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2007.06.12
部会・研究会活動 <行財政部会>
 
行財政部会 学習会報告
2007年04月23日
同和地区における保育所の民営化について
-大阪府和泉市の事例

田中 正人(社会福祉法人和泉幸生会理事長)

はじめに - 公営(市営)から民営へ和泉市で第1号

  同和保育推進園である幸保育園は、2004年3月まで和泉市が運営していたが、同年4月から社会福祉法人和泉幸生会が経営を引継ぎ民間経営へとなった。施設は、平屋建てで入所定員数120名、従業者数は36名である。

1.民営化までの経緯

  和泉市では2004年度より公立2カ園を民営化にという提案が行政より出され、その一つに幸保育園も含まれていた。それまで、同和保育の運動は「部落問題解決は国の責務である」という同対審答申の考えに基いて公立によって運営されてきており、民営化についてはすぐには受け入れられるものではなかった。しかし、状況的に同和地区内の3園をそのまま公営として存続させていくことが困難であり、それならば同和保育の実践に熱意を持っている自分たちが経営者として手を挙げていこうと、地域や保護者と1年ほどの論議を重ねたのち、民営化の受け入れを決めて和泉幸生会運営の保育園となった。

2.保育条件、保育内容

 一般的には、午前7時から午後7時までの1日12時間保育であるが、幸保育園では午後8時までの13時間保育としている。さらに、障害児保育や病後児保育(乳幼児健康支援デイサービス)、一時保育なども行っている。このような保育についての多様なニーズに応えるためには、本来、公がまず見本を示すべきであるが手続き等手間がかかるのが実情で、民の場合には見合った補助金さえあればやろうというすばやい対応ができる。また、保育内容については、保護者からの要望として公立運営当時の基本的には内容を引き継いでいる。

3.公営と民営の特色

 同和保育の運動に関わってきた経験と、実際に民営として経営に携わっている経験から、公営の場合には、子どもの日常生活の発達支援を重視する傾向の一方、民営の場合には、保護者に対して「見せる」保育を重視している傾向があるように感じられる。幸保育園では、「両方のいいところ」を目標として取り組んでいる。具体的には、5歳児保育の太鼓であり、地域の盆踊りへの参加などである。さらに、プールを安心して楽しめるように巻き取り式のUVネットを取り付けたり、宿泊保育の復活等も行っている。

 また、公立園としての50年の歴史を持つ幸保育園には、地域のさまざまな機関や人びととのつながりという貴重な財産もあり、現在でも、地域内の2ヶ所の公立保育園、1幼稚園との連携・交流や学校・学童保育との連携など、それまで取り組まれてきた重要な取り組みも継続して行っている。

4.いくつかの課題

 民営化による地域への定着化というメリットのある反面、課題もいくつかある。

 まず、ベテラン保育士の育成・助成の問題がある。経営という視点からみると、公と民との差はほとんど人件費の違いとして現れており、大きな課題になっている。さらに、幸保育園は同和地区内にあり、同和地区との交流については保護者だけではなく、保育士の理解が重要となってくる。研修としては、大阪府社会福祉協議会やちゃいるどネット等の研修に参加しているが、他の人権研修などはなかなか難しい状況にある。財源確保については、自主財源はおおむね寄付に頼ることになり、新規の自主事業は現行事業に影響を与えてはいけないことになっている。また、外部評価システムはまだ導入しておらず、子どもをめぐる父母のトラブルへの対応の際の苦労などもある。

(文責:松下 龍仁)