19年ぶりに、参議院本会議において、パート労働法改正案が可決され、成立した(2007年5月25日)。
改正案では、パート労働者と通常の労働者との賃金を含む差別的取扱いの禁止を規定しているが、対象となる労働者は、通常の労働者と「業務の内容および当該業務に伴う責任の程度」が同じであり、「期間の定めのない労働契約を締結」しているパート労働者に限定され、実際にはパート労働者全体の4-5%しか該当しないことが、法案の審議中政府参考人によっても述べられている。そのため、この規定によって、パート労働者の中でさらに区分をもうけ、格差をつくりだすという批判が出されている。
パート労働法改正の内容とともに脇本さんに非正規雇用労働者の現状と課題についてお話しいただいた。
1.改正のポイント
1.事業主は、パートタイム労働者を雇い入れる際、「昇給の有無」、「退職手当の有無」、「賞与の有無」を文書等で明示することが義務化される。(改正法6条)
- 実質的には、条件を書くだけで実際の条件向上にはつながらない。労働者にとってプラスになるかは疑問。労働条件の明示がされていない。
2.事業主は、雇い入れ後のパートタイム労働者から求められたとき、そのパートタイム労働者の待遇を決定するに当たって考慮した事項を説明することが義務化される。(改正法13条)
- パートタイム労働者の待遇は、その働きや貢献に応じて決定される。具体的には、職務の内容(業務の内容と責任の程度)、人材活用の仕組みや運用など、契約期間の3つの要件が通常の労働者と同じかどうかにより、賃金、教育訓練、福利厚生などの待遇の取扱いについて規定されている。
- 3つとも正規労働者とパート労働者が同じでないといけないので、ほとんどのパートタイム労働者を救うことができない。
3.事業主は、通常の労働者との均衡を考慮し、パートタイム労働者の職務の内容、成果、意欲、能力、経験などを勘案して賃金を決定することが努力義務化される。(改正法9条1項)
- 「パートタイム労働者は一律○○○円」といったパートタイム労働者だからという理由で一律に決定するのではなく、職務の内容や能力のレベルに応じて段階的に設定するなど、働きや貢献に応じて決定することが努力義務の内容となる。具体的には、職務の複雑度・困難度や権限・責任に応じた賃金設定や、昇給・昇格制度や人事考課制度の整備、職務手当、役職手当、成果手当の支給など各事業所の実情にあった対応が求められる。
4.事業主は、通常の労働者と比較して、パートタイム労働者の職務の内容と一定期間の人材活用の仕組みや運用などが同じ場合、その期間について、賃金を通常の労働者と同一の方法で決定することが努力義務化される。(改正法9条2項)
5.パートタイム労働者と通常の労働者の職務の内容が同じ場合、その職務を遂行するに当たって必要な知識や技術を身につけるために通常の労働者に実施している教育訓練については、パートタイム労働者が既に必要な能力を身につけている場合を除き、事業主はパートタイム労働者に対しても通常の労働者と同様に実施することが義務化される。(改正法10条1項)
上記の「訓練以外の訓練、例えばキャリアアップのための訓練などについては、職務の内容の違い如何にかかわらず、事業主はパートタイム労働者の職務の内容、成果、意欲、能力及び経験などに応じ実施することが努力義務化される。(改正法10条2項)
6.「給食施設」、「休憩室」、「更衣室」について、事業主はパートタイム労働者に利用の機会を提供するよう配慮することが義務化される。(改正法11条)
7.事業主は「通常の労働者と同視すべきパートタイム労働者」の待遇を差別的に取り扱うことが禁止される。
- はじめて「差別的取扱いの禁止」の言葉が入った。
- 「通常の労働者と同視すべきパートタイム労働者」のハ-ドルが高い。
8.事業主は、通常の労働者への転換を推進するための措置(以下の措置またはこれらに準じた措置)を講じることが義務化される。(改正法12条)
- この条項は、パートタイム労働者にとって唯一前進したものといえる。
ex)イオン・ダイエ-・イズミヤなどでは、正社員とパート労働者は、時間が短いだけで条件が同じであるとか、地域限定のパート労働者と正社員は賃金が同じなどすでに取り組みが進んでいる。
9.(1) 事業主がパートタイム労働者から苦情の申出を受けたときは、事業所内で自主的な解決を図ることが努力義務化される。(改正法19条)
(2) 紛争解決援助の仕組みとして、都道府県労働局長による助言、指導、勧告、均衡待遇調停会議による調停が設けられる。(改正法21、22条)
- 行政からの指導・助言は、7割ぐらいの事業所で効果がある。
2.課題
1.「パートタイム労働者」の定義
パートタイム労働法(「短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律」の対象である「短時間労働者(パートタイム労働者)」は、「1週間の所定労働時間が同一の事業所に雇用される通常の労働者の1週間の所定労働時間に比べて短い労働者」とされている。
- この規定では、フルタイムで働くパートタイム労働者は、対象外となってしまい、おおきな抜け穴がある。
今回の改正では、フルタイムで働く人は、救えない。フルタイムで働く人は、すべて正規職員にするべきである。このことを大前提に規定していく必要がある。また、有期雇用で雇い止めされる労働者もパートタイム労働法の対象に入っていない。雇用形態で差別しない規定を作ることが重要である。
2.ところで、パート労働法がなぜここにきて問題視されるようになったのか?
女性だけが、パートタイム労働者の時には、問題にはならなかった。リストラ以降、男性にパートタイム労働者が増え、主たる生計者に増えてきたので問題になってきた。とくに20歳代後半から30歳代にかけて増加し社会問題化している。企業業績は上がっているが、利益配分の仕方がおかしい。株主への配当が3倍、役員報酬が2倍、そして労働者には賃下げを行っている。このような状況を変革するためにも、ILO111号条約(雇用及び職業についての差別待遇に関する条約)とILO175号条約(パートタイム労働条約)を早急に日本政府に批准させなければならない。111号条約を先進国で批准していないのは、日本とアメリカだけである。
3.有期雇用労働者に関しては、理由のない有期雇用禁止を法律で明確に規定すべきであり、有期であることを理由に差別されない法律を早急に作る必要がある。連合は、有期契約労働法を政府に要求している。
4.パートタイムで働く人の多くが女性である。退職金・ボ-ナス・昇給・福利厚生のない条件が悪いところに一方の性(女性)が多くいるのは、間接差別に当たると日本政府は、女性差別撤廃委員会から勧告を受けている。
3.最後に
労働者がどのような権利を持っているのか?について学校教育段階で子どもたちにきっちりと教育することが、今後ますます重要になる。若い人たちに疑問を持ったら行動に移すことの大切さを訴えていきたい。
(文責:中田理恵子)
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