調査研究

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2007.9.20
部会・研究会活動 <女性部会>
 
女性部会・学習会報告
2007年8月10日

ジェンダーからみる憲法 戸籍法と家制度

養父 知美(弁護士・研究所理事)

 憲法「改正」の動きと連動して、ジェンダーバッシングの動きがあるが、その根拠となっている家制度と戸籍法は、どのようなものなのか、養父弁護士に解説いただいた。

1.家制度

 1898年(明治31年)明治民法施行に伴い戸籍法の改正が行われた。
 家制度(いえせいど)とは、明治民法に採用された家族制度であり、親族関係のある者のうち更に狭い範囲の者を、戸主の家族として一つの家に属させ、戸主に家の統率権限を与えていた制度である。

 家は、戸主と家族から構成される。戸主は家の統率者であり、家族は家を構成する者のうち戸主でない者をいう。

 一つの家は一つの戸籍に登録される。つまり、同じ家に属するか否かの証明は、その家の戸籍に記載されている者であるか否かにより行われた。このことから、民法の条文の「父ノ家ニ入ル」「家ヲ去リタル」という(当時の)表現は、戸籍の面からは、それぞれ「父の家の戸籍に入籍する」「家の戸籍から除籍された」ことを意味する。なお、1947年(昭和22年)法律第224号戸籍法では、孫を養子にしない限り三代以上の親族が同一戸籍に記載されない制度になっている(三代戸籍の禁止)が、家制度においては家の構成員は二代に限られなかったので、戸籍上も制約はなかった。

 戸主は、家の統率者としての身分を持つ者であり戸籍上は筆頭に記載された。このため、戸籍の特定は戸主の氏名と本籍で行われることになる。戸主は、家の統率者として家族に対する扶養義務を負う(ただし、配偶者、直系卑属、直系尊属による扶養義務のほうが優先)ほか、主に以下のような権能(戸主権)を有していた。

  • 家族の婚姻・養子縁組に対する同意権、家族の入籍又は去家に対する同意権(ただし、法律上当然に入籍・除籍が生じる場合を除く)(750条)
  • 家族の居所指定権 、家族が戸主の同意なしに居所を定めた場合や婚姻・養子縁組した場合における、家籍排除権 (749条)

 戸主の地位は、戸主の財産権とともに家督相続という制度により承継される。相続の一形態であるが、戸主の死亡を前提とした制度ではなく、死亡以外にも隠居、国籍喪失なども相続開始原因とされていた。また、家の統率者としての地位の承継を含むので、遺産相続と異なり常に単独相続である。家督相続人(新戸主)となる者は、旧戸主と同じ家に属する者(家族)の中から、男女・嫡出子庶子・長幼の順で決められた上位の者、被相続人(旧戸主)により指定された者、旧戸主の父母や親族会により選定された者などの順位で決めることになっていたが、通常は長男が家督相続人として戸主の地位を承継した。

 男尊女卑:財産の管理は、夫が為す。また、妻の姦通は離婚原因になるが、夫は姦通罪で有罪となった場合のみ離婚原因となるなど男優位の規定であった。
 また、婚姻内の子と婚姻外の子に差別を設けた規定もあった。

2.家制度が奪う人権

 上記の民法に基づく家意識によって家柄、家名、血筋などの差別が行われた。戸主による支配と監視の下に結婚や居住の自由が侵害された。(部落差別にもとづく結婚差別など)また、男性による女性の支配が法律で制度化されていた。これらの意識は、制度的には、無くなった現在も人びとの意識の中に存在している。

3.憲法24条と家制度の廃止

 法制度的には、民法の改正と憲法24条の規定によって家制度は、廃止された。

4.戸籍制度

 明治維新以後、日本が近代帝国主義国家として生き延びるために、国民を管理(徴兵・徴税)する目的で設置したものである。日本で最初の近代的、全国的戸籍は、1871年壬申戸籍法である。1872年壬申戸籍の作成開始が行われたが、被差別部落の呼称(新平民)を記載し、部落差別を制度化した。

 戸籍制度の目的は、相続、納税、年金、婚姻、福祉、旅券発行などの手続きを迅速かつ確実に行うために用いられる。また住民票を一元化して管理する目的もある。 日本において戸籍(こせき)制度とは、住民登録制度とともに、日本政府によって国民を管理する制度である。また、住民基本台帳制度との連携により、戸籍の附票を見れば以後の転居の履歴が判明するため、ストーカーやDV・児童虐待の加害者が目標を追跡するとき、身元調査を行おうとするとき、目的を偽って戸籍の附票を取得すれば、現住所が突き止められてしまったり、本籍をあばかれるという問題を抱えている。

 依然として結婚・就職時などには被差別部落出身者や婚外子、父子家庭、母子家庭への偏見があり、本籍地や家族構成などの情報は個人情報保護の観点からも守られるべきである。就職時には各社の独自用紙ではなく統一応募用紙を使用する運動を展開してきている。さらに婚姻手続きをしていない女性が産んだ子は婚外子とされ、婚内子に比べて相続分が不利になる、就職や縁談の際も偏見を持って見られることがあるため、婚外子差別問題として闘われている。

5.家意識と戸籍制度

 民法の改正により1.三世代戸籍の禁止、2.戸主の廃止、3.家の氏から夫婦の氏へ夫婦同姓が実現した。しかし、現在も戸籍筆頭者が亡くなった後も妻の名前は、そこに掲載されないで、死亡した夫の名前が掲載されたままになっている。また、圧倒的に夫の氏を名乗っている。現行制度では外国人と結婚しない限り夫婦別姓が不可能なため、結婚すると今まで公的に使い続けていた苗字が変わって不便な思いをする人もいる。そのため、旧姓の書類が必要になる度にぺーパー離婚をする場合もある。このように今日現在も家意識を完全に撤廃する戸籍制度ではない。

6.戸籍制度とプライバシー

 2007年5月11日 戸籍法改正法が公布された。
 戸籍法10条の改正である。これまで、第10条第1項にあった戸籍公開原則の宣言ともいえる「何人でも」という言葉が削られ、戸籍を請求できる者が「戸籍に記載されている者又はその配偶者、直系尊属若しくは直系卑属」に限られることになった。これは、2004年12月に発覚した行政書士による一連の戸籍・住民票の大量不正取得とこうした身元調査による人権侵害が二度と起きないよう、戸籍・住民票に対する部落解放同盟を中心とした全国的な取り組みが進んだことを受けて行われたものであることは間違いない。しかし、同条の2が新設され、「前条項第1項に規定する者以外の者は、次の各号に掲げる場合に限り、戸籍謄本等の交付の請求をすることができる」とされ、「自己の権利を行使し、又は自己の義務を履行するために戸籍の記載事項を確認する必要がある」者は「権利・義務の発生原因と内容」「戸籍の記載事項の確認を必要とする理由」を明らかにすれば戸籍を入手することは可能なのである。すなわち、「正当」な利用者に対しては公開されている、ということなのである。

 私たちにとって、戸籍とは本当に必要なものか?日本が侵略していた韓国、台湾にしか戸籍制度はない。しかも韓国においては、戸主制廃止に伴い戸籍制度自体もなくし、個人別の身分登録簿を導入する。(改正法は2008年1月施行)

 部落差別を引き起こさせるひとつの要因である戸籍制度について、さらなる運動が必要だと感じさせられた部会報告であった。

(文責:中田理恵子)