1.はじめに
本校では9年前より職場体験学習「三中ハローワーク」を、松原市内100カ所以上の事業所と三中校区地域教育協議会をはじめとする地域の各団体の協力を得て実施してきている。
職場体験学習「三中ハローワーク」は、本校の同和教育の一環で行われてきた「親の労働に学ぶ」の実践を継承・発展させながら、働くことの尊さや素晴らしさ、支えてくれる家族や地域の方々の思いなどを感じ取らせ、望ましい労働観の育成と将来への展望(夢・生き方)を持たせることを目標としている。
2.職場体験学習に向けて -事前学習-
<1>「自分が興味のある職業調べ」(発表を含め7時間程度)
「三中ハローワーク」の取り組みは1年の3学期に行う「自分が興味のある職業調べ」からスタートする。布忍・中央両小学校では総合的な学習の時間の一環で「職業体験」「地域の職業調べ」といった活動が行われ、地域ではたらく人たちの願いや思いを聞き取りや見学を通して学ぶ時間が設定されている。本校では職場体験学習の導入として、自分の興味のある職業について書籍やインターネットなどを利用した調べ学習を行い、職場体験学習をはじめとする「進路学習・生き方学習」をこれからはじめていく動機づけとしている。
<2>「身近な人の願いを知る」・「働くということ」(5時間程度)
その後春休みの宿題として、自分の身近な人(親、兄弟、知り合いなど)から聞き取りを実施している(資料1)。この聞き取りでは、身近な人がどのような思いではたらいているのか、はたらくことには辛いことだけでなく喜びがあること、そして今の自分たちにどのようなことを望んでいるのかを知り、どのような仕事であれ誇りを持ってはたらく大人の意識を認識させ、その労働によって自分の生活が支えられていること、家族を支えるために自分たちも将来はたらくことを認識させる。またこの聞き取りの期間に家庭訪問などを行い、聞き取りのしにくい生徒、親の実態を特に学ばせておきたい生徒についてしっかりと対応している。
この聞き取りの結果は、クラスごとに新聞にまとめ意識の共有化を図るとともに(資料2)、これはという保護者を学校に招き、生徒の前で聞き取りを行い、職業選択の大切さやその仕事に対する誇りを直接話してもらう機会を持っている。
3.職場体験学習 -コース別学習・職場体験本番-
<1>「プロの技に学ぶ」(4時間程度)
事前学習終了後、生徒が体験したい職種のアンケートを実施し、受け入れ可能な職場に振り分けたあと、8-10の職種で働く人たちの「プロの技」の素晴らしさとその仕事にかける意気込みを体験する「プロの技に学ぶ」という取り組みを実施している。これは職場体験学習の受け入れ事業所の方や地域で専門的な技術を持つ人たちを学校に招き、働く人の持つ技術のすばらしさや仕事に対する厳しい姿勢を実際に目にする機会をもち、働くというイメージを深め職場体験学習に対する関心を高めるものである。本校の卒業生や地域の方々をはじめ、保護者にも積極的にはたらきかけ、講師として登場していただいている。
<2>「スキル学習(マナー指導)」(3時間程度)
従来までは地域の各団体に生徒受け入れ先の事業所の紹介や講師紹介など、職場体験学習の実施に向けての準備段階で地域教育協議会等各種団体の協力を得る形で取り組みを進めてきた。今年度は更に一歩踏み込んだ協力体制が作ることを意識して取り組みを行った。
職場事前訪問や職場体験学習本番の前に、職種ごとに分かれて事前学習を行う「コース別学習」を実施している。一昨年度からこの取り組みの中に、職場での話し方や電話の応対、身だしなみなどを身につける「スキル学習」を取り入れた。昨年度からはは「スキル学習」の内容をより効果のあるものとし、また地域の方々とともに職場体験学習を作り上げるという観点から、三中校区地域教育協議会の役員の方々を講師に招き、生徒が事前学習で学んだことを実際に人前で行う「演習」の時間の指導をしていただいた。
