばそう思う」22.8%、と身元調査はいけないと思っている人が少ない。他方で、就職の身元調査についてはの調査ではいけないと考えている人が多い。つまり、身元調査は差別であるという認識は理解しているが、結婚の際には仕方がないという考えがいまだに強いということである。

 「差別は犯罪である」という認識が低く、若い世代でさえ「そこまでは思わない」という認識である。これは公務員・教員についてもいえる。また、ある弁護士と同席の際、「結婚というのは両性の合意でしょう、結婚の自由があるでしょう」「結婚の自由があるのだから、部落の人を拒否することがあってもいいじゃないですか」と発言していた。婚姻の自由とは、両性の合意のみによって結婚できるということであって、身元調査を行い部落出身等の理由で拒否することもできるとはき違えた考えを持っている弁護士がいることに驚いてしまったが、同時に鳥取県民の意識のなかにこういった考え方が強い。

被差別体験の実態

 被差別体験有無の状況については、今回の調査で初めての項目であるが、複数回答で「5年以内」「6〜10年以内」「11年以上前」「不明」「被差別体験無」で尋ねた。被差別体験有は28.9%で、そのうち「5年以内」が20.3%、「6〜10年以内」が16.7%、「11年以上前」が62.0%であった。

 「5年以内」の回答を被差別体験の対応方法(5年以内)・年齢階層別(複数回答)としてみると、「黙って我慢した」(全体39.7%)が多かった。また、相談相手では、「弁護士」(全体0.3%)「法務局・人権擁護相談委員に相談」(全体0.4%)に相談せず「身近な人に相談」(全体35.7%)への相談が多い。

 また、「5年以内」の回答を年齢階層別被差別体験の内容(複数回答)としてみると、「15〜19歳」では「学校生活」で117人のうち86.3%が被差別体験をしている。「25〜29歳」では「結婚」で97人のうち47.4%、「職場や職業上のつき合い」で25.8%が被差別体験をしている。40歳以上になると「日常の地域生活」での被差別体験が多くなっている。

 10年以内に結婚した人で、結婚時の反対の有無と反対の内容についてみると、「反対有」が21.9%、「反対無」が78.1%であった。「反対有」の内訳は、「結婚話のときに反対」94.9%、「結婚式への出席拒否」17.1%、「結婚後の付き合いの拒否」11.1%であった(複数回答)。さらに結婚後、現在の付き合いの有無についてみると、「現在も付き合いは無い」22.5%、「結婚時は反対されたが、現在は付き合いはある」74.9%である。

(文責:松下 龍仁)