調査研究

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女性部会・学習会報告
1998年4月4日
『部落出身』であると同時に『女性』であること
―2人の被差別部落女性の口述生活史より―


(報告)玉井真理子(大阪大学大学院生)


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 大阪府内の被差別部落に住む2人の女性の生活史の聞き取り調査に基づいて、部落差別と女性差別の関係性をどう捉えるのかというテーマで報告していただいた(通信235号・3月文献紹介を参照)。報告の要旨は次の通り。

 調査の目的は、被差別者の経験に基礎付けられた理論の構築、被差別問題の複合性を捉えることであり、調査の特徴は複数回にわたって聞き取りを行ったこと、原稿化にあたっては本人にフィードバックをして内容の確認を行ったことである。

 近年のアメリカにおける状況を見ると、従来のフェミニズムが周縁化された女性(下層階層、非白人、ホモセクシュアルなどの女性)を無視してきたと批判されたという現実を教訓として、多様な社会的立場の女性、とりわけ周縁化された女性の生活世界に生起する問題を視野におさめる必要がある。


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 被差別部落の女性は、「女性」の部落出身者であると同時に、「部落出身」の女性である。つまり、被差別部落という周縁化された集団において、「男性」に対する「女性」として周縁化される一方、女性という周縁化された集団の中において「一般」に対する「部落出身」として周縁化される。そうした女性たちの人生にいかなる問題が生起するのかについて分析した。

 聞き取り調査をしたなつみさん(仮名)の場合は、結婚差別をきっかけにして「部落出身」であることを知る。そのために、看護学校に通学しながら住み込みでいた歯科医院を辞めてしまう。反対された結婚は彼女が自分の家族とのつきあいを切るという約束で許される。結婚生活は専業主婦としての生活だったが、夫の事業の失敗で夫が失踪してしまい、生活のために子どもを連れて産まれた部落に戻る。

 玉井さんは彼女の生活史を分析する中で、なつみさんは専業主婦として夫に経済的に依存する関係だったが、「部落出身」であるため経済的に自立しようとする意欲を奪われたという背景の元に、その女性差別性を認識されていなかった。また、結婚に際しては部落の女性は一般地区の男性と結婚すれば、部落差別から逃げることができると考えそのとおりに実行する。ここでは「女性」であることによる部落差別の隠蔽をみることができる。


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 もう1人の調査対象のかづえさんは、被差別部落に生まれ、別の部落の男性と結婚してそこに暮らすようになる。夫は花屋で彼女は3人の子どもを育てながら家業を手伝う。

 しかし、夫は「封建的で」彼女は夫の女性蔑視と日常生活を統制(解放運動に出させてもらえない、など)のなかで苦労する。後にパートに出るようになって夫との関係にも変化が見られるようになる。

 彼女の生活を見ると「部落出身」として解放運動に参加しようとしても、夫から一方的に「女性」という属性で括られて、「部落出身」として行動する自由を制限される。これを、「女性」であることによる「部落出身」の無徴化とみる。

 さらに、本来部落差別に対して共に闘う立場にあるはずの夫から逆に女性として差別されるという問題が指摘される。

 彼女の生活を見ると、部落の女性の経済的自立の困難さゆえ、夫に経済的に依存せねばならぬ場合、夫による女性差別の現実が一層深刻になる。

 この2人の生活史を分析することによって、「部落出身」あるいは「女性」の被差別属性の問題は相互に影響を及ぼし、従来それぞれにいわれてきた被差別の問題が変容したり、より強化されたりすることが分かる。従って、「出身」や性別にとどまらず、階層、人種、性的志向性など他の被差別属性の問題が、相互にいかなる影響を及ぼしているかを考察し、問題を複合的にとらえねばならない。

(西村寿子)