当日は各コースに1人ずつ、8名の方に入っていただき、職場事前訪問の場面設定で生徒1人ひとりに言葉遣い、姿勢、態度、身だしなみなど、様々な部分でコース担当教師と連携して助言・指導を行った。
講師の方々からは単に面接のノウハウを指導していただくだけでなく、社会人の先輩から生徒に大切にしてほしいことや職場体験学習に望むに当たっての心構えなど、多くの貴重なお話をいただいた。
また、多くの生徒が心持ち緊張した顔つきで、事前訪問の時にどのように話を進めればよいか、真剣に取り組む姿が見られ、その後の事前訪問や職場体験学習本番に大いに役立った。
飲食店関係のコースでは、その仕事に携わる方に来ていただき、面接練習の他にお店に立つときの身だしなみや表情について、詳しくお話をいただいた。
この取り組みは単に外部から講師を招き指導していただくだけでなく、地域教育協議会の方々が中学校の授業の中で自分たちの経験や考えを伝える場となり、それに真剣に応えようとした生徒の姿に触れていただき、大きな収穫のあった取り組みとなっている。
<3>「職場事前訪問」・「事業所の方からの聞き取り」(6時間程度)
地域教育協議会の方からのマナー指導を受けて、生徒は職場体験を前に、当日体験する内容や心構えを事業所の方から直接聞き取り、体験学習のお願いに行く職場事前訪問を行う。生徒は当日の出勤時間や服装、昼食の有無、体験する作業内容などについて聞き、体験学習に向けての意気込みを決意文にまとめて事業所の方に渡してくる。
また職場体験の前日には事業所の方を学校に招き、職場体験の厳しさと心構えについての聞き取りを行った。職場体験の本番前にピリッとした空気を持たせ、当日を迎えることになる。
<4>「職場体験学習当日」(2日間実施)
本校では松原市内100カ所以上の事業所に分かれ、2日間の職場体験学習を実施している。学年の生徒数が200名足らずなので、1事業所1-4名程度の少人数での体験学習である。各事業所の前には「松原第三中学校 職場体験中」という幟を立て、子どもたちが体験学習に参加していることが一目でわかるようにしている。
当日は事業所の方々と同じ時刻に出勤し、朝礼から退勤時間まで一緒に勤務する。体験中は本校の教職員だけでなく保護者も一緒に各事業所をまわり、体験の様子をデジタルカメラやビデオで記録するとともに、励ましの声をかけてくる。その後、学年PTA新聞を作成し、記録した映像とともに保護者の感想なども掲載して、当日参加できなかった保護者の方々とも体験の共有を図っている。
生徒は体験学習中に職場の人から仕事の喜びや辛さ、気をつけていることなど、いくつかのことを聞き取って帰宅後レポートを作成する。このレポートをもとに事後の発表会の原稿作りを進める。
また、事業所の方からも当日の生徒の活動の様子を評価していただき、本人に示していただくとともに、後日学校へ提出いただいている。学校・事業所・保護者(地域)相互で生徒の活動を評価する取り組みも行っている。
2日間の活動を終えて帰ってくるときの生徒の表情は、疲れた中にも大きなことをやり遂げた充実感を顕わにしていて、このあとの進路決定に向けても貴重な体験となっている。
4.職場体験を終えて -事後学習・取り組みの情報化、発信-
<1>「ハローワーク発表会」-プレゼンテーションの作成・発表-(7時間程度)
職場体験学習のあと取り組みを振り返り、生徒一人ひとりが得た貴重な体験を共有するために「ハローワーク発表会」を実施し、その際作成した壁新聞を掲示したり、本校のホームページにWebページを掲載するなど、この取り組みをお世話になった事業所や地域に発信する取り組みを行ってきた。
