今回の女性部会では、婚外子であることを、国籍取得について別違取扱をする要件としている国籍法の規定が、憲法の平等原則に反するとした国籍法違憲最高裁判決(2008年6月)を素材として、国籍取得に関わる婚外子差別の問題について、養父知美さん(弁護士、研究所理事)に解説していただいた。
1.国籍とは
国籍とは、国家の構成員としての資格であり、日本国憲法は、第10条において、日本国民たる要件は法律でこれを定めるとしている。この規定に基づいて、国籍法が制定された。
2.基本的人権と国籍
日本国憲法は、多くの権利規定の主体を「国民」としているが、権利の性質上日本国民を対象とするものを除き、日本国籍をもたない者もまた、基本的人権を享有するものと解されている。ただし、マクリーン事件判決は、かかる権利の享有は、外国人在留制度の枠内にとどまるものとしている。これらのことから、国籍を得られないことによって、日本への入国や在留、指紋押捺の強制、参政権・公務就任権・社会福祉に関する権利など、大きな不利益を被っているのである。
3.日本の国籍法
国籍取得の方式には、血統主義と生地主義とがあるが、1899年に制定された旧国籍法は、家制度を前提とした父系血統主義を採用しており、その結果、日本人女性が外国人男性と結婚する際には、日本国籍を喪失するなど、婚姻、養子縁組、認知などを通じて、国籍が変動するという仕組みとなっていた。
戦後(1950年)に、新憲法の施行にともなって、家制度が廃止され、家制度とセットになった国籍の取得・喪失に関わる規定は廃止されるに至る。さらに、女性差別撤廃条約の批准に関わって、父系血統主義から父母両系血統主義に転換されるに至った。しかしながら、婚外子に関しては、父親が日本国籍を有し、母親が外国人である場合、父親の認知がなければ、日本国籍を取得することができない。なお、国籍取得に関する準正の規定がある。これは、子の出生後に父親が認知し、かつ両親が結婚した場合、子が未成年であれば、届出によって国籍取得を認めるものである。
4.現行国籍法と婚外子差別
このように、国籍取得には、出生・届出・帰化によるものがあるが、しかしこの規定は、婚外子と婚内子、胎児認知と生後認知、さらには母子関係と父子関係との間に著しい差が生じているのである。つまり、外国人女性と日本人男性との間に子どもが生まれ、かつ生まれた後に父親が認知をした場合では、国籍法の規定によれば、国籍取得には至らないのである。というのも、婚姻が要件となっているためである。
本件では、父親が胎児認知をしておらず、しかも母親が既に退去強制命令を受けており、子は日本国籍を取得することができない事案であった。このような状況は、準正の効力は出生にさかのぼるとしている民法上の規定と矛盾しており、このような差異は、憲法第14条1項の平等規定に反するとして、提訴したものである
5.国籍法違憲最高裁判決(2008年6月.4日)
この主張に対し、最高裁は、国籍法第3条1項の規定につき、立法当時は、婚内子たる身分が、家族生活を通じた日本社会との密接な結びつきが生ずるとする立法目的との間で合理的な関連性があるとしつつ、2003年当時は、家族生活や親子関係に関する意識の変化、出生数に占める婚外子の割合、国際結婚により出生する子の増加、婚外子差別解消の国際的傾向にかんがみ、また、当該規定によって子の被る不利益が著しいこと、胎児認知と生後認知との間に日本社会との結びつきについて差がないこと、父母の婚姻という子にはどうしようもない事情があること、簡易帰化はあくまで法務大臣の裁量行為であって、代替手段としては不十分であることから、もはや立法目的との間に合理的な関連性がないとした。そのため、婚姻を要件とした準正の規定は違憲であるとし、父母の婚姻により婚内子たる身分を取得するという部分を除いた当該規定所定の要件が満たされるときは、日本国籍を取得するものとした。
6.判決の問題点
婚姻を要件とする部分を違憲とした点は評価しうるにせよ、依然として問題はのこっている。つまり国籍取得の時期は出生時であるのか、認知時か、届出時であるのかという点であるが、現行では、届出をしないと国籍は取得できないが、認知の効力は出生時に遡るとしている。また、子の認知をしたとしても、母親に対する退去強制処分の効力を左右することはできない点も、課題であろう。
今日、国籍法第3条の規定は、認知のみによって国籍取得を認める方向で議論されているが、依然として残される根本的な問題がある。即ち、国家の構成員たる資格の要件はいかにあるべきかという問題である。二重国籍については、ダブルの子どもたちや、海外で暮らす人々の事情を考えた場合、父母両者の民族性を引き継いでいるのであるから、認めても良いのではないか。現に二重国籍を認めている国も存在する。無国籍者についても、住民登録によって、権利が保障されるということが望ましいであろう。さらには、基本的人権の享有に関わる外国人差別を放置していて本当によいのか、という問題があろう。
※法律上の婚姻関係にある男女の間に生まれた子を「嫡出子」、そうでない子を「非嫡出子」と表現するのが通例となっているが、かかる表現により、一層差別を助長すると思われるので、ここでは、前者を「婚内子」、後者を「婚外子」と称することとした。
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