明治維新の変革により、近世の身分制が廃止され、あらたに近代身分制として編成替えされた。そのことは解放令が出されたものの部落差別がなくならず、近代的な差別に変換もしくは移行していったことでもわかる。
この変革期の部落についての研究は従来、解放令および解放令をめぐる部落の動向と部落外とのあつれき、解放令と戸籍、村の合併・分村、職業選択の自由と草場権の消滅、近代教育と部落など、いくつかの分野にわたって行われ、すぐれた成果も積み重ねられてきた。
しかし残念なことに、その後の研究は一部の例外を除いて、研究がはじめられた頃の広がりと深化をもたらしたとはいいがたい。そのためか、この期の部落史について、かなりのことが解明され、相当の範囲での共通理解が存在するかのような思いこみが研究者の間に見受けられるように思われる。
そこで、以上のべた研究の現状を踏まえ、新しい分野を開拓する一方、新たな視角からこの期の部落を見ていこうとするのがこの研究事業の目ざすところである。
先ず対象とする時期は、近世身分制が大きくゆらぎはじめる天保改革(1841年〜1843年)から、維新の変革により近代的諸制度が次々とつくられてそれが体系を整えた明治憲法の発布(1889年)までとする。もちろん、風俗や慣習や意識のように短時に容易に変わらないものもあるので、すべてをこの時期に限定するものではない。
地域は利用できる史料に制約されることもあって大阪を中心とするが、参加者の関心や利用できる史料によって他府県、中央政府であってもよいとしている。
対象とする分野、テーマは以下に示すごとくであるが、10名ばかりの参加者では到底すべてに取り組めないことはいうまでもない。したがって全体像をとらえることは将来の課題として、いくつかの分野にしぼらざるをえないと考えている。しかしそこからでもこの時期の部落の姿を具体的に描くことができることを願っている。
草場権、農村部落の姿、雑種賤民の行方、土地制度、徴兵令、学制、地域社会における支配構造の変化、町村合併、思想・意識、新聞・雑誌の論調、けがれ意識、宗教・祭礼・葬式、差別事件および解放運動など。