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1. まず、大賀喜子さんから「奈良硫酸結婚事件の追跡をして」と題して報告を受けた。硫酸事件とは1954年に中学校の教師であったAさん(被差別部落出身、女性)がB(中学校教師、男性)と結婚を前提に交際しながら、旧家であるBの一家の猛反対にあい、BはAさんと交際を続けながら親の進めで別の女性と結婚。最後の話し合いの折に自分の自殺用に持参した硫酸をBにかけて、事件となった。
当時、マスコミは非常に猟奇的な事件として取り上げたこと。解放運動も時代の制約のなかで行政糾弾という方向性が強く打ち出された結果、当事者の聞き取りや当事者の気持ちをどうするのかという観点が弱かったことから、真相はいまだに十分に明らかにされていない。大賀さんは、当事者のAさんの聞き取り、Bの追跡調査の結果について報告された(ただ、Aさんの固い意志でその詳細は公にはされていない)。
2. 追跡の結果分かることは、1)当事者2人とも部落問題の正確な知識を持っていなかったこと、2)「差別の厳しさ」を認識せず「愛情」で解決できると安易に考えていたこと、3)2人の「愛情」に立ちはだかる「家制度」「家意識」の認識、それへの対策が取れなかったことである。さらに、Bの行動を見ても根底に女性を性の対象、子どもを産む対象とする根強い女性蔑視、女性差別の思想がある。また、差別を受けたAさん自身も真相を明らかにしたいと希望しながら「叔父」「弟」などの「家意識」にはばまれて実現できず、失意の人生を送ることになった。
3. また、『全国のあいつぐ結婚差別事件』(部落解放同盟中央本部編)1983年版から1997年版をみると、結婚差別事件として58件が報告されている。
このうち、結婚差別事件が43件、問いあわせが12件である。43件の結婚差別事件中「結婚」できたのは、7件。「結婚」できなかったのは36件である。
結婚差別事件の当事者は[男性(部落出身)・女性(地区外)17件][女性(部落出身)・男性(地区外)28件]。結婚差別の結果、離婚、自殺、自殺未遂、相手が悲観して病死、妊娠中絶など悲惨な結果がおきている。
報告されている事例は「事件」になったケースだけで、まさに氷山の一角であるが、それでも、女性が出身者である場合に一層負担がかかっていること、差別者に公務員・教職員が多い(15人)ことなどが分かる。
4. コメンテーターとして井桁碧さんから、その社会の「結婚」は生物学的に自然な文化的ルール、制度として認識されて、変えることができるとなかなか認識されにくいが、文化的、歴史的に比較してみると改変は不可能ではないことが分かる。
重要なことは、結婚差別を論じるときに結婚という差別を内包する制度を視野に入れる必要があるのではないか。日本国憲法第14条に「婚姻は両性の合意のみにおいて成立する」とあるが、その条文を実現し得ていないのは何ゆえか、またその合意の中味自体に日本社会の抱えている差別を内包していないか。
日本社会のなかで、女性が政治的・社会的・経済的・文化的にどのような位置に置かれているのかという視野で結婚差別と結婚という制度を論じる必要性がありはしないか。
5. 報告とコメントをめぐって活発な討論が行われたが、紙幅の関係で割愛する。ただ、高校生の結婚願望−結婚=幸福な人生(地区内も含めて)という意識やそれを助長するテレビドラマ、結婚差別を受けるが結婚できてハッピーエンドという啓発映画なども視野に入れて論じる必要があることが確認された。