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2005.07.07
部会・研究会活動 < キャリア教育と人権研究会>
 
キャリア教育と人権研究会
2005年5月7日
児童養護施設の子どもたちの学校における
自立支援指導と進路保障

報告:船坂小学校 山口中学校

 さる5月7日、第3回「キャリア教育と人権」研究会が40名近い研究者や現場教員の参加を得て開催された。

今回は「児童養護施設の子どもたちの学校における自立支援の取組と進路保障」をテーマに、西宮市立船坂小学校と西宮市立山口中学校から報告があった。概略は以下の通りである。

<船坂小学校> 

船坂小学校は、有馬温泉の近くにある自然に恵まれた学校であり、全校生徒が約60名の小規模校である。児童の約半数が学校のすぐ近くにある児童養護施設から通っている。

施設から通っている児童には、将来に不安を感じてなげやりになったり不眠に悩む子どもがいる。何とか子どもの自尊感情を高めようと、「いいところ探し」などの取組を進めてきたが、それで高められた自尊感情はもろいものであった。もっと粘り強い自尊感情を高める必要性を痛感し、できるところから取組み始めた。しかし、小学校の取組みだけでは限界があり、ネットワークが必要である。そのため施設との連携を図るために、定例連絡会や全体懇談会を開催しているほか、施設の児童の様子を話合う場として、山口中学校との連絡会、施設・山口中・船坂小による三者懇談会、さらに子どもセンター(児童相談所)と施設を加えた五者懇談会を開催している。また、児童養護施設に対する偏見や誤解をなくすため、施設の状況を伝える授業や保護者への説明会を行い、施設の子どもたちを支える集団づくりなどに努めている。

キャリア教育の観点から言えば、小学校でできる進路指導は、「自分で自分のことを決めていける力」をつけさせる事とともに、子どもたちの自尊感情を阻むもの、例えば進路に関する不安など、を取り除くことが重要である。そして、やはり大切なのは授業での取組である。

私が担任した1年生には、精神的に不安定で、授業にも参加することがままならない施設からの入学生がいた。そのため、子どもの現実からスタートして、子どもと共に創っていく授業を展開するよう心がけた。これまで施設の児童に配慮して避けてきた家族や親子のテーマを扱った教材を取上げたところ、この教材に最も積極的に取り組んだのが施設の子どもたちであり、授業の中での発言は自分たちの生活がにじみ出ているものであった。また、この授業を進める中で、施設の子どもたちが自分とクラスの仲間がつながれると感じたのか、自分のことを語り始めた。一つの教材が子どもたちにどんな意味を持つのかを十分考慮するなど、教材に対する思いと工夫が必要と実感している。

船坂小学校では学校の授業や行事などにおいて、すべての児童が自ら積極的に参加して達成感を味わうことにより自尊感情を育むとともに、自分で自分のことを決めていく力を身に付けることができるよう取り組んでおり、胸を張ってふるさとを語れる子どもの育成を進めている。

<山口中学校>

 山口中学校は生徒数約600名の中規模校であり施設から通う生徒は約20名である。1997年から、施設の生徒の学力保障を人権教育の中心の一つとして位置づけて、組織的な取組みを始めた。生徒の心を癒す取組みとして、1年時のサマーキャンプや教育相談などを進めてきた。また、仲間づくり・生きる意欲を育てる取組みとして、1年時の施設についての学習や施設の児童会支援や自分史づくりなどを進めてきた。さらに、学力と進路を保障するための取組みとして、施設での学習会や2年時の進路懇談会や卒業後3年間の進路追跡調査などを進め、施設の生徒を支える体制づくりとして、施設との連絡会・懇談会の定例化や小学校との連絡会など施設・子どもセンター(児童相談所)・市教委・小学校との連携を進めてきた。

 施設の生徒は、中学校内では目立たないことが多い反面、さまざまなストレスから施設内では荒れてトラブルを起こすこともある。また、自尊感情が育まれず、自分のおかれている現実を正面から見つめることができなかったり、退所をめぐって保護者に翻弄される生徒もいる。学校として同和教育と同様、差別の現実から学び、子どもたちと「見つめる・語りあう・つながる」取組みを継続的に実践している。

 兵庫県が取り組んでいる「トライやるウィーク」は施設の生徒にとって社会の現実に触れる機会となる。1年生ではそれに向けての職業調べ等を行い、2年生で5日間の体験及び事後指導としての発表学習会を行っている。昨年度、施設の生徒は、自動車工場、倉庫、美容院、コンビニ、自然塾に参加し、発表会や作文を通じて、将来の希望を明確にしていった。しかし、施設での生活ということから自分に劣等感を抱いている場合もあり、生徒に向き合いながら、その実現に向けて少しずつ前進させている。

 施設の生徒の進路指導は中学2年の3学期に行う進路懇談会が重要である。自宅から高校に通学することを希望する生徒が多いが、子どもセンターと施設が協議の上、帰宅できる子どもには家庭生活訓練を行っている。一方、3年生になると、進路に対する不安から生活が不安定になる生徒がいる。学校として「進路の問題はみんなの問題」と捉え指導しており、学力保障の取組みとして放課後学習、早朝勉強会、施設での週2回の学習会を実施しているほか、高校教員による高校生活についての説明会等の取組みを行ってきた。このような取組みを通じて、施設の生徒がお互いに励まし合ったり、自分のしんどさを正面から見つめ進路について考える生徒も出てきた。

 2002年に施設の進学支援基準が設けられ、生徒の希望を尊重した進路選択と18歳までの入所継続が可能になり、進路保障の面で大きく進んだ。この年度の進学希望生は全員進学できたが、新たに中途退学という課題に直面している。施設と高校の連携が難しい場合もあり、進路追跡調査を通じて、中学校から高校への情報提供や配慮要請等を行っている。

 卒業後の追跡調査で明らかになったことは、卒業後のフォローや保護者への対応の体制が十分でないことである。生徒が保護者に振り回される場合もあるが、学校の対応だけでは限界があり、社会的な体制づくりが緊急の課題である。今後とも施設の子を支える中学校として取組みを続けたい。