〈第一報告〉
今回は、テレビ朝日と朝日放送の共同制作で、1月23日と30日の午前10時から放送された『「食肉のドン」の犯罪〜「政・官・業」利権構造〜』と題して、ハンナングループの浅田満被告を取り上げ、その23日の番組冒頭につぎのような部落差別発言がおこなわれた事件ついて、部落解放同盟中央執行委員の北口末広さんに報告していただいた。
(1)事件の概要
放送の中で、まずメインキャスターの田原総一朗さんが、「だいたいこの人をやんないマスコミが悪い」「被差別部落のなんとかと言ってね、恐ろしがってる。何にも恐ろしくない、本当は。タブー視されている、ここが問題(取材に当たったジャーナリストの大谷昭宏さんと内田誠さんを指して)この人は、被差別部落をタブー視しないからできる」と大谷さんと内田さんをもち上げた。
つづいてコメンテーターの高野孟さんが、「マスコミがタブーとしてきた」と言葉をはさみ、さらに田原さんが、「それを大谷(昭宏)さんは取り上げた」と繰り返し褒めあげたうえで、高野さんが、「大阪湾に浮くかもしれない」と発言し、司会役のうじきつよしさんが、「危ないですよ。二人とも」と念を押し、田原さんが、「変にマスコミがタブーとすることが、逆に言えば差別」と締めくくったのである。
これら一連の差別発言にたいして、番組の途中で司会の女性アナウンサーが不適切な発言であることを認め、一応の謝罪がなされたが、きわめて不十分なものであった。
つづいて2回目を放送した1月30日の番組冒頭で宮田アナウンサーが、「先週の放送の冒頭のコーナー、ハンナンの浅田満被告の特集を説明するくだりで、被差別部落の人たちの心を傷つける発言があったことをお詫びします」とのべたあと、出演者によって謝罪がおこなわれた。
(2)問題点の整理
この事件には様々な問題性が含まれるが、今回の部会では、主に以下の点が議論になった。
- 田原さんの発言が、浅田被告の犯罪と被差別部落を短絡的にかつ意識的に結びつける印象を視聴者にあたえた
- 部落問題へのタブー視がマスコミのなかにあり、その流れのなかで「大阪湾に浮くかもしれない」という高野さんの発言が部落問題をとりあげると身の危険があると暗に指摘した内容になっている
- 「50億円の犯罪」という特集のタイトルであったにもかかわらず、冒頭の説明では部落差別のタブーに挑戦となってしまい、番組の趣旨が歪曲されている
- 翌週30日のあらためてのアナウンサーのおわびコメントで、浅田被告の生い立ちにふれた
- 浅田被告の犯罪が部落一般に関係があると誤解を生んだことを指摘しているが、このとらえ方は表面的。浅田被告の生い立ちにふれたのが問題ではなく、とりあげ方に問題があり、そのことが視聴者に悪影響を与えたということ。とりあげ方による波及効果を考えるべきである。
- 高野さんの謝罪のなかの、「差別と犯罪を関係づけるような印象」という発言には核心へのズラシがある。それは、タブー視されている部落問題をとりあげると大阪湾に浮くかもしれないという流れがあり、部落への強烈な予断と偏見を視聴者に植えつけるものになってしまっている
(3)おわりに
今後、部落解放同盟中央本部では、近日中に、事実確認を通じて糾弾会を開くことを予定している。差別糾弾闘争を通じてマスメディアの差別撤廃・人権確立の認識がさらに深まることを求めて粘り強いとりくみを推進していく必要がある。
※詳細は、『ヒューマン・ライツ』204号「唖然とするサンデープロジェクトの差別放送」を参照。
〈第二報告〉
(1)マスメディア全体をめぐる動き
人権擁護法案については、2003年秋の臨時国会で廃案になった。マスメディアは、メディア規制につながるとして、強く反対してきたが、山崎公士さんが毎日新聞への寄稿「人権政策の理念の明示を」で的確にしたように、メディア規制の面だけでなく、独立性・総合性・実効性の面を含めて批判し、真の人権擁護制度の確立を求めていくべきである。
2003年3月、イラクにアメリカ・イギリス連合軍が侵攻。日本国内では有事立法が成立し、2004年1月には、自衛隊がイラクに派遣されるなど、「戦争とメディア」が問われた。武力攻撃事態法案など、いわゆる有事3法案が2003年6月に成立したが、政府は、有事の際、政府への協力を義務づける指定公共機関にNHKのほか、東京、大阪、名古屋の民間放送を指定した。大本営発表の反省から生まれた戦後のジャーナリズムは、再び大きな転機を迎えている。
(2)ハンセン病問題に関する報道のあり方について
今回は、ハンセン病元患者に対する過去のメディア報道のあり方、これからの報道のあり方を中心に考えた。社会に訴えるべき問題が、人権の視点を考えるのは、この問題に限らず、すべてのメディア報道について考えていくべき課題である。
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