本校でも昨年度よりPowerPointによる生徒一人ひとりにプレゼンテーションファイルを作成させた。PPT形式ではテンプレートを使うと見栄えのよいページが容易に作成でき、またアニメーションや背景、吹き出しの挿入など、様々な効果を取り入れることができるため、一人ひとりの個性がそれぞれのページに表れ、生徒は非常に熱心にページ作成に取り組んだ。
また、この取り組みでは国語科の授業として文章の推敲や説明文、発表原稿の作成の指導を行い、技術科の授業の中で事前にPowerpointの操作の指導を行うなど、教科指導と内容をリンクさせ、さらにe-kokoro評議会よりIT技能員に来ていただき、技術的な指導援助をしていただける体制を取ったことも成果につながっている。
<2>事業所事後訪問(1時間程度)
職場体験の翌週には、体験した職場を再度訪問し、体験のお礼を述べるとともに、学校で作成した感謝状を持って行き、各事業所に飾ってもらっている。この感謝状の作成についても、今年度から写真を銀鉛写真からすべてデジタルカメラによるものに変え、忙しい学期末の中で作業が早く終わり、作業の効率化を図るとともに生徒作品にも容易に活用できるものにした。
このように事後指導における資料のデジタル化により仕事の効率化ができるだけでなく、より広範に資料が活用でき、情報の発信という点においても優れた点があった。
<3>「三中校区ヒューマンタウンフェスティバル」での発表
またこの取り組みを三中校区の方々に広く発信するために、11月に行われる「三中校区ヒューマンタウンフェスティバル」の中で発表ブースを設け、協力いただいた事業所の紹介と生徒が作成したプレゼンテーションを発表した。多くの方が発表ブースの見学に来られ、地域の方々にも職場体験学習の取り組みや生徒の様子を理解していただくことができた。
5.おわりに
「三中ハローワーク」の取り組みは、生徒が地域の方々と出会う機会を増やし、自らの将来や生き方をより深く考え、人とのネットワークづくりを進めるだけでなく、学校・地域・家庭の三者の連携や相互理解がさらに進み、「開かれた学校づくり」の一端を担う取り組みへと発展し続けている。
職場体験学習「三中ハローワーク」指導計画表
指 導 内 容 |
実 施 時 期 |
時 数 |
自分が興味のある職業調べ |
1年 2月中旬〜3月下旬 |
7時間 |
身近な人の願いを知る(聞き取り) |
2年 4月中旬〜4月下旬 |
2時間 |
働くということ(職業の選択・仕事の「誇り」を考える) |
5月上旬 |
3時間 |
プロの技に学ぶ(プロの方の実演・生徒の体験) |
5月中旬 |
4時間 |
私のしごと館見学(職業適性・様々な仕事の見学) |
5月下旬 |
6時間 |
スキル学習(地域教育協議会の方からの指導を含む) |
6月上旬〜6月中旬 |
3時間 |
コース別事前指導(事業所の方からの聞き取りを含む) |
6月下旬〜7月上旬 |
8時間 |
職場体験学習本番 |
7月上旬 |
12時間 |
ハローワーク発表会(プレゼンテーション作成・発表) |
7月上旬〜7月中旬 |
7時間 |
<質疑>
ハローワーク発表会(プレゼンテーション作成・発表) 7月上旬-7月中旬 7時間
※ ○印は研究会参加者の発言で、●印は、報告者による発言。
○ 工場関係を敬遠するのは子どもたちのどういう思いなのだろうか?三重県の中学校でもインターンシップをやっているが、やはり工場関係は希望が少ないようだ。実際は、就職してそこに行く子もたくさんいる。それなのに中学校、小学校の時点では、夢・希望を持つという話があるが、工場でこつこつ働くというところになかなか視点が行きにくいのはなぜか?
