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School-to-Workと教育課程
〜オレゴン州 David Douglas High School を事例に〜

佐藤浩章(愛媛大学総合教育センター)

 本論文は、佐藤浩章氏(現愛媛大学教員)が北海道大学大学院に所属していた98年当時に、第25回全道高校職業教育研究集会でおこなった報告をもとに加筆したもので、現在のところ、同会のHP上からしか手に入れることはできない。レジメにして10枚程度の分量であるが、90年代前半よりアメリカで開始されたSchool-to-Workの実践を州レベル、学校レベルで紹介している点で興味深い論文である。

 School-to-Workとは、1994年にアメリカで制定された『学校から職業への機会法(School-to-Work Opportunities Act、以下、STWO法とする)』に基づき、各州・学区・学校レベルで実践されている多様なプログラムの総称である。本論文は、97年9月に北海道大学の研究グループがおこなったオレゴン州における調査・ヒアリング、収集資料等に基づいて作成されている。

<School-to-Workの教育課程上の特徴>

 冒頭で、佐藤は、このSchool-to-Workの教育課程上の特徴を次の7点にわたって整理している。

  1. アカデミックな科目と職業科目の統合
  2. 学校を中心とした学習と職場を中心とした活動の統合
  3. 必修科目と選択科目の統合
  4. すべての生徒への対応
  5. ポストセカンダリー教育機関への接続
  6. 州・学区・学校レベルでの教育課程開発
  7. 企業との連携

 School-to-Workは、「職業教育とアカデミック教育は相対立するものではなく、両者は相互に関連付けられることで高めあう関係にある」と主張する。それは必然的に、「学校を中心とした学習と職場を中心とした活動の統合」を要請し、それにふさわしいカリキュラムを教育界と産業界が協働で創造していくことを求める。

  また、このSchool-to-Workプログラムは、「すべての生徒」を対象に実施されるものであり、「就職・進学如何に関わらず共通の教育を行うと同時に、各個人の進路選択に対応できるように選択科目が用意されている」点が注目される。

  職業教育は「経済的・学力的に低階層の」大学非進学者のために準備されるものという旧来の発想は、そこにはない。産業技術の高度化によって、高度な思考力や創造力等がすべての労働者に必要とされる時代になったのである。

  そのため、School-to-Workは、卒業後のさまざまな中等後教育(ポストセカンダリー教育)機関との接続制度を作り上げ、生徒の上級学校への進学を積極的に奨励している。

<オレゴン州 David Douglas High Schoolの教育課程>

  これらの諸特徴が現実の学校においてどのように具体化されているのか。本論文では、School-to-Workに先進的に取り組んできたオレゴン州の David Douglas High School(以下、DDHS)の教育課程とその実践を挙げて説明している。

 DDHSは、ポートランド市内の中下層労働者やエスニックマイノリティが多く住む地区にある。同校でSchool-to-Workプログラムが導入されたきっかけは、現在の教育課程が「大学に進学しない約80%の生徒たち」に本当に役立っているのかどうかを教師たち自らが問い直しはじめたことであるという。その結果、教育課程の作成も、教師はもちろんのこと、教育委員会、親、商工会議所等の経済界、大学人等が参加する協働プロジェクトがおこなったという。

  プログラムの詳細は本論文をご覧いただくとして、せいぜい数日の職業体験学習やインターンシップでお茶を濁している日本の『キャリア教育』の現状とDDHSで実施されているSchool-to-Workプログラムとでは、その規模と内容・系統性、徹底性において根本的に異なると言えよう。

  「この学校では、生徒が学外に出ることはしょっちゅうです。…学内にもビジネスがあるので、そこでも実習をやります。レストラン実習、Child Care室での保育実習、購買実習、お昼の軽食販売。ホテル・観光ツアーなどの予約販売実習では、学校バンドのカリフォルニア演奏旅行、レスリングチームのハワイ遠征旅行の段取りや添乗を実施しました。」

  また、そこには、生徒たちが将来の職業との関係において、今、何を学ぶべきかについて真剣に考える姿がある。企業見学等による「職業探索」を体験した生徒の感想である。

 

 「コミュニケーションと相手の話を聞く技術が重要だと思いました。」

 「職業探索の授業は、私が今、学んでいることがどのように将来使われるのかを見せてくれました。だから、今学んでいることに本当にもっと関心を持つべきだと思いました。」

 「ここでは、学校で学んだことにぶつかるし、それをすることになるのよ。薬を扱うのだったら、数学が本当にできなきゃだめなのよ。」(病院実習に参加した看護婦を目指す生徒)

 School-to-Workの実践は、単なる就職支援政策にとどまらず、「教育界と経済界との共同による、職業を中核とした教育実践総体の構造改革」として位置付けられている点に注目しておくべきであろう。

  ところで、本論文の最後に、筆者である佐藤は、上記のSchool-to-Workの取り組みから見えてくる日本の高校教育の問題点をいくつか列記している。なかでも、「生徒観の問題」にかかわっての次の指摘には考えさせられずにはいられないだろう。

  「日本では職業教育を中等教育段階から導入することについて懐疑的な意見が多い。15歳の子どもに自分の進路を決定させるのは無理ではないかと。しかしそうした善意の教育的配慮が、逆に青年が大人になることを妨げているように思われる。School-to-Workは、青年から大人への移行を積極的に促す。Olsonの以下のコメントは示唆的である。」

 「School-to-Workプログラムを取った生徒たちから繰り返し聞いた目立った台詞は、このプログラムでは、自分たちは大人として扱われるから大人のように振舞うのだということ。彼ら/彼女らが言うには、普段の高校では、9歳児のように扱われるから、それに従って行動してしまうことが多いと。」(Olson)

 さて、本論文では随所に、Linn Olsonの著書《The School-to-Work Revolution(日本訳『インターンシップが教育を変える』雇用問題研究所編)》からの引用がちりばめられている。アメリカにおける『学校から職業への機会法(School-to-Work Opportunities Act、以下、STWO法とする)』の現況がより詳しく述べられている好著である。あわせてご一読されることをお勧めする。