1.はじめに
指定管理者の適用事例が増えてきているが、指定管理者制度のバックとなっているのはニュー・パブリック・マネジメント(NPM)である。NPMの基本原理は、1980年代に導入されたCCT(強制競争入札制度)が引き金になっている。日本におけるNPMの問題点は、成果主義をいいながら、現場では経費削減とサービスの量と質を増やすという2つの面のみにとどまっている傾向が指摘できる。
指定管理者制度においては、市場原理を導入できる要素が限定されるべきである。限定される対象はほとんど社会開発型投資事業である。例えば、社会的正義の確立、公平性の担保、あるいは社会の安全性確保などにつながる、人権、平和などの分野である。
2.指定管理者制度導入における全国的傾向と問題点
指定管理者制度の運用・適用の問題点は、あまりにも単純な顧客満足志向によって選定をおこなわれていること、外部の団体へ委託、管理委任するにあたり選定基準が公表されない、選定委員選出基準が曖昧、選定基準そのものが外部に公開されていない、などがある。
当初、選定基準は、1.公平性、2.効用最大化、3.経済性、4.安定性であった。ここで「効用の最大性」という言葉を「効率性の上昇」ととらえた自治体が大半だった。例えば、施設の「効用」というのは、施設のもっている使命、社会的な効果、有効性、これらの最大化のことであり、それらを最大発揮できる団体に任せるべきではないだろうか。
3.社会資本形成の視点
社会資本概念は、ハードウェア、ソフトウェアに加えてヒューマンウェアがあるが、この視点から指定管理者を選定してすべきである。使命を明らかにする、目標を設定する、その目標を設定するために複数の施策を組み合わせていくのである。
評価軸でいうと、経営政策のうちの政策、目標、有効性の部分が政策評価であり、計画及び実行は事務事業評価であるが、この有効性評価を入れた政策評価がきちんと実施できている自治体は数えるほどである。「有効性」とは、価値、正義、公平性、安全性、人権、自立、自治能力強化等、さまざまな公益価値に多元的にまたがっているので、ここの部分を明確に特定しておかないと評価のしようがない。反面、「経済価値」というのは経済性、効率性だけであり、非常にやりやすい。
4.指定管理者制度導入に当たっての判断軸
- 単純な反復サービス、単純供給型の施設なのか、社会開発あるいは特定カテゴリーの市民を支援するため、あるいは研究のためのなど政策的事業主体でもあるインスティチュート(政策的事業主体)なのか。
- 施設の機能、事業における専門性の有無。
- 施設規模と立地条件。
- 指定管理者にたりうる団体の存否、分布。
- 雇用の安定化、さらに社会資本形成につながっていく運用。
この5点の中でもとくに、社会的開発使命をもっている施設の場合には団体適格性の審査が必要である。例えば、男女共同参画センターの指定管理者の場合、女性の正規雇用率や管理職率、当該自治体における男女共同参画条例の遵守などで、フィルタリングされるべきである。
指定管理者審査基準については、1.応募団体の概要も審査点数の対象にする、2.運営上の基本方針について、総合的な基本方針と達成目標の明確化を求める、3.施設の管理運営体制と組織、業務に関する計画では安定性を問うているが、この安定性の中には高齢者、障害者等への雇用配慮や、正規雇用についての比重を重くする、4.利用者へのサービス提供計画は、単純反復サービス型の貸館事業と、社会開発型の自主事業の二つに分けて審査し、自主事業部分ガ多少赤字であっても、収益事業での補填等、経営能力を聞く、5.収支予算については4.と関連して、最低制限価格を持つべきである。
5.残されている問題点
指定管理者制度は競争入札の義務がなく、法律上違反にはならない。
また、随意指定であれ、公募選定であれ、説明責任が果たせるような透明性が必要である。例えば、選定委員会をつくる場合、委員の選定基準や選定基準の公開は当然のことである。なお、選定基準が非公開であったり、選定委員のうち行政側、すなわち内部委員が多数を占めるならば、これは選定に値しないといえる。内部委員が少数ならば行政の監察力、これまでの経緯などが選定参考上、有用になることもあるので否定はできない。逆に完全な外部委員という問題があるかもしれない。
複数年の指定管理契約における債務負担行為の問題もある。最近は債務負担行為を起こす自治体も1割ほど出てきているが、いまだにおこしていないのに複数年契約をしているということは、ある意味で民間事業者(受託事業者)に負担をかけているのだという自覚をもたなければならない。
(文責:松下 龍仁)
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