● 前任校でもそうであった。スーパーなど、アルバイト的な仕事に希望が多かった。現任校では看護士や保育士、小学校や幼稚園の教師関係の仕事を希望する生徒が多い。前任校で聞いた場合、やはり、工場で汚れたりするのがいやという答えがあった。確かに帰ってくると体操服が真っ黒になっている。
○ そのあたりはどうしていこうと考えているのか。小学校で育もうとしてきた「夢」とか「希望」とどういう関連にあるのだろうか。
● 本当の意味での「ものづくり」を経験させたいと思っているが、適切な職場が松原地域にない。子どもたちの中に工場に関する知識そのものがないのが決定的な問題点。「ものづくり」がどういうところでされているのかという点を実感として持っていない。
○ 求人としては工場関係が多くなってきている。たぶん景気が上向きになってきているからだろう。小中のころから「ものづくり」の大切さの意識を持たせてほしい。
○ 地域教育協議会の方や保護者の方が職場体験学習にかかわっておられるが、事業所も含めて、その方々の評価の特徴的なものは?
● 事業所の方からは、最近の子どもたちはあまりきっちりできないのでは?と思われていたのが、外見はそうではなくても、実際はまじめに一生懸命の生徒がたくさんいてるのだと言ってもらえた。「声が小さい」という意見もいただくが、それも二日間続けていく中で「だんだん声を出せるようになりましたよ」とか感想を書いていただける。地域教育協議会の方は、学年によっての子どもたちの違いについてもいろいろ指摘してくださる。ふだんから色々なことで交流もあるので、良い面、悪い面の両面を見ていただける。
○ 三中の二日間の職場体験のおもなねらいはどこにあるのか?また、職場体験学習の50Hほどの時間は中学校の総合学習のだいたい何割ほどを占めているのか?
● 地域とのつながりを深めることが地域の教育力の再生にもつながる。また、子どもたちが仕事について考えていくきっかけになる。自分の自信にもつながるし、働くということがどういうことなのかを知ることができる。時間的には(学年の)総合学習の3分の1程度である。
○ 人権学習と人間関係スキルの取組と合わせて3本柱の中のひとつという位置づけと考えてよいか。
● ずっとねらいにしてきているのは、地域とのつながり。子どもたちが地域のネットワークを持てるということずっとねらいとしてきている。
○ 「トライやるウィーク」は視察にいったが、続いているところと形骸化しているところがある。その差は、「生き方」の問題として取り組んでいるかどうか。「生き方」としての進路体験という側面が指導内容として大切だということだ。もう一点、行政が支えている点はすごいと思った。そして、地域が支えていると。この点をクリアしなければ長続きしないだろうと思った。横軸は地域が支える、これについては松原では地域教育協議会が中学校区で支えていただく。縦軸は業者だと。行政がライオンズや商店街の連合会、商工会議所、青年会議所という業者組織を走り回って、業者を通じて参加する事業主を拡大して欲しいと依頼してきた。オール二日間の体験学習で七中学校が全部足並みを揃えるようになってからそういう連絡会組織を立ち上げた。第一回の会議は非常に感動的だったのだが、色々と苦情も出てきた。要は、「生徒たちのマナーがなっていない、態度が悪い」と。学校の教師が言うてもなかなか効き目がない。そこで地域のおっちゃん、おばちゃんが一度やってみようとなってきた。マナー教室ということで、電話のかけ方や応対の仕方などを導入段階で教えることを初めてもう3年ぐらい。それ以降、この種の批判はめっきり少なくなってきた。こうして、学校だけで職業体験学習はもう支えられない、地域と業者で支えていただき、そこに学校も参入して行っているという転換を図らねば、総合的な職業体験にはならない。松原としては連絡会的な組織を立ち上げたので、そこで議論したことが一定成果を上げて、こういう会議があってよかったと感じてもらっているということはひとつの財産である。
○ 三中の職場体験でのしんどい子の反応は?
