調査研究

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2005.03.08
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キャリア教育と人権研究会
2005年1月22日
進路を切り拓く力の育成を
-自立支援をめざすキャリア教育の創造

桂正孝(「キャリア教育と人権」研究会座長)

問題提起(桂)

 グローバリゼーションの巨大な力を背景に日本社会の高度情報化と産業構造の変化が急激に進められ、これまでの日本型の雇用システムが解体・再編されつつある。そんな社会の矛盾が若者の進路状況に大きな影を落としている。日本が世界に誇った「新規学卒者の一括採用」も有効に機能しているとは言いがたい。すでに200万人を超えるフリーターや新たにニート(NEET)と呼ばれる「教育や職業訓練も受けず、就職もしていない」若者たち(52万人、2003年)が近年急増していると言う。そこにはいわゆる「引きこもり」の問題も強く影響していると見られている。これらの動向は、昨今、若者たちのなかに見られる反社会的・脱社会的な問題行動の増加と決して無縁ではない。

 いわゆる「学力低下」の問題についても、子どもたちの「学びからの逃走」や「学ぶ意欲の低下」現象が、不安で展望を見出しづらい現代社会像の反映であることを見ず、再び「知識の詰め込み」学習に戻るだけでは、問題状況を一層、困難にするだけであろう。

 それゆえ、教育課程の編成にキャリア教育の視点が必要なのである。キャリア教育は「勤労感・職業観・人生設計力」の育成と理解されているが、敷衍すれば、社会参加と自立支援による自己教育力の育成とも言える。それは、「エンパワメントの教育」として、部落出身者としての社会的立場の自覚といったように、「逆境や苦境をもばねにして生きる」力を子どもたちに育むことをめざすと同時に、統一応募用紙や奨学金の拡充などの条件保障を進めてきた解放教育の営みとも重なる。

 また、キャリア教育の視点から「リテラシーの教育」をとらえた場合、基礎・基本の定着はもとより、メディア・リテラシー、コミュニケーション能力の育成、市民性教育などの概念をも視野に入れた学力保障の新たな取組が求められている。それは解放教育がかつて「解放の学力」として問題提起した理念とも合致するのである。

 さらに、キャリア教育では、小・中・高の一貫した指導体制が求められるとともに、地域と連携した「開かれた学校づくり」の実践とも結合されなければならない。

 このように、今こそ、これまでの解放教育の実績を土台にしたキャリア教育の内容を発信していく必要があるのではないだろうか。

問題提起後の意見交換

 問題提起を受け、参加者で意見交換をおこなったが、「キャリア教育」が多義的な概念であることも手伝って、様々な意見が出された。一端を紹介すると、被差別部落の親の職業観を育むことも視野に入れる必要があるとの指摘や、すでに「職場体験学習」が、中学校を中心に幅広く学校現場で取り組まれているが、そのねらいとするところにかなりばらつきがあること、現在行われている実践のプラス面とマイナス面を、ジェンダー等、広く人権の視点から整理する段階に来ているのではないかという意見。キャリア教育という枠組みで考えるとき、「職場」に限定することなく幅広く地域における大人とのかかわりを通じて自己効力感を育むことが大切ではないかという意見。さらには、学校教育の枠組みだけでこの問題を検討することで問題が本当に解決するのか?など、実に様々な角度から多様な意見が出された。

 本研究会では当面の課題として学校教育におけるキャリア教育に焦点を絞って検討していくが、そこから排除された若者たちの問題も当然、重要な課題であり、視野に置かねばならないことが全体で確認された。

 当研究会の詳細な報告・議論、資料等について、研究所ホームページ(『キャリア教育と人権』研究会)にて公開されているのでぜひご覧いただきたい。

(文責・事務局)