はじめに
2006年11月29日、大阪市は「地対財特法期限後の関連事業等の総点検調査結果に基づく事業等の見直し等について(方針)」を確定、公表したが、その内容は8月31日の「地対財特法期限後の事業等の調査・監理委員会まとめ」ならびに10月10日の「地対財特法期限後の関連事業等の総点検調査結果に基づく事業等の見直し等について(方針案)」を踏襲したものであり、それらに対する労働組合や市民団体等からの要望・要請にいささかも対応したものとなっていなかった。
私たちは今回の一連の事業見直しの動向に対して大きく2点について批判している。ひとつは、事業見直しの手続きがきわめて非民主主義的であり、もう一つは、地対財特法後に対応した一般施策を活用した新たな施策までもの否定である。
1.「方針」確定の手続きに対する問題点
第1に、調査・監理委員会の性格の不明確さがある。市会の承認を必要としない要綱によって設置され、外部委員と内部委員による委員会構成のため、行政内部の施策検討委員会なのか行政に対して専門的見地等から意見具申をおこなう外部委員会なのかが明確でない。さらに、人選についても、人権施策に精通している学識経験者が1人も外部委員として委嘱されていない。
第2には、政策課題について具体的課題を列挙しその解消を図るという方向性まで述べながら、何について調査・監理委員会に検討を付託するのかが不明である。
これでは市長の意向に沿った結論をまとめるために設置された委員会としかいいようがなく、あわせてこの問題に対するマスコミの対応についても疑問を感じている。
2.新たな施策まで含まれている「政策的課題の解消」
大阪市職員労働組合では8月31日の「まとめ」に対する見解を9月28日に公表するとともに、10月8日に市長宛ての要望書を提出した。ここには、「政策的課題の解消」における東淀川区内の人権文化センター3館統合問題、青少年会館の条例廃止問題、同和地区保育所の人権関連事業担当保育士の廃止問題等も含まれているが、これらの事業は法期限後の同和行政のあり方を示した2001年10月30日の大阪市同和対策推進協議会「大阪市における今後の同和行政のあり方について(意見具申)」に則って実施されていた事業である。総点検の必要性は理解するが、法的根拠を失っているにもかかわらず継続されていた事業と、法期限切れを踏まえて一般施策による対応とした事業とは峻別して検討されるべきである。
人権施策を十把ひとからげに論じて、廃止や解消を基調に見直し、しかもこれに異議が唱えられても話し合いすらもたないという姿勢は誠実な対応ではない。
3.同和対策一般施策化の基本的考え方
一般施策の展開のなかで新しい人権・同和行政を確立する際の基本的な考え方は大きく3つある。第1は、対象の一般化であり、地区内保育所の地区外乳幼児の入所受け入れや地区内施設の地区外住民への開放である。第2は、基準の一般化であり、保育士の配置基準や保育料の同水準化である。そして第3は、同和対策事業として取り組まれていた事業のなかの先進的事業の全市的展開であり、一般化して充実した人権施策にすることである。
この基本的な考え方は、大阪市同和対策推進協議会「大阪市における今後の同和行政のあり方について(意見具申)」(2001年10月)に集約されていた。
4.新しい課題と問題意識
このような一般施策化による人権・同和行政確立の取り組みは、以下のような新しい課題と問題意識を提供してくれている。
第1に、対象の一般化によって、地区外住民とりわけ周辺地域住民の課題がみえるようになり、これらの課題が部落問題および部落問題の周辺問題としてではなく、人権行政が本来対応すべき課題としてとらえ得る視点が形成されたこと。第2に、そう考えた場合、部落解放運動やそれが根づいた地域それ自体が人権を守る社会資源として機能し得るという再発見ができること。そして第3に、差別との闘いのなかで獲得した反差別・人権擁護のネットワークをもつ被差別部落が、他のさまざまな人権問題解決に資する社会資源として機能することにこそ、今後の部落差別解消の展望がみえてくるということ。これらをまとめて、人権重視のまちづくり・ひとづくりとしての人権・同和行政構想が求められてきている。
(文責:松下 龍仁)
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