調査研究

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「キャリア教育の意義」

元木 健

  「キャリア教育」が誕生したのは、1970年代のアメリカ。それは「教育の本質を変えるような大きな試み」(元木)であったという。背景には、「当時のアメリカにおける第一線の生産技術が低下し、国際的な競争力が弱くなって来ていたこと」と、マイノリティの人々を中心として「就業に必要な教育を受けていない大量の労働者の失業問題の解決が迫られていた」という要因があった。

  キャリア教育の提唱者、連邦教育局長官のマーランドは、1971年当時のアメリカ教育の「教育計画・内容の分化・陳腐化、教育成果の低下」を嘆き、次のように提起した。

   「もっとも悲しむべきその例は、知的教育と職業教育の分離である。それを改める第一段階として、われわれ教育者が職業教育というのをやめ、以後、キャリア教育ということを提案する」「すべての教育はキャリア教育であるべきである」と。

  キャリア教育とは「従来の一般教育と職業教育の分離の思想、いわば教育体系の二分法的なとらえ方から、両者を一体的に捉え、一元的な教育体系を構成しようとした」ものであり、まさに「教育観の転換」そのものであったといえよう。

  本欄では、キャリア教育の具体的内容を詳細に述べる余裕はない。しかし、一般に「キャリア教育=職業教育・技術教育」という受け止め方が多い現状では、元木の次の指摘はきわめて重要である。

  すなわち、キャリア教育は、職業教育のための技術教育のみを強化することではなくて、「《自己の探求》つまり自分が如何なる人間で、社会の中で如何なることが出来る人間なのかということを、客観的に認識すること(=「自己概念」の確立)を先ず求めている」のであり、そのことが「相手の心情を知り、相手の立場になってものを考える」という「他者を理解する」ことにも?がるのである、と。

  元木は、ここに差別克服のひとつの可能性を展望しており、したがって「キャリア教育」の中に「人権教育」と通底するものを見出しているのである。解放教育・同和教育の視点から我々が「キャリア教育」を構想する際、重要な視座がここにあるのではないだろうか。