● 非常に熱心に取り組む。不登校の子にも頑張って来ようとうい子もいる。ふだん学校の勉強は苦手やなあという子でも職場体験については非常にいい顔をしてやって、頑張れたという充実感をもって帰ってきてくれる。
○ 三中では3年生で保育所実習を全員でやられていると聞く。これはどういう位置づけで?
● もともとは家庭科の授業で行っていた。それを「総合」のほうでということでやっている。この場合も、子どもたちはものすごくいい顔になる。「命の大切さ」という視点から実施している。
● 中学生活の最後に原点へ帰るということで、自分たちが育ってきた保育所や幼稚園に行かせている。そこで3年間自分が膨らませてきた夢や「生き方」、命の問題をみつめようと。それを卒業文集に載せるという流れで実施している。今年度は11月に実施して、7割ぐらいの生徒を自分が育った幼稚園や保育所に戻すことができた。暖かい地域の人に育てられてきた中学生なのだということに確信をもって、次の進路選択をしようという流れになっている。
○ 意味合い的には2年生でやる職場体験とは・・・・?
● まったく違う形になる。職場体験は保育士さんになりたいという子が行くが、保育所実習の場合は全員を戻している。卒業の際、何を大事にしていくのか、そこに確信を持たせて高校へ送り出していく、その一環だ。
○ 3年生で行ったときの体験する中味は?
● 基本的には遊びを作って子どもと一緒に遊ぶこと。保育士さんの労働とよく似ている。
○ そうなると2年生の職場体験と内容はそう変わらないわけか?
● 形式は変わらない。ただ、何を発見させるのかというねらいが違う。
○ ねらいが違うということはわかったが、表面的には同じようなことを単に場所を変えてやっているだけというふうにも見えるのではないか。その点は保育所、幼稚園と中学校でどんな話をしているのか。
○ 要するに、その生徒たちが自分の所の園児だったと言うことだ。それが決定的だ。その子らをどう育ててきたのかを率直に論議できる。また、『夢を実現しいや!』と周りの大人がどれだけ声をかけるかで中学生が大きく変わる。一人の子どもの夢を暖かく育ててやって、「がんばれや!」と言える人がたくさんおるような地域、それをねらいにしたい。
○ かなり前、松原高校の「産業社会と人間」の授業を見た。いろんな工場を見学、聞き取りしてそれを班ごとに新聞にまとめてシェアしあうような時間だった。小学校や中学校で職場に行き、高校で仕事の内容をもう一度、調べあうというように、順番が逆になってはいないか?高校ではあまり外へは出て行かないのか?
○ 高校によってだいぶ色が違う。1年生の段階でインターンシップに取り組む学校は多い。期間は高校によってバラバラであるが、『進学校』では、授業の時間帯でやることはありえない。現任校では、夏休みに自分で探させて体験をさせている。高校について、ひとことでこんな取組をしているとはまとめていえないのが高校の現状。
○ 私立の女子高。総合選択制でカリキュラムを作っている。『総合的な学習』で「フィールド入門」という形で進路を考える時間を取っている。それは大阪の私立の中で言うと特殊な部類だと思う。インターンシップをやりたいが、なかなか授業時数の問題で難しい。職業を持っている方の話を聞くことにとどまっているのが現状だ。
○ 中学校の職場体験の位置づけが難しい。中学校のキャリア教育で何を一番大切にしなければならないのか。兵庫の「トライやるウィーク」もキャリア教育の位置づけではなく、地域との接点とか、子どもがもっと大人とのかかわりを持つことがねらいだった。そう考えると三中の3年でやられている保育所実習のようなことをもう少し大事にする体験が大切なのでは?それをキャリア教育と位置づけてもおかしくないと思う。小学校は年齢も違うし、中学生が求めているものとは違うと思う。東大阪の中学校では、提案型のまちづくりの実践と結合させて職場体験を取り組んでいた。その中味との関連で、体験日数も2日で充分なのか5日必要なのかという論議をしいていかなければならない。
○ 「マナー」の取組などにあまり力を入れると中学生は固まってしまい、体験のほうに向かない。びびってしまうことはないか?だから、(兵庫の前任校では)中学生として地域に打って出よう!という感じでおこなった。こういう体験学習の目的は、はっきり、中学生が自信をつけることがねらいと思っている。たくさんほめてもらって、「自分もやっていけるんだ」「仲間と一緒に外へ打って出るんや」という感じにならなければ、しんどい子はひいてしまうのではないか?
● 子どもが固まったりしてしまわないように、学年集会などで教師がいろんなパターンを実演して見せて笑わせたりしながらやっている。面接の練習でもいろんなパターンの練習をやり、服装についてもやわらかい感じで話し合いながらやっている。
○ 「コミュニケーションスキル」と「マナー教育」はイコールではないと思う。布小でやられてきていることと少し違和感がある。
○ 「トライやる」でどういう成果があったのか?とよく聞かれる。表面的には子どもが元気になったとかコミュニケーション能力がついたという言い方をするが、一人ひとりの「トライやるウィーク」であって、一人ひとりの中でどうなっているのかが大切。とくに、しんどい子や不登校の子への意味付けをもっとしていく必要があるのではないか。
○ A市では、(事業所のOKを)学校がそれぞれバラバラに取ってきているから、大変。その辺を市全体の体制で支えるということがものすごく大切だと感じた。
○ マンネリ化しているのは教師であって、子どもたちは別にマンネリ化していない。新鮮な思いでやっていけたら・・・。
○ A市全体を見ると、職業体験学習から撤退していっている学校がけっこうある。幼稚園や病院、消防士など、仕事の内容がはっきりわかって、人と関わるような仕事を体験してきた子どもたちはずいぶん、自分が役に立ったというような実感を持って帰ってくる。やり方によると思うが、工場の場合は、倉庫であったり、接客業、コンビにであったり、本屋さんなどに行ったときに、なかなかお店の方がうまく指導してくれなかったり、ただ三日間、行っていただけというのもある。体験から帰ってきたときに、「この三日間がどういう役に立ったのか」と訊くと、学校以外の体験をさせてもらったというぐらいで、なかなか充実感もない。むしろ目的をはっきりさせようと、福祉体験なりボランティア活動の体験などにシフトしていっている学校が出て来ている。職業体験学習のねらいは何なのかということをきっちりしておくことが大切。その結果、工場に行きたいという子どもたちが少なくてもそれはそれでいいのではないかという気がする。
○ 兵庫県の生野にまちづくりの取材に行った。まちづくりをじょうずにやっている人というのは、会社をリタイアした人たちで、その人たちは行政をどう動かしたらいいかとかプロジェクトをどうやって立ち上げて夢を実現していくのかなど、ノウハウを持っている。夢をどうやって実現していくのかというノウハウ(手段)を知っているのと知らないというのでは大きく異なる。これもキャリア教育に含まれるのでは?
○ キャリア教育の概念はきわめて広い。人生設計から何からなにまで入ってくる。職業教育の前段という感じもするが、要は、我々にとって都合のよい概念を作ればいい。高校中退等、今までの実践に問題点が出て来ているのは事実。現在の青年期の子どもの姿から反省をし、「キャリア教育」という概念を持ち込んで整理をしようとしている。その際、同和教育・人権教育の視点から検討することが必要であるということだ。「キャリア教育」には、『視点としての側面』と『具体的なカリキュラムの内容としての側面』と両方があり、それぞれに濃淡がある。我々は、「キャリア教育=職業教育」ではないという見解である。定番の答えではなく、自分たちに何が必要かという問題のたて方が必要。そこには、「生き方」の問題であったり、権利としてのコミュニケーションであったり、マナー等も考えられるが、「リテラシー」は絶対に必要である。PISA調査で提起されている学力こそが必要である。
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